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国際日本学部

戦争や地震のトラウマを持つトルコの子どもの学習支援【岸ゼミ】

2023年07月05日
明治大学 国際日本学部

2023年6月14日に、トルコでシリアから避難した子どもの学習支援をするUsamaさんが明治大学岸ゼミに来られました。Usamaさんは、トルコガジアンテップで運営する補習校の児童生徒に、どのようなアプローチがあるのかを学びに日本へ研修に来られました。岸ゼミでは、アートベース研究のひとつに、アートセラピーなど、アートを使ったケアに関連する実践を行なっているため、今回は、ダンスとビジュアルアートを使った2つの手法について体験いただきました。ゼミ3限では、パフォーマンス心理学についてゼミ生と議論してから、ダンスおよび身体動作を使ったアートベースの実践を行いました。続いて、4限では、ビジュアルアートを使ったアートセラピーを実践を行いました。以下、本企画を主催した学生による報告です。


報告:浅岡鈴乃(岸ゼミ4年生) <ダンス✖️ABRの実践>

トルコからシリア難民の児童生徒の学習支援をされているUsamaさんがこられることになりました。Usamaさんが活動されているトルコ南部ガジアンテップの児童生徒は戦争と地震のトラウマを抱えている子が多く、学校をドロップアウトしたり、心が不安定で学習に集中できないという課題があると聞きました。ガジアンテップでは、学習支援の一環としてアートを使ったさまざまな取り組みをしながら子どもの心のケアをしているとのことですが、アートと心のケアをどう繋いでいくのか、という点が課題とのことでした。

そこで、私は、ダンスと身体動作を使った表現のワークショップを、ゼミの仲間たちと企画、実施しました。アートベース研究(ABR)においてダンスや身体表現は、言葉で表現できない感情を表現できる方法として着目されています。そこで、ダンスをしていた4年生のあかね・わたる・ななみ、3年生のみれいと共に身体表現×ABRのワークショップを開催することになりました。

ワークショップの内容としては、30秒間の曲を聴いて浮かんだイメージを、グループで共有し、約30秒の振付を作るというものです。いきなり振付けを考えるというのは、ダンス未経験者にとってはハードルが高いかもしれません。そのため、まずは、曲に対する印象をひと言で考え、付箋に書き起こしてもらう所から始めました。その後、書き起こしたイメージを、身体動作に落とし込んでもらいます。そして、一人一人が考えた身体動作をグループで共有し、繋ぎ合わせることで、30秒の振り付け作品が出来上がります。イメージや振付を考える時間はあえて短くし、ありのままの自己表現を引き出せるようにしました。

私もグループワークに参加しました。同じ曲を聴いていても、人によって抱くイメージが異なる所に面白さを感じました。また、多様なアイデアを受け入れる姿勢を作ってくれたゼミ生のおかげで、イノベーションが起こり、スムーズに作品づくりが進んだと感じました。

私が普段ダンスをしているコミュニティでは、時に高いスキルが求められます。その為、私の中で、身体表現はスキルや知識が無ければ成り立たないという固定概念があり、このワークショップは難易度が高いのではないかと考えていました。しかし、ありのままの自己表現を楽しむゼミ生を見て、ダンスや身体表現による自他理解の可能性を感じました。思えばダンスも、歴史を辿れば、意思疎通や感情共有から生まれたものです。

ワークショップの振り返りでは、「共に創るプロセスで個と全体がともに発達していくことができる」「言葉に頼らない身体動作は、相手をよくみるにつながること」「共に創るプロセスは人と人をつなげる場になること」「これどういうことだろう?という予測できないことは、好奇心を喚起し、相手について知りたいという情動をかきたてること」などの意見が出ました。このワークショップを通して、身体表現を活用したアートセラピーに、より興味を持つ事ができました。



報告:渡邊 栞(岸ゼミ4年生 <ビジュアルアート✖️ABRの実践>

私は、ビジュアルアートを活用したアートベースのワークショップを担当しました。このワークショップは、私が3年生の時にアートセラピーの先行事例を開発したものです。ゼミ生、そして、地域の方にも経験してもらい、少しずつ改善しながら完成させました。

Usamaさんが運営する学校には、戦争と地震のトラウマを抱えた子どもたち、人や社会とうまく関係がつくれずに苦しんでいる子どもたちがいると知りました。その子どもたちが、安心安全に自分のことを語れるようになる機会を作りたい、また、他者との関わりの中で自分のことに向き合っていけるようになることがセラピーになると考えました。

当日は、自分の手形をモチーフに、自分のこころの中の「大切にしたいもの」、「手放したいもの」を自由に描き、その後は対話形式で作品を鑑賞しあってもらいました。言葉ではなく色や形をツールとして表すことで、より多様な表現が生まれます。また、感じ方や価値観など見えない部分を可視化し、アートを通じて他者と話すことで、楽しみながら違いを知ることができたようでした。

ゼミで取り組む実践や研究が、トルコのシリア難民の子どもたちのケアや教育につながることを実感しました。このように公共性の高い研究に取り組んでいきたいと思いました。Usamaさんのトルコでの子どもの学習とケアの支援活動を応援していきたいです。