商学部の現場
「商」のイイトコ最前線!
Go Forward
2025年12月11日
明治大学 商学部事務室
本学商学部の加藤拓巳准教授は、2025年11月28日にSHIBUYA QWS スクランブルホールで開催されたCradleカレッジにて、研究成果に基づいて「価値づくり起点の人事戦略・制度設計」に関して講演をしました。プロフェッショナルスポーツの世界では、チームの成績に大きな影響力を有するフロントオフィスの活躍が注目を浴びています。その主な役割は、人(チーム編成)と金(予算編成・ビジネス)です。フロントオフィスの意思決定は、「勝つ」という明確な目的のもと実行されていきます。しかし、企業に目を向けると、同じく人を司る人事部門はバックオフィスと呼ばれ、企業の成績と切り離されて意思決定されるケースが散見されます。人材採用・評価の制度や文化を司る人事部門が「勝つ」と切り離した制度設計をしてしまうと、「勝つ」ために行動している研究開発・マーケティング・営業など多くの部門から見ると、現場に合わないという不満を招いてしまうリスクがあります。実際、人事部への不満があるビジネスパーソンは9割を占めるという調査1があります。
そこで、求められるのは、「勝つ」から逆算した人事戦略・制度・文化です。企業における「勝つ」とは、競合他社に勝る価値を生み出すことです。それを促進するために、4つの階層で人事戦略・制度のあり方を提起しました。
(1) 企業のあり方
いつの時代も、価値は顧客の問題を解決することから生まれます。よって、従業員全員が顧客の困りごとを明確に見据えて、行動・意思決定を積み重ねる必要があります。そのためには、まず顧客の困りごとを解決するコンセプトを全員で共通認識化し、従業員が同じ目的意識と共通言語で会話をできている文化が重要になります。目的が曖昧な組織は、リソースを無駄に浪費していくばかりです。
(2) 人事制度のあり方
社会主義的平等ではなく、資本主義的平等を導入し、「価値づくりをする人/その仕組みをつくる人」を公平に評価することが必要です。さらに、金銭的報酬(収入・職位)よりも、非金銭的報酬(愛情・感謝・帰属意識・承認)の方が幸福感が持続するため、社内外への貢献者の名前の公開も重要です。映画・ドラマ・書籍などのメディアでは必ずプロジェクトに参画した人の名前が出るのに、ほとんどのビジネスでは個々の従業員の貢献を可視化していません。賞も同様の効果がありますが、それを享受できる人数が少なすぎる点が問題です。
(3) 組織のあり方
チーム編成としては、多様性の導入です。ただし、ここでの多様性とは「社会貢献を目的として多様な属性(性別・年齢・国籍)を入れること」ではありません。あるべき姿は、価値づくりのために、必要なスキル・価値観を有する人材を導入し、その結果として多様な属性となることです。意思決定としては、科学の導入です。意思決定のスピードが速い組織は科学的根拠に基づいて合理的に判断します。そして、その根拠を開示することで、従業員はその意思決定に納得できます。納得できないものを無理やり押し付けても、人間は真の力を発揮しません。心の底からその意思決定の価値を信じられた時、大きな力になります。
(4) 従業員個人のあり方
価値づくりの非本質業務を外注・AI化し、本質業務に集中できる環境が重要です。本質業務を外注・AI化し、非本質業務に従業員が忙殺される例が散見されますが、それでは人材の無駄遣いです。それぞれの領域のプロフェッショナルである従業員が全力で価値づくりに没頭できる環境が不可欠です。同時に、失敗を積極的に許容する文化を整備しなければなりません。失敗作が床にゴロゴロと転がっている状態であるべきです。「失敗は成功の元」という誰でも知っている格言を真に実行しなければ、優れた価値なんて生まれません。
このように、人事部の役割は、企業のパフォーマンスを左右するほど極めて重要です。人事部は、決して「バックオフィス」ではなく「フロントオフィス」でなければなりません。
【Cradleカレッジについて】
Cradleカレッジは、導入企業の人事・ウェルビーイング・DEI担当者の方が集まり、働く人の未来について考えるための学びと交流の勉強会コミュニティです。2023年に前身の「People & Cultureゼミ」として開始し、年3〜4回のペースで開催しています。専門家による講演や参加企業同士の情報交換を通じて、最新の人事課題や組織づくりに関する実践的な知見共有とネットワーク形成を目的としています。勉強会形式に加え、共通の課題を持つ担当者同士がつながる機会の創出や、最新の人事課題や組織のあり方に関する実践的な知見の共有を目的としています。
【株式会社Cradleについて】
株式会社Cradleは、「誰もが輝く、未来を育む。」というビジョンのもと、 “Japan's No.1 employee benefits provider for empowering well-being and fueling diverse talent growth” として、従業員の健康・ウェルビーイング支援サービスを提供しています。従業員向けのeラーニング動画やセミナー、オンライン相談、各種クーポン、従業員データの分析レポートに加え、全国130院以上と提携したヘルスケアサポートなど、トータルなソリューションを通じて企業の人的資本経営と健康経営を支援しています。Cradleは、健康経営優良法人2025「ホワイト500」認定企業の10%以上で導入されています。



