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特別講義実施報告

テレビ番組取材から見た「論文捏造」と科学界 ~米・ベル研究所事件を例に~

講師:村松 秀(むらまつ しゅう)氏  NHK編成局 コンテンツ開発センター チーフ・プロデューサー

研究不正が後を絶たず社会的にも関心が高まっていることを背景に、文部科学省では、従来の研究不正に関するガイドラインを見直し、平成26年8月に新たに、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(文部科学大臣決定)を定めた。教養デザイン研究科では、研究倫理教育の一環として、研究不正に関する秀逸なドキュメンタリー「史上空前の論文捏造」(2004年10月9日放送)をディレクターとして作成され、それに関する単行本『論文捏造』(中公新書ラクレ、2006年)を出版されたNHKのチーフ・プロデューサーの村松秀氏に特別講義をしていただいた。これらの作品は10年以上前に作成されたにも関わらず2014年に起きたSTAP細胞問題に構造的に似ているということで、再び注目されている。

ドキュメンタリーは、2002年に米国で起きたベル研究所事件、あるいはシェーン事件などと呼ばれる若き物理学者による大規模な論文捏造(63篇の筆頭論文すべてが不正)を扱っている。関係者の証言などの迫真に迫る取材過程の紹介を交えて事件の要点を村松氏がわかりやすく説明され、受講者は食い入るように話に聞き入った。地道に実験研究を重ねるはずの実験系の研究者がなぜこのような捏造に手を染め、それを学会や学術雑誌に関わる専門家集団が見抜けなかったのか、科学研究のチェック体制の脆さに驚くとともに、なぜこのような論文捏造が繰り返されるのか、対応策はあるのか?いずれも容易に答えられそうもない疑問が次々と浮かんでくる。

2015年5月21日 和泉図書館ホールにて

村松氏は、現代社会における科学という営みが、成果ばかりが重視される中で、真実を追い求めるという科学のあるべき姿から離れているということを指摘された。そして後半には村松氏の立ち上げたすイエんサーというNHKの番組を紹介された。これは、科学は結果だけでなくプロセスこそが重要である、ということを作成者、出演者、視聴者それぞれが体感する番組であり、これこそが村松氏自身のさきほどの問への答えだというのがわかってくる。
教養デザイン研究科では今年度4月のガイダンス時に本特別講義についてのアナウンスならびに番組と本の紹介をしており、院生たちは事前に村松氏の著書『論文捏造』を読んでいたため、質疑応答および講義後の食事会においても活発な議論が続いた。講義への参加者は66名と多く、この問題への学生の関心の高さを伺わせた。(文責:森永)
明治大学大学院