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国際日本学部

NHK for Schoolの番組を活用した多文化共生ワークショップの実施【岸ゼミ】

2023年03月22日
明治大学 国際日本学部

写真1:これらは多くの難民が旅立つ時に持っていくものとして示したモノ写真1:これらは多くの難民が旅立つ時に持っていくものとして示したモノ

写真2:この中から、子どもたちは旅立つ家族に持たせるものを2つ選びその理由を考えた写真2:この中から、子どもたちは旅立つ家族に持たせるものを2つ選びその理由を考えた

実践の様子実践の様子

岸ゼミでは、NHKサービスセンターと連携し、岸研究室の院生および岸ゼミの学部生と共に「NHK for Schoolの番組などを活用したSDGs教育プログラム開発(研究代表:岸磨貴子)」に取り組んでいます。その研究プロジェクトに参加する都内小学校にて、多文化共生をテーマとして、演劇手法を用いた実践を行いました。以下、実践の企画および実施に関わってくれた岸ゼミ3年生のラーマさんの報告です。なお、本プログラムは、明治大学の岸准教授、都内小学校教諭の佐久間和先生、視覚翻訳家の黒木歩さんが共同で開発したものをベースに、本実践校の取り組みのニーズや状況に合わせて改訂したものです。

報告:ラーマ ジャマールアルディーン(岸ゼミ3年生)

2022年3月に都内小学校にて、多文化共生をテーマとしたワークショップを実施しました。本実践は、本研究プロジェクトのメンバーでもあり、実践校の6年生の学級担任の先生と連携して実施したものです。

子どもたちは、実践当日までにNHK for Schoolの『ドスルコスル』「どうする?外国の人たちとの共生」を事前に試聴しました。映像をみたあとの振り返りシートから、映像を通して子どもたちは日本の多文化共生の課題を「知る」ことができていました。つまり「情報」として日本で何が起きているかを知ることができていました。しかし、当事者がなぜそうしたのか、どう感じていたのか、映像で「描かれていない部分」についてはなかなか触れることができません。そこで、学級担任の先生と連携し、映像で「描かれていない」部分に目を向け、想像できるワークショップ型の実践を計画しました。

実践当日、子どもたちが試聴した映像の「難民問題」を取り上げました。その映像は、多くのシリア難民が危険な旅をしながらヨーロッパなど他国へ避難しているシーンを示していました。多くの難民がヨーロッパを目指して移動していることを、子どもたちは映像を通して確認できましたが、その人たちがどんな気持ちで移動しているのか、その人たちが母国に残してきた家族をどう思っているのか、母国に残された家族はその人たちのことをどう思っているのかなど映像が描いていない部分にはなかなか目を向けることができません。そこで、当事者の気持ちになって、その時の感情や家族との関係を想像できることを目的として、演劇手法を使った実践を行いました。

子どもたちは、当事者になってみることで、その人たちの「気持ち」を想像し、擬似的ですが経験することができます。その経験を通して、「他人ゴト」から「自分ゴト」のように感じことができ、与えられた情報を知るだけでなく、その情報を手がかりとして、当事者の状況、感情、関係性を想像し、もし自分が当事者だったらどうしてほしいのか?という視点から、自分たちが多文化共生にむけて何ができるか考えるきっかけになると考えました。

ワークショップは、6年生の1組と2組の2クラスでそれぞれ実施しました。映像では「描かれない」社会的背景、歴史的背景、感情、関係性に目を向けることが授業の目的です。導入部分では、シリアに住んだ経験がある岸先生と私が、シリアについて子どもたちと会話をしながらプレゼンテーションを行いました。展開部分では、子どもたちに、内戦が起こった地域で国を出る決断をするにあたって、ある家族の最後の日のシーンを描いたシナリオを読んでもらい、演じてもらいました。このシナリオは、実話をもとにして岸先生が作成したものです。子どもたちは、実際にその家族(父、兄、私(妹)、母)をそれぞれ演じる中で、その世界に入っていくようでした。子どもたちはそのシナリオをもとに演じたあと、私たちは、彼らに次のような問いかけをしました。「これから危険な旅にでる家族に、残された家族は何を持たせるか?」です。国を出るまでの道のりは命懸けです。道中に何が起こるか、どれくらい時間がかかるかわかりません。考えるヒントとなるように、子どもたちには、ほとんどの難民らが国を出る際に持っていくものを示したモノ(写真1)とそれぞれの家族によって何を選ぶかが異なるであろうモノ(写真2)を示したカードを配布しました。そして、子どもに、写真2の中から自分が送り出す家族なら、旅立つ家族に何を持たせるか2つだけ選んでもらい、その理由を話し合ってもらいました。

子どもたちは真剣に向き合い、選んだものについてお互いに質問をし合い、どんな気持ちだったのか、なぜそれらを選んだのかについて語ってくれました。子どもたちの発想をきいて、私も学ぶことが多くあり、個人的にとても素敵な体験をすることができました。

私は、本実践だけでなく、休み時間や給食の時間でも子どもたちと楽しい時間を過ごすことができました。子どもたちと一緒に遊んだり、会話したり、一緒に笑ったりしているうちに、緊張感がほぐれました。私は小学生だったころ、周りの子どもから怖がられたり、距離を置かれたりすることがありました。しかし、この小学校では、そういった壁を全く感じませんでした。子どもは、私を「外国人」ではなく、「ラーマさん」という個人として見てくれました。それを、私は心の底から幸せだと感じました。

正直にいうと、私は多文化共生を実現することはとても難しいと常に思っていました。多文化共生を実現するために、私自身、これまで、さまざまな人に対して、情報発信をしたり、ワークショップを実施したりしてきましたが、なかなかそれが多文化共生につながったと実感できず、諦めを感じていました。今回の小学校での実践を通して、このような活動を継続的に実施していくことで、多文化共生の実現は不可能ではないとわかりました。今後も引き続き自分にできることをひとつでも多く実践していきたいと思います。