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PICK UP 教養デザイン 「学生が語る」

教養デザイン研究科は、人類が直面する諸課題を包括的に探究するため、「思想」、「文化」、「平和・環境」の3つの領域研究コースを設置しています。
今回は、「平和・環境」コースの学生に語っていただきます。

「教養」のもとに、専門分野での「智」を深める

「平和・環境」領域研究コース 博士後期課程 宮本 司



私は、日本人のアジア認識、つまり、日本人が「アジア」をどのように捉え、歴史的にそれとどう関わってきたかについて研究しています。「アジア」と日本の関係性を考えることとは、「他者認識」であると同時に、否応なく「自己認識」の問題でもあります。そこからして、日本人における観念的でもあり実体的でもある「アジア」認識自体を対象化するのは、過去から現在、またこれから先も重要だと言えます。

具体的な研究の対象は、戦後日本のある時期まで大きな影響力を持っていた、竹内好という中国文学研究者の、「日本のアジア主義」(原題:「アジア主義の展望」、1963年)という論文が現在までどのように読まれてきたか、また、その中で提出された問題自身の再検討です。その論文は、むしろ時代の反動化を招いている左派側の脆弱さを克服するために提出されたものであり、その意味では、「戦後」の鍛えなおしとして、日本人の主体性を問うたものでもあります。この論文で、戦前日本の「大陸侵略」の片棒を担いだ「アジア主義者」の問題の再考をせまった竹内は、往々にして、“ナショナリスト”として批判されますが、それは、当時の言論空間での竹内による、状況的でアクチュアルな「実践課題」/「方法」としての問題提起の意味を捨象しているようにも思えます。

現在、「親日」/「反日」という白黒式の短絡的な「価値判断」による対外認識が横行すればするほど、上述したような問題軸の射程は現在まで伸びているように感じざるをえません。そのような「日本人のアジア認識」の問題とは、カッコ付きでの単体分野に割り切れるものではなく、単なる専門的知識の「集積」だけでなく、そんな知識を根底でつなぐ問題意識や幅の広い視野が必要となります。



しかし、そのような態度は、ややもすれば「広くて薄い」あるいは「表面的」になってしまうのでは、という指摘があるかもしれません。しかし、幅の広い視野や問題意識という意味での「教養」は、学問の専門的な深さを求める際にも不可欠です。言い替えれば、そのような基礎としての「教養」こそが、最終的な学問の質を決定づける条件として存在せざるをえません。

また一方では「実用主義」や「実学」重視の風潮のなかで、このような“不可視”的教養は、価値を失ったかのように多々語られますが、“実用”的な技術や能力が、総合的な力の一つの結果としてしか存在しえない以上、それが、ものごとを常に広い視野から深く考えようとする態度や意識と連関しているのは確かです。だからこそ、本質的に言えば、実学を重視するのであれば、基礎としての「教養」のプレゼンスも高まらざるをえません。

そのような研究を進めるうえで、本教養デザイン研究科には、非常に恵まれた環境があるといえます。つまり、自らが「考え」、それを発展させていくための「教養」を鍛える知的訓練の場が用意されています。指導体制についていえば、文学・思想、歴史学、政治学、社会学、言語学、民俗学、文化人類学、地理学、環境学、工学などを専攻する各分野のトップで活躍されている優秀な先生方のもとで「専門性」にとらわれずに幅の広い学知を得ることができ、その「教養」のもとに、専門分野での「智」を深めていくことができる学習環境があります。これは他の研究科では得られないでしょう。自らの知的関心を多角的な方向・アプローチで学問的に発展させたい、もしくは自らの問題意識を“専門”的な領域内のものとしてのみ扱いたくない、という方には、本研究科への進学をお勧めいたします。

明治大学大学院