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PICK UP 教養デザイン 「修了生が語る」

自分の持つ問題意識を顕在化させる場所

「平和・環境」領域研究コース 博士後期課程2018年3月修了

学部学生時代は何を学んでいましたか。



化学工学という、石油化学関連の工場の全体計画や、個別の装置設計についての学問を学んでいました。1977年当時の日本は高度成長のまっただ中で、石油化学を中心とした装置産業は急速な発展を遂げており、日本の経済発展の旗手として日本国内から国外にその生産基地を拡大していく時期でした。同時に、このような装置産業は、公害と呼ばれた環境汚染の元凶ともみなされていました。私自身は、戦前の中国からの留学生であった父から、日本の優れた科学技術を学び、将来中国の経済建設への貢献をすることを期待されていたことと、同時に科学技術と現代文明のあり方と言った問題にも興味があったことから、実際の産業に関わる学問として化学工学を選びました。化学工学を学ぶと同時に、当時の公害問題や、科学技術論についてのいろいろな活動や勉強会にも参加し、とにかく自らを現場におくことで、それらの課題に対して自分なりの回答を見つけていきたいと思っていました。友人たちからは、文系の人間と思われていたようですが、人文系の学問は自分で勉強できると考え、理科系の学部を選択したという、今から振り返ると若さゆえの不遜な考えでした。
教養デザイン研究科への進学のきっかけ、動機を教えてください。



35年間、エンジニアリング会社という化学工学で学んだことを最も活かせる場所で多くの経験を積み、それを定年までやり続けるのか、或いは心身ともにまだある程度の力が残っている段階で、もう一度違う事にチャレンジするかを悩み、後者を選びました。先ずは何をするにも人文系を中心とした教養の基礎を身につける事が必要だと考え、候補としてリストアップした中に明治大学教養デザイン研究科がありました。当初、教養のスタートとして自分自身ある程度素養があると考えていた儒教から手掛けていこうと考え、何冊か読んだ本の中に教養デザイン研究科の加藤徹教授の著書があり、ご連絡させていただいたところ、一度ゼミを聞きに来てはどうかと言っていただき、それが受験のきっかけとなりました。
教養デザイン研究科ではどのようなことに重点を置き、研究や学びを進めていましたか。
社会人としてグローバルなビジネスの最前線で仕事をしてきた経験もあり、それなりに本も読んでいた自負はあるものの、研究者として自分の知識や考え方がどの程度通用するのかをまず客観的に把握する事が重要でした。この為に、教養デザイン研究科のゼミに加え、シラバスを見て興味を持った大学の学部の授業も聴講し、自らの知識と考え方のレベルの把握にまず努めました。幸い、教養デザイン研究科自体が学際的な学問への取り組みを意図した場所であり、視野を広げると同時に、それぞれの分野での基礎的な知識とは何かを比較的効率的に理解することが出来たように思います。その中で、自分のテーマとして徐々に明確になってきたスポーツ社会学の領域については、教養デザインにも明治大学にも該当するゼミが当時見当たらなかったので、他大学での聴講を通じて学ぶことをしました。卒業のための資格よりも、学びたい中身に触れることが出来れば良いという、シニアだからできる贅沢だったと思います。自分が研究者として何かプロダクトを出すのに8年という時間を設定しました。22歳で大学院に入って、早い人は30歳頃に最初の業績を挙げるわけです。私は57歳でスタートしたので65歳までに何かプロダクトが出せれば十分以上の結果だという時間設定をしました。
教養デザイン研究科で学んで良かったことを教えてください。
学際的な幅の広さが最大の特徴だと思います。同じテーマにしても、文学として取りあげるのか、社会学として取りあげるのか、思想・哲学として取りあげるのか、自然科学的な側面をみるのか、分野によってアプローチも異なれば、研究としての評価基準も全く異なります。教養デザイン研究科の教授陣は、各々自らのアプローチを示されるのが基本で、研究科としての統一的なコンセプトを創り上げることにはあまりこだわっておられないようでした。これから自らの研究分野やテーマを見つけていこうとする若い学生にとって、自分の切り口や方法論答を見つけるには厳しい環境のように思えますが、私のようなある程度テーマが見えている社会人学生にとっては、多面的に物事を見たり、思わぬところからヒントをもらえたりする、縛りの少ない恵まれた環境だったと思います。
教養デザイン研究科での学びで、現在のお仕事に活かされている点はどんなところですか?
現在は、博士論文としてまとめた内容を、一般書としてなるべく早く出版することを第一の目標として設定しています。教養デザイン研究科における初の博士号取得者として、知財・戦略機構の客員研究員というポスドクとしての居場所を準備していただきました。出版に加え、学会や研究会での発表や、新たな論文の投稿等を引き続き行い、最終的には博士論文で取りあげたテーマを、実際の社会制度の中に落とし込んでいくための活動を続けていこうと思っています。
現在のお仕事について、また、大変なことや、やりがいを感じることを教えて下さい。
現在与えられている客員研究員という立場は、基本的に自分から何をやるかを決めて展開していくための仮の宿だと考えています。正直、大学院生の時よりも、研究に関する環境は劣化していますが、科研費の申請にも取り組み、自ら改善していくことに取り組んでいきたいと思います。
今後の目標や、目指していることを教えて下さい。
本を書くこと、論文を書くこと、学会や研究会で発表をすること等を通じて、新たなご縁が生まれ、私がテーマとしているコミュニティ・スポーツクラブを日本に根付かせるために何らかの貢献ができる仕事ができればと思っています。

プロフィール

氏名:張 寿山
所属(研究科コース):教養デザイン研究科「平和・環境」領域研究コース 博士後期課程 2018年3月修了
研究テーマ:コミュニティが所有するスポーツクラブの事業展開とソーシャル・エンタープライズ
学位:博士(学術)
現在の勤務先:明治大学研究・知財戦略機構 リベラルアーツ研究所 客員研究員

明治大学大学院