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国際日本学部

『ミステリと言う勿れ』の作者 田村由美先生をお招きしてリクエスト講義を行いました

2023年02月01日
明治大学 国際日本学部

ミステリと言う勿れ1巻ミステリと言う勿れ1巻

 『漫画文化論』(藤本由香里)では、2022年7月21日、昨年、菅田将暉主演でドラマ化もされ、評判となった『ミステリと言う勿れ』の作者である田村由美先生をお招きしてリクエスト講義を行った。『ミステリと言う勿れ』は、一見のほほんとした大学生の主人公・整(ととのう)くんの、思わずはっとするような鋭いセリフが印象的な、細部まで考え抜かれたかなり複雑な物語である。講義では藤本教授が田村先生に質問していく形で、このような物語がどのように組み立てられていくのかを中心にお話をうかがった。
意外なことに、『ミステリと言う勿れ』は最初は読み切りのつもりで、田村先生は別の新連載を始める予定になっていたが、あまりに読者の反響が大きく、決まっていた新連載をとりやめて、こちらを連載していくことに決まったという。別の連載の合間に読み切りとして書き継いでいくという選択肢もあったが、本格的な連載にするためには、何か全体を貫く大きな謎が必要だ、というので、それまでも登場していた星座のモチーフをその謎の中心に置いたのは、爆弾魔の話あたりからだったという。個々のお話は、取り調べ室での話、バスジャックの車内での話、屋敷の中での話、記憶をなくした爆弾魔との雨の中の会話……という形で、まずシチュエーションから考えて肉付けしていく、と、その創作の手順が詳細に語られた。また、「感想は1人1人違うものだが、そこには、その人の考え方や立ち位置が現れるので、ほんとうは怖いものだ」という指摘も非常に印象的だった。
教室には、連載誌である『フラワーズ』の担当編集者さん、そして声優の佐々木望さん(田村先生の作品のアニメ化にあたって『BASARA』の浅葱、『7SEEDS』の新巻などを担当)もいらしてくださり、『ミステリと言う勿れ』で大きな鍵を握るマルクス・アウレリウス『自省録』を田村先生に紹介したのは、じつは佐々木望さんだったことなどが明かされた。また、声優とは言葉を発していない時もキャラクターの生を生きるものであり、それはマンガ家が作品では描かれていない部分もキャラクターの生活を頭に置いているのと同じだ、というお二人の意見の一致は興味深かった。担当編集者からは、田村先生はアイディアが尽きない作家であること、ネームから完成までの間にもよりよい作品にすべく、最後まで粘り強くブラッシュアップを重ねていく創作姿勢などが語られた。田村先生が、常に物事をいろんな方面から多角的にじっくりと考え、観察していること、けっして決めつけようとしないこと、などが伝わってくる講義であった。

【学生の感想】
「読者の声で連載が変わることがあるんだ!というのが驚きだった」「主人公の人と違う視点が当たり前を疑わせるもので気づきが多い。田村先生がそれだけ人を見ているということが、お話から実感できた」「田村先生のすごさや、その仕事ぶりなどを聞けたことで、プロの漫画家さんが実際どのように考え、描き、物語を作り上げていくのかが理解できた」「ドラマを家族で見ていた。練り上げられたセリフがほんとうにすごい!」「担当編集者さんや声優さんの話も、ふだん聞けない話なのでとてもうれしかった」などなどの熱い語りと、田村先生の観察眼や洞察力のすごさがこうした作品を生み出してきたのだと改めて実感した、という感想が多数見られた。