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国際日本学部

「和食は、WASHOKUとなりえるのか:日本食文化の世界発信をめぐる学際的日本研究とその実践」(眞嶋ゼミによる文化庁との連携プロジェクト成果発表①)

2023年11月17日
明治大学 国際日本学部

文化庁訪問文化庁訪問

取材・撮影時の様子取材・撮影時の様子

ジェームス・ランビアーシ先生ジェームス・ランビアーシ先生

眞嶋ゼミでは、文化庁による「和食の保護と振興」に関する調査と連携し、約2年間、上記のテーマに取り組んできました。

皆さんは“和食”と“WASHOKU”、この2つの違いをどう捉えていますか。
 

2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された和食。和食の文化遺産化は、和食の価値が認められながらも、日常生活における食文化としての原型は喪失されつつある、いわば和食をめぐる華麗なる衰退の一途を指し示しています。国外においては、いや、国内においてさえもカリフォルニア・ロールをはじめとする“SUSHI”の台頭が物語るように、日本食文化のグローバル化とグローカル化が展開されて久しい今、その変容と喪失の過程で浮き彫りになるもの、そしてその先にあるものとは一体何なのでしょうか。
眞嶋ゼミでは、日本に約30年在住する米国人建築家のジェームス・ランビアーシ先生に取材し、ランビアーシ先生の日本での体験から本課題を捉えるための視座を構築する機会を得ることができました。今回は、本プロジェクトの一部となる、眞嶋ゼミ生たちによる取材を3回に分けてご紹介致します。
 
【第1回動画】

眞嶋ゼミでは、昨年度から、遺産化されつつある和食の保護と振興を目的としたプロジェクトに着手し、在日米国人建築家ジェームズ・ランビアーシ先生へのインタビューを行いました。その過程で、日々暮らしているだけでは気づくことのなかった日本の特異性について知り、食だけでなく、日本における多くの問題は有機的に繋がりあっているという大きな気づきを得ました。眞嶋ゼミでは、研究成果報告としてこれらのプロジェクトから見えてきた日本についての記事を3回にわたり挙げていきます。今回は1回目です。
 
インタビューの冒頭では、ランビアーシ先生と日本の出会いについてお伺いしました。インタビュー内容に関連して、来日当初の印象的だったエピソードを複数お話いただきました。この場を借りて一部のエピソードを紹介させていただくとともに、先生の視点を通じて見えてきた日本と食、そしてジェンダーをめぐる側面について記します。
 
1986年、高校卒業後の夏休みに日本で2週間ホームステイを経験したランビアーシ先生は、ホームステイ先で驚いたこととして、ホストマザーが朝食を準備していた様子を語ってくださいました。先生が育った70年代のアメリカでは、コンフレークをはじめとしたシリアルが主流であったため、朝食は各自で用意するものでした。そのため、母親が台所で朝食を準備する様子は特異に映ったことです。日本で生まれ育った人々にとっては、当たり前の光景かもしれませんが、それを当たり前としないこの視点は私たちに新たな気づきを与えてくれるものであり、女性と台所の密な関係性は和食の衰退の背景を考える上で、重要な示唆に富んだものであると考えます。
 
和食が衰退する背景を考える際、日本社会における食の担い手が誰であるか考えることが有効でしょう。その担い手は、多くの場合、母親ではないでしょうか。そして、その味はかつて母から子へ受け継がれていくという性質を持ち合わせていたと言えます。しかしながら台所に立つ女性によって受け継がれてきた和食は、生活スタイルの変化や女性の社会進出と共に、簡便化を過度に要求するようになる一方、母親が唯一の担い手であり続けたゆえにその存在を維持することはできなくなったという側面があります。
 
また、和食の振興の可能性を検討する上でキーワードとなり得るのが、「慣れ親しんだ味」との類似性です。実際、ランビアーシ先生は、来日当初から揚げ物である天ぷらは食べることができた一方で、在日約30年の現在でも未知の食材であった海苔を単体で食べることはないと言います。この慣れ親しんだ味というのは、幼少期から形成される食の記憶であり、一度形成された時点で変わることはないでしょう。その担い手は多くの場合家庭であり、日本における家庭の食の担い手は母親です。時短の対象となった調理の過程から和食は長きにわたって不在となり、家庭における和食離れが定着している昨今、「慣れ親しんだ味」の変容=日本人の食嗜好も変容し、日本人の間ですら和食離れが歯止めのかからない状態になっているのではないでしょうか。
 
以上、ランビアーシ先生へのインタビューを通じて、日本社会における食とジェンダーの密接な関わりが明らかになり、和食の衰退にさらなる拍車をかけているのではないかという仮定に至りました。ランビアーシ先生へのインタビューは、私たち学生が日常生活で気づき得ない視点を発見するとともに、無意識に受容している考えに、疑問を抱き、捉え直す大変貴重な機会となりました。私たちが当たり前だと考えている日常は「異常」で溢れているかもしれません。(眞嶋ゼミ4年 榎原志織)

1年間かけて本プロジェクトの基礎にあたる学びを行い、文化庁の訪問、ご協力下さった味の素食の文化センターの訪問、ランビアーシ先生との事前打ち合わせ等を行いました。取材に当たってはゼミ生たちが、学年を超えたゼミでの議論を重ねた上で、ゼロから企画内容を練り、撮影や編集も友人の力を得ながら作成しました。改めてご協力くださった関係者の方々に心から感謝申し上げますと共に、眞嶋ゼミ生たちによる取り組みが、“和食”と“WASHOKU”の未来だけでなく、日本社会、そしてこの世界の行方を捉える一助となって、これからも共に学び続けていけることを願っています。(国際日本学部専任准教授 眞嶋亜有)