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第1回 映像資料活用による学際的アプローチの醸成プログラム

特別講義の様子

特別講義の様子

 教養デザイン研究科では、2009年度より新しい教育プログラムとして「映像資料活用による学際的アプローチ醸成プログラム(略称、映像資料教育プログラム)」を導入しました。これは本研究科の研究テーマに関する映像資料を鑑賞し、院生の研究テーマの広がりを深めるだけでなく、映画監督やプロデューサーなど映像資料の制作者を招待し、制作者と「対話」し、理解を深めることを目的としています。

本プログラムの第1回目の催しが6月6日に和泉校舎・リエゾン棟3階L9番教室で開催されました。
記念すべき第1回目の作品として、「チッソ 水俣工場技術者たちの告白」を上映し、併せて同番組のプロデューサー・北川恵さんをお招きしました。同作品は、1995年7月1日にNHKで「戦後50年 そのとき日本は」シリーズ(第4回)として放映されたものです。番組放映時にも大きな社会的反響をよび、文化庁芸術作品賞(平成7年度・テレビドキュメンタリー部門)、放送文化基金賞など数多くの賞を受賞した作品です。
番組は水俣病を起こしたチッソについて、当時の技術者たちがどのような考えをもっていたのか、また技術者としての対応について、冷静な目で追いかけたドキュメンタリーです。

コーディネーター・森永由紀先生から
水俣病が広がるのはなぜ止められなかったのか?この番組はそれを知るためにチッソ水俣工場内部の技術者たちの証言を集めた貴重な記録です。組織の中で、自分が正しいと思ったことを貫くことができなかった個々人の弱さが浮かび上がり、深く考えさせられます。作成されてから14年たつこの番組を学生と共に繰り返し見てきましたが、そこに記録された事実の持つ迫力は時間とともに色あせることがありません。
北川氏の講演で、高齢の元技術者たちの証言をもとに作る番組を歴史に耐えるものにしようとしたこと、そのために何が真実かをつきとめる作業を入念に繰り返したと知りました。また、ドキュメンタリーは「伝えたいこと」ではなく、「知りたいこと」を調べて作る、と伺い、事実にあくまでも謙虚であろうとする報道者としての姿勢が強く印象に残りました。

当日は研究科の院生、担当教員をはじめ、学内の学部生、院生、教員、さらには学外者など多数の人が参加しました。1時間の番組の上映の後、制作者の北川さんから、このドキュメンタリー番組が制作された経緯、水俣病という「公害」を起こした技術者たちからの取材の難しさ、さらにはドキュメンタリーという手法のおもしろさや難しさなど、1時間以上にわたり、講演が行われました。その後、参加者との間で映像資料を見た感想や、1つ1つのシーンを巡っての意見交換などがなされました。参加者からは「もっと話しがしたかった」「あのシーンについてさらに聞きたい」など、会が終わってからもたくさんの声が上がりました。

参加者のコメント
「『事実の再構築』。私が今回の講演会で学んだ中で最も重要だと思う行為の一つです。視聴率を第一とする一般的なマスコミは、熱しやすく冷めやすく時に事実を歪曲化してしまいます。求められるべきジャーナリズムでは、伝えたい内容を伝えるのではなく、伝える側が白紙の状態で知りたいことを伝えるべきなのだそうです。私はこの4月から、水俣病を途上国に発信する授業に参加しています。参加当初は水俣病に対する知識が全くなかったのですが、水俣病を多方面から調べていくうちに、何を発信すべきかということが自ずと頭に浮かんできました。
もう一つ、モンゴルの方と交流して重要だなと実際に認識したことを述べます。私は講演の直後、講演者の方から個別にアドバイスをいただきました。『共通の言語を持つ』ことです。私達は情報を発信する際、伝えられる側に立つべきなのです。 今後、今回の講演会で学んだことをいかして、水俣病の事実を途上国に発信していきたいです。」(商学部1年生)
「何回か観たことのある映像資料ではありましたが、制作背景を知ることで今まで一方向からしか観ていなかったことに気づかされました。作る側の意図やより深い時代背景を知ることができ、以前より多角的に映像資料を捉えることができるようになったことが大きな収穫です。
また、ものを作るという作業は、映像にしろ論文にしろ同じステップを踏んでいくのだということを改めて知り、初心にかえる思いがしました。」
「普段は映像を見る時には、それを撮影・企画などを行った制作者の視点で見る事がないため、新しい視点で映像を見ることの面白さを学びました。また、水俣病の問題に関しては、日本人は知っていなければならない事ですが、その一面しか一般には知られていません。しかしながら、今回の貴重な映像によって、様々な側面から水俣病を理解する必要があることを学びました。」

 

【参考資料】
◆今回のドキュメンタリーは、駿河台、和泉、生田3地区の「メディアライブラリー」にそれぞれ所蔵されています。
◆関連図書
『チッソ・水俣工場技術者たちの告白 東大全共闘26年後の証言』日本放送出版協会、1995.11(戦後50年その時日本は:NHKスペシャル/NHK取材班著;第3巻)
明治大学図書館(和泉、生田)に所蔵されています。
http://opac.lib.meiji.ac.jp/webopac/ctlsrh.do?listcnt=5&maxcnt=100&bibid=TW10175396

「映像資料活用による学際的アプローチの醸成プログラム」とは

映像資料を見て、社会問題への関心を喚起し、加えて学際的な視点やアプローチを育むことを目的としています。特に、映画監督・プロデューサー等「制作者」を招聘し、制作者側と視聴者側の直接的な対話の場を設け、理解を深めることを意図して企画したものです。今年度は、7回ほどの実施を予定しています。
明治大学大学院