卒業生の声
総務省多文化共生推進プラン策定20周年記念セミナーが開催されました
2026年03月19日
明治大学 国際日本学部
国際日本学部の山脇啓造研究室とNPO法人「国際活動市民中心(CINGA)」が2026年3月13日に中野キャンパスで総務省多文化共生推進プラン策定20周年記念セミナー「プラン策定から20年-成果と課題」を開きました。山脇研究室は1990年代以来、多文化共生の研究と実践に取り組んできました。CINGAも2000年代以来、多文化共生分野で幅広い活動を行ってきたNPOです。
2006年3月に総務省が「地域における多文化共生推進プラン」を策定してから、今月でちょうど20年が経ちました。この間、自治体による多文化共生の取り組みは大きな進展を見せました。国も、2018年12月に総合的対応策を策定して以来、共生社会をめざした取り組みに本腰を入れるようになりました。一方、コロナ禍後に急速に増大する外国人労働者の存在や一部地域でみられる住民間の軋轢などによって、多文化共生の推進に反発する声もSNS等であがっています。そのような中で、2025年10月に発足した新政権は「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、2026年1月に「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を策定しました。
本セミナーは、総務省プラン20周年を機に、日本の多文化共生政策の到達点と今後の課題を検討することを目的として開催されました。第一部「総務省プラン策定からの20年を振り返る」では総務省による「地域における多文化共生推進プラン」策定後の20年間を振り返り、その成果と今後の課題を探りました。第二部「一元的相談窓口の成果と課題~量から質へ~」と第三部「日本語教育~地域と企業を中心に~」では、現在、共生社会を目指した国の主たる自治体支援の事業である外国人受入環境整備交付金事業と地域日本語教育の体制づくり事業を中心に、外国人相談と日本語教育の在り方に焦点をあてました。
登壇者(敬称略)は以下のとおりです。モデレータは第一部と第二部は山脇教授が、第三部は嶋田和子アクラス日本語教育研究所代表が務めました。
第一部:黒田夏子(総務省国際室長)
平田春奈(静岡県多文化共生課総括主査)*資料
黒岩春地(佐賀県国際交流協会理事長)*資料
田村太郎(ダイバーシティ研究所理事長)*資料
第二部:福原申子(入管庁在留管理支援部長)*資料
矢野花織(北九州市多文化共生ワンストップインフォメーションセンターセンター長)*資料
加藤理絵(公益財団法人 名古屋国際センター事業課相談コーディネーター)*資料
新居みどり(CINGAコーディネーター)
第三部:降籏友宏(文科省日本語教育課長)
前村充(厚生労働省外国人雇用対策課国際労働力対策企画官)
古橋広樹(浜松市国際課課長補佐)
長山和夫(一般財団法人日本国際協力センター(JICE)上席主幹)*資料
第一部では、この20年間の多文化共生の取り組みを振り返りつつ、国と地方の役割分担や制度的枠組みについて議論がなされました。多文化共生の取り組みの地域間格差が指摘され、取り組みが進んでいない市町村への国や都道府県による支援のあり方が議論されました。第二部では、相談支援の現状と課題が取り上げられました。相談件数の増加に対応する中で、対応の質や専門性の確保が大きな課題となっていることが指摘されました。単なる情報提供や関連機関につなぐだけでなく、問題解決に結びつける支援体制の構築や、それを担う専門人材の育成・配置の重要性が共有されました。第三部では、日本語教育を外国人住民の社会参加を支える基盤として位置づける観点が共有され、地域日本語教育と企業内日本語教育の接続の意義について意見交換がありました。以上の議論を通じて、これまでの20年間が主として個別施策の整備と実務の蓄積の段階であったのに対し、今後はそれらを統合する制度設計の段階へと移行する必要があるという認識が共有されました。
セミナーには、対面で約40名、オンラインで約250名の参加者が、全国の市民団体、国際交流協会、自治体を中心に集まりました。セミナー後の参加者アンケート(回答者61名)では、第一部、第二部、第三部それぞれ93.5%、98.3%、85.3%の方に、5段階評価で上位二つの「とてもよかった」または「よかった」を選んでいただきました。特に第二部の評価が高かった背景として、国レベルの政策的課題と現場レベルの課題の両面を取り上げたことが挙げられます。
*****
以下、山脇教授による第一部と第二部のまとめとセミナー全体の総括のコメントを掲載いたします。
第一部
第一部の議論を通じて、この20年間で「外に向けた国際化」から「内なる国際化」へと景色が大きく変わり、多文化共生が地域において「待ったなしの課題」として定着してきたことが確認できました。総務省の調査でも、自治体の規模や外国人人口割合が高くなるほど、指針の策定や施策が進んでいることが示された一方で、自治体間の取り組みの格差という課題も浮き彫りになりました。
国・都道府県・市町村の役割分担については、国が方向性を示し、県が広域的な体制を整備し、市町村が現場を担うという構造に加え、佐賀県の事例のようにNPOや県民を含めた「4者」が一体となって取り組む土壌の重要性が共有されました。同時に、交付金や補助金に依存する現在の財政措置では、住む場所によって支援に差が生じてしまうという構造的な限界も指摘されました。
また、国際的な位置づけにおいては、2017年の浜松市に続いて、昨年、静岡県が都道府県として初めて欧州評議会のICCに加盟し、多文化共生を都市の活力とする世界基準の政策評価を受ける新たな段階に入ったことは、象徴的な動きといえるでしょう。他の自治体も多文化共生の取組みを積極的に国際社会に発信するとともに、国際的な知見から学ぶことが大切だと思います。
育成就労制度の創設や新政権における「秩序ある共生」方針など、日本の外国人政策は今まさに転換期を迎えており、これからの数年間が社会包摂の正念場となります。制度の適正な利用を促しつつ、誰もが安心できる新たな社会を官民連携で構築していく必要があります。そして問われたのは、国の役割です。共生社会の基本設計、社会包摂プログラムの制度化、外国人との共生社会基本法の制定——これらは自治体では担えない、国が正面から向き合うべき課題です。
第二部
第二部の議論を通じて、一元的相談窓口が直面している「量から質へ」という転換期の課題が浮き彫りになりました。それは、窓口の役割が単なる「多言語での情報提供」や「関係機関への紹介」から、複雑な背景を持つ相談者に寄り添い、「課題解決まで伴走する機能」へと進化を求められているということです。
その質の向上を牽引するキーパーソンとなるのが、「外国人支援コーディネーター」です。相談者の抱えるミクロな課題をひも解き、適切な機関と調整して解決に導く「つなぐ力」、さらには地域の支援体制をデザインする高度な専門性が不可欠であることが共有されました。しかし同時に、その高い要請に見合うだけの安定した雇用形態や待遇の確保が、今後の大きな課題として示されました。また、質の担保には「重層的な連携」が不可欠です。地域の窓口では対応しきれない高度な在留資格の相談などを、国や地方入管がいかにバックアップするか。さらに、入管庁が進めるオンラインネットワークを通じた自治体間の知見共有や翻訳支援など、国と地方の新しい連携スキームへの期待も高まっています。
加えて、支援を本当に必要としている「潜在層」へのアプローチも重要な論点でした。窓口で待つだけでなく、外国人コミュニティのキーパーソンと協働し、アウトリーチ型で情報を届けていく積極的な姿勢が、今後の窓口運営には求められています。
総括
第一部では、総務省プラン策定から20年の歩みが確認されました。この20年間で、多文化共生は少なくとも自治体レベルでは確実に定着しました。相談体制の整備や日本語教育の拡充など、現場の実践は全国に広がり、全国的な政策課題となりました。しかし、外国人材の受入れを決定するのは国であり、実際の生活課題への対応は自治体が担うという非対称な構造は、この20年間大きく変わってはいません。自治体は創意工夫を重ねてきましたが、その努力に依存する形が続いてきたことが、日本の多文化共生政策の特徴であり、限界でもあります。今後、さらなる受入れを前提とするならば、国の責務を定める法制度の整備は避けて通れない課題です。
第二部では、一元的相談窓口の成果と課題が議論されました。全国的に相談体制が整備され、外国人住民が相談にアクセスできる環境は大きく改善しました。これはこの20年の重要な成果の一つです。しかし、量的整備が進んだ今、問われているのは質の向上、専門性の確立、そして継続性です。相談は単なる窓口ではなく、複雑化する生活課題に伴走する仕組みでなければなりません。そのためには、国と自治体の役割整理に加え、「外国人支援コーディネーター」を専門職として位置づける制度的な裏付けも重要になります。
第三部では、日本語教育が取り上げられました。地域日本語教育の体制づくりは着実に全国に広がっています。他方で、特定技能制度や新たに始まる育成就労制度のもとで、企業にも日本語教育の責任が課されるようになりました。ここで浮かび上がったのは、地域日本語教育と企業内日本語教育とが、それぞれに発展しながらも、十分に接続されているとは言い難い現状です。地域では生活や参加に必要な日本語が中心となり、企業では就労に必要な日本語が重視され、その役割分担自体は合理的であっても、両者が連続した学習の流れとして設計されなければ、外国人住民の定住や社会参加にはつながりにくくなります。日本語教育を、就労、生活、地域参加を横断する社会包摂の基盤として構想できるのか。これは単なる教育政策の問題ではなく、共生社会の制度設計全体に関わる問いであると言えます。
三つのセッションを通じて見えてきたのは、この20年が「事業の積み重ねの時代」であったということです。相談、日本語教育など、個別施策は着実に広がり、一定の成果を上げてきました。しかし今問われているのは、それらを横断し、個別施策を結びつけた一体的な制度設計へと転換できるかどうかではないでしょうか。
加えて、本日示されたのは、現場の知恵を「点」で終わらせず、地域間で学び合い、標準化できる部分は標準化し、個別性が必要な部分は柔軟に担保するという視点です。都道府県の広域調整や中間支援組織の役割は、その接続を支える要となります。また、制度の有無だけでなく、財源の継続性、担い手の確保、評価と改善のサイクルを回す仕組みが備わっているかも重要です。相談も日本語教育も、受入れの規模が大きくなるほど、問題が起きてから対応するだけでは追いつきません。だからこそ、先回りして設計し、支える仕組みを社会全体で共有することが、社会の信頼をつくり、分断を防ぐ土台になると思います。
ここで、「秩序ある共生」という言葉についても触れておきたいと思います。秩序を管理や規制の強化としてのみ理解すれば、包摂と対立する概念のように見えるかもしれません。しかし秩序を、役割分担が明確で、制度が整い、社会参加の条件が共有されている状態と捉えるならば、それはむしろ包摂の前提条件となります。外国人住民が社会の一員として参加し、責任を果たすことができる環境が整っている社会こそが、安定した秩序ある共生社会であると言えるのではないでしょうか。
国際的には反移民を掲げる動きが広がり、日本においても昨夏以降、多文化共生に反発する声も増えています。こうした状況の中で問われているのは、多文化共生を理念として掲げること以上に、社会全体がその取り組みに安心感を持てるかどうかという点です。外国人材の受入れと支援の仕組みが公平、透明に運用され、その成果が社会の中で共有されていくこと。そうした積み重ねこそが、多文化共生を理念ではなく、現実の制度として根づかせていくのではないでしょうか。
また本日は十分に扱えませんでしたが、外国につながる子どもたちの教育も重要な政策課題です。子どもの学習保障は、将来の社会参加の基盤を形づくります。受入れ拡大が続く中で、子どもの教育を共生社会の将来を支える基盤として位置づける視点が不可欠です。さらに、政府が検討を進めている「社会包摂プログラム」の構想も、今後の制度設計における重要な論点です。日本語や生活基盤に関する学習機会を制度として整備するこの取組みは、単なる適応支援にとどまるものではありません。外国人住民と地域社会が、社会参加の基盤を整えながら関係を築いていく仕組みとして構想されることが重要です。こうした視点は、本日議論された相談支援や日本語教育の取組みを、より包括的な共生社会の制度設計へと接続するものと言えるでしょう。
最後に、本日の議論から浮かんできた、次の10年に向けた論点を三つ挙げます。第一に、外国人材を受け入れる以上、社会として支えるという前提を明確にすること。第二に、国・都道府県・市町村・企業・地域が、それぞれの責任を分かち合うこと。とりわけ受入れの現場を担う企業との対話を深めることは、今後の制度設計において重要になるでしょう。第三に、外国人住民を「支援の対象」にとどめず、地域社会の担い手として参加の機会を広げることです。
多文化共生を自治体の努力目標のままにとどめるのか。それとも、外国人材の受入れを前提とした国全体の制度として再設計するのか。次の10年は、その方向性を定める重要な時期になると思います。本日の議論が、その再設計に向けた確かな一歩となることを願い、総括とさせていただきます。
2006年3月に総務省が「地域における多文化共生推進プラン」を策定してから、今月でちょうど20年が経ちました。この間、自治体による多文化共生の取り組みは大きな進展を見せました。国も、2018年12月に総合的対応策を策定して以来、共生社会をめざした取り組みに本腰を入れるようになりました。一方、コロナ禍後に急速に増大する外国人労働者の存在や一部地域でみられる住民間の軋轢などによって、多文化共生の推進に反発する声もSNS等であがっています。そのような中で、2025年10月に発足した新政権は「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、2026年1月に「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を策定しました。
本セミナーは、総務省プラン20周年を機に、日本の多文化共生政策の到達点と今後の課題を検討することを目的として開催されました。第一部「総務省プラン策定からの20年を振り返る」では総務省による「地域における多文化共生推進プラン」策定後の20年間を振り返り、その成果と今後の課題を探りました。第二部「一元的相談窓口の成果と課題~量から質へ~」と第三部「日本語教育~地域と企業を中心に~」では、現在、共生社会を目指した国の主たる自治体支援の事業である外国人受入環境整備交付金事業と地域日本語教育の体制づくり事業を中心に、外国人相談と日本語教育の在り方に焦点をあてました。
登壇者(敬称略)は以下のとおりです。モデレータは第一部と第二部は山脇教授が、第三部は嶋田和子アクラス日本語教育研究所代表が務めました。
第一部:黒田夏子(総務省国際室長)
平田春奈(静岡県多文化共生課総括主査)*資料
黒岩春地(佐賀県国際交流協会理事長)*資料
田村太郎(ダイバーシティ研究所理事長)*資料
第二部:福原申子(入管庁在留管理支援部長)*資料
矢野花織(北九州市多文化共生ワンストップインフォメーションセンターセンター長)*資料
加藤理絵(公益財団法人 名古屋国際センター事業課相談コーディネーター)*資料
新居みどり(CINGAコーディネーター)
第三部:降籏友宏(文科省日本語教育課長)
前村充(厚生労働省外国人雇用対策課国際労働力対策企画官)
古橋広樹(浜松市国際課課長補佐)
長山和夫(一般財団法人日本国際協力センター(JICE)上席主幹)*資料
第一部では、この20年間の多文化共生の取り組みを振り返りつつ、国と地方の役割分担や制度的枠組みについて議論がなされました。多文化共生の取り組みの地域間格差が指摘され、取り組みが進んでいない市町村への国や都道府県による支援のあり方が議論されました。第二部では、相談支援の現状と課題が取り上げられました。相談件数の増加に対応する中で、対応の質や専門性の確保が大きな課題となっていることが指摘されました。単なる情報提供や関連機関につなぐだけでなく、問題解決に結びつける支援体制の構築や、それを担う専門人材の育成・配置の重要性が共有されました。第三部では、日本語教育を外国人住民の社会参加を支える基盤として位置づける観点が共有され、地域日本語教育と企業内日本語教育の接続の意義について意見交換がありました。以上の議論を通じて、これまでの20年間が主として個別施策の整備と実務の蓄積の段階であったのに対し、今後はそれらを統合する制度設計の段階へと移行する必要があるという認識が共有されました。
セミナーには、対面で約40名、オンラインで約250名の参加者が、全国の市民団体、国際交流協会、自治体を中心に集まりました。セミナー後の参加者アンケート(回答者61名)では、第一部、第二部、第三部それぞれ93.5%、98.3%、85.3%の方に、5段階評価で上位二つの「とてもよかった」または「よかった」を選んでいただきました。特に第二部の評価が高かった背景として、国レベルの政策的課題と現場レベルの課題の両面を取り上げたことが挙げられます。
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以下、山脇教授による第一部と第二部のまとめとセミナー全体の総括のコメントを掲載いたします。
第一部
第一部の議論を通じて、この20年間で「外に向けた国際化」から「内なる国際化」へと景色が大きく変わり、多文化共生が地域において「待ったなしの課題」として定着してきたことが確認できました。総務省の調査でも、自治体の規模や外国人人口割合が高くなるほど、指針の策定や施策が進んでいることが示された一方で、自治体間の取り組みの格差という課題も浮き彫りになりました。
国・都道府県・市町村の役割分担については、国が方向性を示し、県が広域的な体制を整備し、市町村が現場を担うという構造に加え、佐賀県の事例のようにNPOや県民を含めた「4者」が一体となって取り組む土壌の重要性が共有されました。同時に、交付金や補助金に依存する現在の財政措置では、住む場所によって支援に差が生じてしまうという構造的な限界も指摘されました。
また、国際的な位置づけにおいては、2017年の浜松市に続いて、昨年、静岡県が都道府県として初めて欧州評議会のICCに加盟し、多文化共生を都市の活力とする世界基準の政策評価を受ける新たな段階に入ったことは、象徴的な動きといえるでしょう。他の自治体も多文化共生の取組みを積極的に国際社会に発信するとともに、国際的な知見から学ぶことが大切だと思います。
育成就労制度の創設や新政権における「秩序ある共生」方針など、日本の外国人政策は今まさに転換期を迎えており、これからの数年間が社会包摂の正念場となります。制度の適正な利用を促しつつ、誰もが安心できる新たな社会を官民連携で構築していく必要があります。そして問われたのは、国の役割です。共生社会の基本設計、社会包摂プログラムの制度化、外国人との共生社会基本法の制定——これらは自治体では担えない、国が正面から向き合うべき課題です。
第二部
第二部の議論を通じて、一元的相談窓口が直面している「量から質へ」という転換期の課題が浮き彫りになりました。それは、窓口の役割が単なる「多言語での情報提供」や「関係機関への紹介」から、複雑な背景を持つ相談者に寄り添い、「課題解決まで伴走する機能」へと進化を求められているということです。
その質の向上を牽引するキーパーソンとなるのが、「外国人支援コーディネーター」です。相談者の抱えるミクロな課題をひも解き、適切な機関と調整して解決に導く「つなぐ力」、さらには地域の支援体制をデザインする高度な専門性が不可欠であることが共有されました。しかし同時に、その高い要請に見合うだけの安定した雇用形態や待遇の確保が、今後の大きな課題として示されました。また、質の担保には「重層的な連携」が不可欠です。地域の窓口では対応しきれない高度な在留資格の相談などを、国や地方入管がいかにバックアップするか。さらに、入管庁が進めるオンラインネットワークを通じた自治体間の知見共有や翻訳支援など、国と地方の新しい連携スキームへの期待も高まっています。
加えて、支援を本当に必要としている「潜在層」へのアプローチも重要な論点でした。窓口で待つだけでなく、外国人コミュニティのキーパーソンと協働し、アウトリーチ型で情報を届けていく積極的な姿勢が、今後の窓口運営には求められています。
総括
第一部では、総務省プラン策定から20年の歩みが確認されました。この20年間で、多文化共生は少なくとも自治体レベルでは確実に定着しました。相談体制の整備や日本語教育の拡充など、現場の実践は全国に広がり、全国的な政策課題となりました。しかし、外国人材の受入れを決定するのは国であり、実際の生活課題への対応は自治体が担うという非対称な構造は、この20年間大きく変わってはいません。自治体は創意工夫を重ねてきましたが、その努力に依存する形が続いてきたことが、日本の多文化共生政策の特徴であり、限界でもあります。今後、さらなる受入れを前提とするならば、国の責務を定める法制度の整備は避けて通れない課題です。
第二部では、一元的相談窓口の成果と課題が議論されました。全国的に相談体制が整備され、外国人住民が相談にアクセスできる環境は大きく改善しました。これはこの20年の重要な成果の一つです。しかし、量的整備が進んだ今、問われているのは質の向上、専門性の確立、そして継続性です。相談は単なる窓口ではなく、複雑化する生活課題に伴走する仕組みでなければなりません。そのためには、国と自治体の役割整理に加え、「外国人支援コーディネーター」を専門職として位置づける制度的な裏付けも重要になります。
第三部では、日本語教育が取り上げられました。地域日本語教育の体制づくりは着実に全国に広がっています。他方で、特定技能制度や新たに始まる育成就労制度のもとで、企業にも日本語教育の責任が課されるようになりました。ここで浮かび上がったのは、地域日本語教育と企業内日本語教育とが、それぞれに発展しながらも、十分に接続されているとは言い難い現状です。地域では生活や参加に必要な日本語が中心となり、企業では就労に必要な日本語が重視され、その役割分担自体は合理的であっても、両者が連続した学習の流れとして設計されなければ、外国人住民の定住や社会参加にはつながりにくくなります。日本語教育を、就労、生活、地域参加を横断する社会包摂の基盤として構想できるのか。これは単なる教育政策の問題ではなく、共生社会の制度設計全体に関わる問いであると言えます。
三つのセッションを通じて見えてきたのは、この20年が「事業の積み重ねの時代」であったということです。相談、日本語教育など、個別施策は着実に広がり、一定の成果を上げてきました。しかし今問われているのは、それらを横断し、個別施策を結びつけた一体的な制度設計へと転換できるかどうかではないでしょうか。
加えて、本日示されたのは、現場の知恵を「点」で終わらせず、地域間で学び合い、標準化できる部分は標準化し、個別性が必要な部分は柔軟に担保するという視点です。都道府県の広域調整や中間支援組織の役割は、その接続を支える要となります。また、制度の有無だけでなく、財源の継続性、担い手の確保、評価と改善のサイクルを回す仕組みが備わっているかも重要です。相談も日本語教育も、受入れの規模が大きくなるほど、問題が起きてから対応するだけでは追いつきません。だからこそ、先回りして設計し、支える仕組みを社会全体で共有することが、社会の信頼をつくり、分断を防ぐ土台になると思います。
ここで、「秩序ある共生」という言葉についても触れておきたいと思います。秩序を管理や規制の強化としてのみ理解すれば、包摂と対立する概念のように見えるかもしれません。しかし秩序を、役割分担が明確で、制度が整い、社会参加の条件が共有されている状態と捉えるならば、それはむしろ包摂の前提条件となります。外国人住民が社会の一員として参加し、責任を果たすことができる環境が整っている社会こそが、安定した秩序ある共生社会であると言えるのではないでしょうか。
国際的には反移民を掲げる動きが広がり、日本においても昨夏以降、多文化共生に反発する声も増えています。こうした状況の中で問われているのは、多文化共生を理念として掲げること以上に、社会全体がその取り組みに安心感を持てるかどうかという点です。外国人材の受入れと支援の仕組みが公平、透明に運用され、その成果が社会の中で共有されていくこと。そうした積み重ねこそが、多文化共生を理念ではなく、現実の制度として根づかせていくのではないでしょうか。
また本日は十分に扱えませんでしたが、外国につながる子どもたちの教育も重要な政策課題です。子どもの学習保障は、将来の社会参加の基盤を形づくります。受入れ拡大が続く中で、子どもの教育を共生社会の将来を支える基盤として位置づける視点が不可欠です。さらに、政府が検討を進めている「社会包摂プログラム」の構想も、今後の制度設計における重要な論点です。日本語や生活基盤に関する学習機会を制度として整備するこの取組みは、単なる適応支援にとどまるものではありません。外国人住民と地域社会が、社会参加の基盤を整えながら関係を築いていく仕組みとして構想されることが重要です。こうした視点は、本日議論された相談支援や日本語教育の取組みを、より包括的な共生社会の制度設計へと接続するものと言えるでしょう。
最後に、本日の議論から浮かんできた、次の10年に向けた論点を三つ挙げます。第一に、外国人材を受け入れる以上、社会として支えるという前提を明確にすること。第二に、国・都道府県・市町村・企業・地域が、それぞれの責任を分かち合うこと。とりわけ受入れの現場を担う企業との対話を深めることは、今後の制度設計において重要になるでしょう。第三に、外国人住民を「支援の対象」にとどめず、地域社会の担い手として参加の機会を広げることです。
多文化共生を自治体の努力目標のままにとどめるのか。それとも、外国人材の受入れを前提とした国全体の制度として再設計するのか。次の10年は、その方向性を定める重要な時期になると思います。本日の議論が、その再設計に向けた確かな一歩となることを願い、総括とさせていただきます。








