Go Forward

数理のチカラ - 橋本 直

タブレットで現実世界を自由に操れる?

明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科 橋本 直

パソコンで画像を加工・編集するように、現実の世界をITツールで自由自在に変化させることはできないものか。例えばタブレット端末で、インテリアの色を気分に合わせて変えたり、家事ロボットを操作したり。そんな時代がやがて訪れるかもしれません。



今、コンピュータの世界では、拡張現実感(Augmented Reality=AR)という言葉が大きなキーワードになっています。バーチャルリアリティがコンピュータによってつくられた架空の世界を体験する技術だったのに対し、ARは現実世界にコンピュータがつくりだした情報を重ねることによって現実世界を拡張し、そこに新たな価値や機能を付与する技術です。例えばスマートフォンを通して風景を見ると、そこから見える建物に関する情報が表示される、といった技術はすでに実用化されています。今後は単に情報を表示するだけでなく、ユーザーの指示によって、実世界が物理的に変化する技術も開発されていくでしょう。例えば、ロボットにスマートフォンやタブレットをかざすと、カメラ映像越しにロボットをタッチ操作で誰でも簡単に操れる。私は今、そんな技術の研究に取り組んでいます。




コンピュータはこれまで、ゴミ箱やフォルダーといった現実世界のメタファーを情報処理の世界に取り入れてきました。これらはコンピュータになじみのない人でも親しみを持って理解できるようにするための工夫でした。一方、現代では、生まれた時からパソコンやインターネット、デジタルゲームなどが身近にあり、それらを使いこなすことに長けた「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代のユーザーが増えてきています。彼らにとってなじみがあり、ごく自然な右クリックやドラッグ&ドロップ、セーブ&ロードといった、コンピュータの世界から生まれた操作方法や概念を、現実世界に適用するための方法を探究しよう、というのが私の研究です。



私は、ペイントツールのようなインターフェイスで、現実の部屋の照明を自由自在にコントロールする研究に取り組んでいます。沢山の照明の角度を微妙に調整して行う舞台照明のような職人芸も、このツールがあれば誰でも直感的に行えるようになります。
またセーブ&ロードといった考えを現実に適用するとどうなるでしょう。あらゆる生活の情報がライフログとしてセーブされ、例えば「5時間前」の現実世界をロードすることができるとしたら、これはもはや擬似的なタイムマシンといっていいでしょう。



今後、現実世界とITの世界の融合が進めば、現実世界を自分の思い通りに加工・編集できるようになるかもしれません。そのためには位置情報・画像認識技術、膨大なデータを扱う高速演算アルゴリズムなどのさらなる進化も必要です。先端メディアサイエンス学科は、最先端の数理テクニックを駆使して、それまで世の中になかった新しいものをつくる研究に携われるエキサイティングな場所です。
(了)

数理のチカラ : 先端メディアサイエンス学科

他にもこんなテーマを紹介しています。

自分が主人公のCGを一瞬でつくれる?
日常生活×インターネットで未来の日常をつくる
数理でお肌を整える?デジタル時代の美顔術
先端メディアでつくる未来