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国際日本学部

なかのゼロと連携した小学生向け多文化共生ワークショップの実践【岸ゼミ】—移民・難民の気持ちを読み解く異文化体験教材の開発とその実践—

2023年02月16日
明治大学 国際日本学部

 ショーン・タン作「アライバル」の読み聞かせ。移民として未知の世界に踏み入る不安や恐怖を子どもたちは絵本から感じているようでした。 ショーン・タン作「アライバル」の読み聞かせ。移民として未知の世界に踏み入る不安や恐怖を子どもたちは絵本から感じているようでした。

清永さんがフランス留学の時に撮影した、移民が残した支援を求めるメッセージカード。この写真と「難民」という言葉から、子供たちはロシア・ウクライナを連想させていました。清永さんがフランス留学の時に撮影した、移民が残した支援を求めるメッセージカード。この写真と「難民」という言葉から、子供たちはロシア・ウクライナを連想させていました。

岸ゼミでは、株式会社JTBコミュニケーションデザイン(なかのZERO 生涯学習課)と連携し、中野ゼロで小学生向けの英語講座の実施をはじめました。英語講座といっても英語を学ぶことが目的ではなく、英語をはじめさまざまな言語を使いながらダイバーシティを体験していくことが目的です。初回は、岸ゼミ3年生の清永早紀子さんと小野祥子さんが企画、実施しました。場所は、彼女たちが3年生の時に開発した異文化体験の教材を小学生向けにアレンジしました。以下、企画、実施の二人からの報告です。

清永早紀子(国際日本学部 4年 岸ゼミ)

 中野区の小学生10人と、「わからないを楽しむ」をテーマに2つのアクティビティを行いました。多言語に触れるという目的でお声がけ頂いた企画でしたが、2年間のゼミ活動で学んできた学習環境デザインや教材開発の視点を組み合わせながら作り上げた、ゼミ活動集大成の企画となりました。参加してくれた小学生も積極的にゲームを楽しみ、終了後には知らない言葉の環境で困っている人の気持ちを想像したり、その人に対する自身の対応を考えたりすることができるようになっていました。

 当日、1つ目のゲームは導入として、岸ゼミ2期生が制作した「はあっていうゲーム」の英語版「なりきりイングリッシュ」、2つ目は、小野祥子さんたちが3年ゼミで開発した「言葉が通じない体験ゲーム」を扱いました。1つ目のゲームでは、お題の言葉をシチュエーションに合った言い方をし、同じ言葉でも言い方で伝わり方が変わることを体験してもらいました。盛り上がっているグループもありましたが、感情を言葉に乗せることに苦戦している子や、見学している保護者が気になってあまり集中できない様子が目立っていました。この経験から、表現同じグループになった人との距離感をあらかじめ縮める工夫や、家の中と外で子どもの性格が変わることがあるという点が盲点となっていたことに気が付きました。
 途中で保護者のみなさんには退出していただき、私のフランス留学体験記や絵本の読み聞かせの導入を挟み、2つ目のアクティビティに移りました。このゲームでは、現地の人が移民の人を目的地まで案内するという形式をとっています。現地の人役は韓国語とフランス語のみ話し、移民役は地図上で動きながら初めて聞いた言葉の意味を類推し、覚えていきます。終了後の振り返りでは、わからない状態で街に出ることの不安さや大変さを体験できた、今度街で困っている人を見かけたら助けようと思うと考えてくれた子が多くゲームの有効性も感じました。

 私はこれまでのゼミ活動やその他の機会でも小学生と関わることがなく、当日への不安が大きくありました。しかし、当日を迎えてみると小学生は良い意味でまだまだ「こども」で、新しいことへの興味や疑問が出てくる子が多かったです。そのため、こちらから答えを示さなくても自然と自分の持っている知識から繋がりを見つけ出してくれることが多かったです。例えば、私の留学体験記のコーナーで、難民の人が配っている、助けを求めるカードの写真を見せました。難民について小学生は知らないかもしれない、どのように説明しようと迷っていましたが、参加してくれた子達に「難民のことを知ってる?」と聞くと、「ウクライナの人たち!」とすぐに答えが返ってきました。幼い見た目をしていても世界で起きていることに目を向けて理解できていることに感心しました。また、企画をする際は質問や説明の詳細を事前に固めてから進行しようと考えることが多いですが、その場で起きたことや参加してくれた人の反応に合わせて内容をデザインする柔軟性の大切さも痛感しました。
 他の企画で関わった学校の先生に、中学1年生から探究学習をしている生徒は、他の学年と比べ自主性がより高く、大人が介入しなくても自分たちで物事を進められると聞きました。教室で教科書を使って学ぶことと、決められた道筋がない状態で情報を集めたり分析したりし、目標に向かっていくアクティビティによる学びは異なるのだと、なかのZEROで頭と体を使いながら「異文化」を体験する子どもたちを見て強く感じました。


小野祥子(国際日本学部 4年 岸ゼミ)
異文化に没入体験できるゲーム教材を開発し、それを用いて、中野区の小学校3~6年生を対象にワークショップを実施しました。当日は10名の児童が集まり、児童からは終了後、「楽しかった!」「このゲームがほしい!」「また参加したい!」という大変嬉しい言葉をもらいました。
「言葉が通じないを体験しよう!」をテーマに、フランス語を使って道案内するゲームで、設定は、日本人がフランスの地に赴き、フランス人の道案内を頼りに目的地到達を試みるものです。このゲームを通して学べることは大きく2つあります。1つ目が「外国人の心情理解」です。ゲーム開始直後、児童は当然言葉がわからず、地図上でさまよう羽目になります。それこそ、外国人が日本で日々体験することであり、ゲームを通して外国人の心情が理解できるよう設計しています。2つ目に「言語習得」です。ゲームを進める中で、児童は徐々に言葉を自分のものにしていきます。韓国語バージョンも用意し、学校の英語の授業のような堅いイメージを払拭し、遊びながら楽しく多言語を学べるコンテンツになっています。
3年次のゼミで開発して以来、幾度も改良を重ねて当日を迎えました。準備を万全にして挑んだものの、不安は拭えませんでした。しかし、児童たちの思いがけないパスや発言に救われ、参加者全員の学びが深まった瞬間があり、最も印象に残っています。例えば、フランス留学の体験談の中で、難民が残したメッセージカードを取り上げた際、「難民のことを知ってる?」という何気ない問いかけに対し、児童らは「ロシアウクライナで知ってるよ」「ユニセフとかだよね」と答えてくれる場面がありました。思いがけないパスを受け、児童らはその後ゲームで実際に言葉が通じない状況を体験したことで、より一層、外国人の心情理解が進むきっかけになりました。ゲーム終了後の振り返りでも、「外国人の気持ちがわかったよ」という声が多数上がり、開発者としてこれ以上ない喜びを感じました。
こうして児童たちに助けられ、無事にワークショップを終えることができました。児童にとっても学生にとっても非常に学びの多い空間で、今後もこうした活動が続いてほしいと強く思いました。