小職は政策過程の研究として「トランジション(transition)」に着目してきました。日本語では移行や変革などと訳されることもあります。トランジションは欧州、特にオランダの研究者や実務家が構築してきた概念で、まず、社会を3層構造でとらえることから始まります。
上段に長期トレンド(地球温暖化、少子高齢化など)、中段に社会のさまざまな仕組み(法制度、文化・習慣、インフラなど)、下段に個人を置きます。個人は社会の仕組みに制約を受けて行動しますし、社会の仕組みも長期トレンドに合ったものでなければ持続可能ではありません。逆に、個人が集まって社会の仕組みを改良したり、社会の仕組みが長期トレンドに影響を及ぼしたりすることもあります。
この「相互作用」が円滑に機能していれば、均衡のとれた社会が実現しているはずですが、現実には、中段にある社会の仕組みの変化が遅いことから、様々な問題が生じます。たとえば地球温暖化への対応(たとえばパリ協定の「脱炭素」)が必要だとわかっていても、産業革命以降に発展した化石燃料に依存した社会の仕組みはなかなか変わりません。
長期トレンドに合わせて社会の仕組みが変化することトランジションと言います。このトランジションを適切な方向へといかに加速できるかについて、特に地球温暖化対策の文脈で研究されています。小職もここ数年、マイカー依存から自転車利用へのトランジション、持続可能なまちづくりへのトランジションなどを、アクションリサーチ(実践的研究)として研究しています。
しかし社会の仕組みはそう簡単には変化しません。小職の数年の実践でも目に見えるトランジションは起きていません。しかしこのコロナ禍により、わずか1~2か月の間に大規模なトランジションを私たちは経験することになります。