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国際日本学部

「和食は、WASHOKUとなりえるのか:日本食文化の世界発信をめぐる学際的日本研究とその実践」(眞嶋ゼミによる文化庁との連携プロジェクト成果発表②)

2023年11月20日
明治大学 国際日本学部

文化庁応接室での様子文化庁応接室での様子

文化庁訪問後に議論するゼミ生文化庁訪問後に議論するゼミ生

ランビアーシ先生と眞嶋先生ランビアーシ先生と眞嶋先生

眞嶋ゼミでは、昨年度から、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された和食を巡る保護と振興を目的とした文化庁との連携プロジェクトに着手し、在日米国人建築家ジェームス・ランビアーシ先生へのインタビューを行いました。その取材を通じて、日々暮らしているだけでは気づくことのなかった日本の特異性について知り、食だけでなく、日本における多くの問題は有機的に繋がりあっているという大きな気づきを得ました。眞嶋ゼミでは、研究成果報告としてこれらのプロジェクトから見えてきた日本についての記事を3回にわたり挙げていきます。今回は2回目です。

前回記事:「和食は、WASHOKUとなりえるのか:日本食文化の世界発信をめぐる学際的日本研究とその実践」(眞嶋ゼミによる文化庁との連携プロジェクト成果発表①)

【第2回動画】


眞嶋ゼミでは、まず、様々な日本食文化の中でも、Z世代が食の選択肢の一つとしてよく利用する“コンビニ食”に、Z世代とランビアーシ先生を結ぶヒントがあるだろうという視点を持ち、先生の“コンビニイチオシ3選”を聞きました。
先生の回答は「1.炭酸水」「2.ツナマヨおにぎり」「3.チリトマト味のカップ麺」でした。理由をお聞きすると「ラーメンやおにぎりといった日本で一般的に普及している食材に、幼少期から慣れ親しんだツナマヨやチリトマトといった味付けが加わることにより購買意欲が促進される」ということでした。驚いたのは、先生はツナマヨおにぎりについている海苔であれば、ツナマヨ味が海苔の磯の風味を消すため食べることはできるが、未だに海苔をおやつのように単体で食べることはできないと話していました。ツナマヨという強い味付けで素材の味を消すという発想は、素材の味を楽しむ和食と矛盾していると考えられますが、Z世代も和食ではなく強い味付けの料理を選ぶことが多いのではないでしょうか。

また、コンビニの販売方法の特徴の一つとして、定期的に新商品が発売されることもあります。これはコンビニに限ったことではなく、チェーンのカフェやレストランでも季節に合わせて新商品の発売が見受けられ、日本には新発売の文化が根付いていると言えます。
一方、アメリカの有名なチョコレート・ブランドであるスニッカーズは、ランビアーシ先生が生まれた時から何十年もの間、同じ味だと話していました。また、商品の見た目も1930年から現在に至るまで、ほとんど変わらずに販売されているようです。
ランビアーシ先生は特別なギフトは別としても、「家族へのクリスマスプレゼントは、低価格なのに高クオリティーで、様々な種類の商品が揃っているコンビニのお菓子でも十分だ」と笑いながら話していました。日本における新発売の文化は、日本人からすると日常の一部にすぎませんが、外国人にとって日本の日常は、もともとアメリカから輸入されたコンビニでさえ、日本化のプロセスを経て、エンタメ性に満ちた非日常と化していることがわかりました。
さらに、先生は、アメリカで健康的な食事とは社会階層と直結したものであるものに対し、日本では健康的な食事が社会階層に限定されないという食のアクセスの良さが特徴的であることについても言及していました。

最後に、海外のクライアントから別荘建築などの依頼も受けている先生は、日本の治安がどれだけ海外投資家や富裕層にとって魅力的なものであるか、どれだけ貴重な価値となっているかも語ってくれました。治安の良さも、日々の日常で享受する私たちには気づきにくいことですが、海外の方々からすればそれは紛れもなく「非日常」というエンタメ性を支える重要な要素となっていることも見えてきました。

東京の日常は世界の非日常—東京の魅力は日常にこそあり、それは治安や健康的な食材・調理法に特性がある日本食文化に根付いたものであることが、取材を通じて浮き彫りになりました。タイパやコスパを追求しがちな現代ですが、私たちの日常に溢れる非日常性を見つめ直してみることで、東京というもの、日本というものが見えてくるかもしれません。(眞嶋ゼミ4年 下島綾音)