Go Forward

研究科長あいさつ

自分で地図を描く力

国際日本学研究科長  宮本 大人

国際日本学研究科長 宮本 大人

 大学院で、身に着けるべき力とはどのようなものでしょうか。大学院のガイドブックには、「国際日本学研究科は、日本の文化及び社会システムを国際的な視点に立ち理解し,異文化及び多様な社会システムを理解することができる、高度な調査研究能力を有する人材の育成を目指します」と書かれています。これを比喩的に、「自分で地図を描く力」と言い替えることができると思います。
 みなさんは今まで、どこかの誰かが描いてくれた地図を見ながら、自分の現在地、これから行こうとするところ、そこまでの経路を、確認していたと思います。それだけでなく、地図を見ることで、地球の中での自分の国の位置や形を知り、目の前を流れる川の源流がどこにあるかを知り…、要するに、自分が今いる世界のイメージをつかんでいたと思います。
 みなさんはこれから、自分で地図を作る側に立とうとしています。世界にはまだ十分に理解も測定もされていない領域があります。今までの地図が役に立たなくなるほど、変化の激しい領域もあります。そこに足を踏み入れ、手探りで調査し、測定し、俯瞰して位置づけを行い、あとから来る人のための道しるべを作り、分かりやすい地図を作る。調査し、分析し、論文を書く、というのは、そういうことです。
 不透明で、変化の激しい現代の世界において、自分が今いるところ、これから進むべき世界の地図は、自分で作れるようにならなければならない。世界と日本との関わりを様々な角度から研究しようとする国際日本学研究科は、そのような意識のもとに、自分で地図を作れるようになりたい人を待っています。
 みなさんの中には、欲しいのは学歴であって、大学院の入試のための準備の中で覚えたこと、入学後の授業の中で学んだこと、学位論文のための研究の中で知り、そして考えたこと、それらはすべて、学歴さえ得てしまえば、自分の中に残らなくていいものだと思っている人もいるのではないでしょうか。
 大学入試のために無理やり暗記したことのほとんどを、入学した途端に忘れてしまう大学生がいるように、(修士であれば)2年間かけて研究したこと、研究のために学んだこと、その過程で得た知識と知恵、それらをいい就職のために必要な学歴さえ得てしまえば捨て去ってしまっていいものと思っている(ようにしか見えない)人は、残念ながら、一定数いるようです。
 しかし学歴は、ある特定の力を持つことの証明書であって、社会において重要なのは、その力の方であることは明らかです。学歴を得た途端、捨て去られてよいような力には何の意味もなく、そんな力の証明書が学歴であるなら、やはり意味はないのです。
 たとえ周りから止められたとしても、見に行かずにはいられない世界、考えずにはいられない問題、調べずにはいられない興味の対象があり、それらについての自分なりの地図を描かずにはいられないモチベーションがある人。私たちが用意しているのは、そういう人のためのカリキュラムであり、研究環境です。
 我々教員も、皆それぞれ一人の研究者として、今も自分の地図を作り、共有しようとする旅の途上にいます。その旅の同行者になってくれるみなさんを、お待ちしています。
以 上
明治大学大学院