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国際日本学部

島根県の津和野町で/をアートベース・リサーチ

2025年03月31日
明治大学

写真1:2024年11月のフィールドワーク写真1:2024年11月のフィールドワーク

写真2:共同実施者の「グラントワ」のみなさん、「つわの学びみらい」のみなさんとディスカッションの記録写真2:共同実施者の「グラントワ」のみなさん、「つわの学びみらい」のみなさんとディスカッションの記録

写真3:ABR実践のコラージュ実践の様子写真3:ABR実践のコラージュ実践の様子

写真4 ABR実践の開発ミーティング(大学キャンパスにて)写真4 ABR実践の開発ミーティング(大学キャンパスにて)

写真5 中野区での実践の様子写真5 中野区での実践の様子

岸ゼミでは、アート手法を用いた研究—アートベース・リサーチ(ABR)に取り組んでいます。その一環として、島根県津和野町でのABR実践を行いました。本事業は、島根県芸術文化センター「グラントワ」と一般財団法人つわの学びみらいとの連携のもと実施されました。

▶︎実践の目的
本ABR実践の目的は、アート手法を用いて、津和野とその周辺に住む人々とともに津和野町を探ることでした。津和野町を誰かが一方的に記述するのではなく、さまざまな視点や背景を持つ住民自身の視点、感情、フレームを通して描くことで、その魅力、強み、価値、課題、可能性など、一人では見出せなかったものを集団的に発見することを目指しました。

▶︎アート手法による探究の特徴
フォーマルな場では、「完成した考えでないと表現できない」という暗黙のルールがあり、「誰か意見がある人、明確な考えがある人」だけが発言しがちです。しかし、アート手法を用いた探究・研究実践では、誰かが発した声や行動を、みんなで「完成」させていきます。だからこそ、まだ形になっていないアイデアや曖昧な感覚でも共有しやすく、それらがつながり声になっていくのです。みんなで声を完成させていくことができる場では、「遊びを一緒につくっていく」ように、「声を一緒につくっていく」ことができます。そのためには、一緒に遊べる関係性や、「自分も何かやってみたい」と自然に参画できる「隙間」のある場がとても重要になります。

▶︎津和野での実践概要
津和野町でのABR実践の一つ「コラージュを用いた津和野町探究」の実践デザインは、岸ゼミの土屋志恵留さん、矢木穂乃果さん、徳永和香さんが企画・準備を行いました。2024年11月には津和野町へフィールドワークに赴き、地域の住民、移住者、高校生などさまざまな人々から話を聞きました。当初は「過疎地域が抱える問題を解決する方法は?」という問いからスタートしましたが、地域の人々と対話を重ねる中で、問題解決のアプローチではなく「好きの交換」が人と人、人と地域をつなげることに気づき、そのための活動を考えました。

▶︎コラージュによる探究活動
11月の津和野町フィールドワーク後、3名(土屋、矢木、徳永)は、コラージュという手法を使った地域探究を企画しました。3人は、同じゼミの仲間の協力を得てプレ実践を行って実践を改良し、次に学部の学生を対象に実践を行い、さらにアレンジを加えて、中野区との事業でも実践しました。
コラージュという手法によって、参加者は「自分にとって大切だと思う『好きな場所』」を、雑誌や言葉、色などで表現し、それを交換することで、単なる情報交換にとどまらず、制作者の思いや経験が表現され、その人の体験とともにその場について触れ合うことができることがわかりました。

▶︎3月22日(土)の本番で
本番となる3月のABR実践には、3人の学生たちは参加できませんでしたが、本学の岸磨貴子教授、萩原健教授をはじめ、アートベース・リサーチに取り組む実践者や研究者がチームを組んで現地で実施しました。本番のABR実践のひとつに、学生が企画した「コラージュを通した好きな場所の交換」を行い、その活動を通して、さまざまな人々の目線から見える津和野町が可視化され、感じ方や経験が異なるからこそ、その魅力を再発見することができました。

▶︎コラージュを通した好きな場所の交換ABR実践を企画して
▶︎土屋志恵留さん
企画当初、コラージュを用いて取り組んでみたいと考えたとき、今まで取り組んだことがない人にとってハードルがかなり高いものになってしまうのではないかと懸念していました。しかし、中野で実施したイベントでは、2日間で合わせて約40枚のコラージュができあがりました。制作したコラージュは、交換できるように「ガチャガチャ」に入れ、200人以上の人がそれを引いて、誰かの「好きな場所」を持ち帰ってもらえました。コラージュはマップとともに掲示したので、それを見て実際に足を運んでくれた方もいました。このイベントを通して、中野に回遊性を生み出せたのではないかと感じ、私自身もこのイベントやコラージュがあったからこそ生まれた会話があったと実感しています。そして、この取り組みをはじめるきっかけとなった島根県津和野町でも、同時期にコラージュを用いた「好きな場所の交換」が実践され、同じように回遊性を生み出せたことをとても嬉しく思いました。今後もより改善を重ね、コミュニティづくりに貢献したいです。

▶︎矢木穂乃果さん
11月の津和野町でのフィールドワークは、「過疎地域はどのような課題を抱えているのだろうか?」という視点でスタートしました。ですが、津和野町の住民の方々との対話を通じ、津和野の方々は課題への意識以上に、「津和野町の人が好き・津和野町の自然が好き・津和野町のあたたかさが好き」など、沢山の「津和野町への”好き”」を持っていることが分かりました。そこで、住民の方々が互いの「津和野町への”好き”」を共有し合い、その”好き”をみんなで守っていこうという意識を持つことで、自然と課題解決にも意識が向いて行き、津和野町の幸せな未来へ一体感を持って進んでいけるのではないかと考えました。
企画当初は、単に「自分にとって大切だと思う『好きな場所』」を住民の方々に文章のみで表現してもらおうと考えていましたが、使わなくなった雑誌やチラシの切り抜きを使ったコラージュを「好きな場所」を伝えるための手法として追加しました。コラージュを用いることで、言葉では表しきれない「直感的な”好き”」が表現しやすくなったのではないかと思います。また中野区の実践では、住民の何名かの方が中野区の同一の場所を「好きな場所」として挙げていました。しかし、その表現はまさに十人十色で、同じ場でも人が目を向けるもの・感じることは異なってくるのだと感じました。同じ生活圏で同じライフスタイルを持っていても、人それぞれ違う想いを持っているということは、当たり前ではありますが忘れてしまいがちです。まちづくりの活動では、人をまちの単位で括って考えようとせず、個々人の想いを尊重することを忘れないようにしたいと改めて思いました。

▶︎白石 邦広さん(本企画者・コーディネータ)
この企画を立てた時、人々に対して「変わらないと大変なことになる。変わらないとやばいよ」という外的な圧力を与えるスタンスでアプローチしていました。しかし、共同実践者のグラントワのみなさん、明治大学のみなさんなど、いろんな視点を持つ人たちと一緒に町を歩き、人の声を聞く中で、まさに、視点が変換されました。どうしたら「変わりたい」と思ってもらえるかを考え始めた瞬間だったと思います。外的な圧力よりも「変わりたい」と思う人々の心の動き=内的な力の方が、変化の動機としては強いですよね。
同じ場所についてであっても、人が変れば思い出も、表現の仕方も異なります。移住者の私が見る視点、ずっとこの土地に住んでいる人が見る視点、Uターンされた人の視点、子ども、若者、そして、東京からきてくれた明治大学の学生たちの視点。これらが重ね合わさって、まさにその場所の新たな魅力が見出されていく過程を目の当たりにすることができました。新たな魅力の発見は視点の転換にもつながりますから、皆で津和野町の未来を思い描く上で貴重な経験を共有できたと思います。