2025年度春学期、大学院(博士課程前期)国際日本学研究科多文化共生・異文化間教育研究領域の「企業とダイバーシティ」では、日本企業が近年、ダイバーシティ重視の経営をどのような事情、環境から進めてきたかを考察し、その有効性を明らかにすることを目的として、カリキュラムのなかに企業訪問を組み入れています。
具体的には、一般社団法人日本経済団体連合会のソーシャル・コミュニケーション本部の協力を得て、基本的なダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(以下、DEI)に関する考えを伺うとともに、先進的な取り組みを行っている会員企業を紹介いただき、担当者からヒアリングを行って、問題の本質を理解しDEI推進上の諸課題解決に向けた方策を探ることにしています。
その1回目は、さる5月21日に1年生3名で東京大手町の経団連会館に経団連事務局の正木義久本部長を訪ねてお話を伺い、質疑を行いました。正木本部長は現在、ソーシャル・コミュニケーション本部長として、各地で頻発する災害の復興対策から企業の危機管理、国連SDGsに対応する企業の取り組み、消費者政策、そして企業行動やDEIの推進まで幅広い分野を所掌しておられます。
正木本部長からは、幅広い分野における知見を踏まえて、概略、以下のような説明をしていただきました。
(1)企業の成長力を高め生産性を向上させるには、企業組織におけるDEIが欠かせないこと、(2)企業がダイバーシティ経営に取り組む理由は、強靭性を確保しつつ、イノベーションを推進、併せて人権の尊重を重視するためであること、(3)日本社会において課題になっているジェンダーのダイバーシティには、性別で無意識に差別し決めつける「アンコンシャス・バイアス」の是正や、あらゆる属性の人々が活躍できるようにする措置「アファーマティブ・アクション」の実施が求められること、(4)モノカルチャーの日本が民族、国、文化のダイバーシティを推進し、外国人と共生する社会を築くため「やさしい日本語」の普及・啓蒙を手始めに、多様な人々が想像・創造する力によって経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会「Society5.0」を目指すべきことなどについて、具体例を交えながらお話しいただきました。
本科目では、今学期中に日本経団連の紹介による2社の企業訪問を予定しており、日本企業が経営改革の枠組みのなかで、DEIをどう位置づけているか、いかなる取り組みが有効なのかなどについて確認する予定です。
国際日本学研究科兼任講師 井上 洋