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国際日本学部

国際日本学部山脇ゼミが中野区長と外国人留学生の懇談会を開きました

2022年07月14日
明治大学 国際日本学部

明治大学国際日本学部の山脇ゼミは、6月29日にオンラインで中野区長と外国人留学生の懇談会「外国人住民への情報発信—多言語化とやさしい日本語」を開催しました。今回の懇談会では、インドネシア、中国、韓国、ドイツ、マカオ、香港出身の外国人学生と日本人学生の8名が登壇し、酒井直人中野区長に参加していただきました。進行は山脇啓造教授が務め、参加者は学内外から、ゼミ生も含めると、総勢約130名となりました。登壇者は中野キャンパスにて対面で懇談会を行い、その様子をZoomで配信するハイブリッド形式で行いました。

プログラムはこちらです。登壇者は以下のとおりです。

センドウ・ケフィン(明治大学大学院、インドネシア)、クォン・アヒョン(明治大学、韓国)、ダニエル・フリード(明治大学、ドイツ)、桝田菜々香(明治大学、日本)、張夢瑶(イーストウエスト日本語学校、中国)、リ・カ(イーストウエスト日本語学校、中国)、チェン・ルイホン・デイビッド(湘南工科大学、マカオ)、リン・リン(上智大学、香港)

来賓は、中野区企画部長の石井大輔さん、ランゲージワン多文化共生推進ディレクターのセサル・カブレホスさん、自治体国際化協会理事の鳥田浩平さん、電通ダイバーシティラボ・やさしい日本語ツーリズム研究会代表の吉開章さん、アクラス日本語教育研究所代表の嶋田和子さんです。

懇談会の冒頭に、ゼミ生から中野区をはじめとした自治体の外国人住民への情報提供に関する調査報告が行われました。多くの自治体において、ホームページや配布物、チャットなどを用いて多言語で情報提供を行っているものの、機械翻訳による誤訳や画像とPDFの日本語が変換されない問題、多言語情報ページへのアクセスのわかりにくさや自治体によってまちまちなやさしい日本語の活用などが課題として明らかになりました。そこで、私たちは中野区に対して、これらの課題に対応することに加えて、より実践的に多言語とやさしい日本語を活用した情報提供が進められるよう、多言語化ややさしい日本語のガイドラインの策定を検討することを提案しました。

パネル・ディスカッションでは、中野区に住む4人の留学生から、中野区のHPや区報について、HPのトップページの外国語に切り替えるためのサインが ”Multilingual Translation”と英語で書いてあるためわかりにくい、ただ日本語の情報を翻訳して掲載するのではなく、外国人住民向けの情報にしぼってSNSなども活用して発信してほしい、窓口職員の丁寧すぎる日本語がわかりくいので、やさしい日本語で話してほしいなどの要望・意見が出ました。それに対して、酒井区長からは、外国人留学生向けのSNSでの情報発信、やさしい日本語研修などを活用した職員の外国人住民向け対応力の向上、そして、大事な情報が確実に伝わるための精度の高い翻訳を検討していきたいとの回答をいただきました。

そのほか、近隣市に住む留学生らから、「マイナンバーカード」の中国語訳が自治体ごとに異なるので統一してほしい、市内に比較的ベトナム人住民が多くいるにもかかわらずベトナム語の情報がない、市のHPには多言語のページが英語しかないので英語ができない人が困るのではという要望や意見が出ました。「マイナンバーカード」の訳については、来賓のセサルさんから、「マイナンバー」と「個人番号」のように同じ意味でも日本語の固有名詞が二つある場合や戸籍のような日本固有の名詞は、翻訳者としてどう翻訳したらいいか迷うとのコメントをいただきました。また、酒井区長からは、機械翻訳後の訳語を確認することや「マイナンバーカード」といった国の制度は国が外国語訳を統一することが必要だろうというコメントをいただきました。


一般参加者との質疑では、チャットも含め、多くの貴重なコメントをいただきました。そのうち、東京都職員の方からは「外国人住民に情報を届けようとするとき、多言語化ややさしい日本語に言い換える前に、どう情報を整理するか、行政として頭を柔らかくして考えていく必要がある」とコメントをいただきました。また、来賓の鳥田さんからは、「デンマークでは、役所から発出されるホームページの情報は、住民(外国人も含む)にモニターされており、わかりやすさを絶えずチェックしているそうです」と、デンマークの取組をご紹介いただきました。

懇談会の最後に、酒井区長から、「今回の懇談会をきっかけに、外国人住民の方にも中野区の情報発信に関与してもらうなどして工夫していきたいです。また、中野区のHPやSNSからの情報発信についてもらった意見を、今年と来年に予定している区のHPのリニューアルに活かしていければと思います。」との総括がありました。

山脇教授からは、「全国の自治体で多言語化とやさしい日本語の活用が進んできた現在、外国人住民の視点でそれらを見直すことが必要になってきていると思います。今後は、多言語化とやさしい日本語のバランスをどうするか、また、行政情報の多言語化における国と自治体の役割分担をどうするかなどを定めた多言語化のガイドラインを国が定めるとよいと思います。」とのコメントがありました。

開催後に実施した参加者アンケートでは、「外国人当事者と区長さんを始め行政側の責任ある方からの話が聞けてよかった」、「中野区長が施策に反応させようとする姿勢も素晴らしいと思った」、「地域の民力を活用しながら大きなコストをかけずに改善していくことがよいかなと思った」、「多文化共生といっても具体的に進んでいない自治体も多い。中野区のまちづくりの方法が全国にもっと広がってほしい」、「今回は参加した外国人の世代や立場が狭い範囲でしたが、乳幼児を持つ親世代、区立の小中学校に子どもを通わせている世代など、様々な外国人が登壇すると、より生活に密着した意見が聞けたかと思う」、「やさしい日本語と多言語化とのバランスという意味ではやさしい日本語の導入が多言語化をすすめないエクスキューズにならないかという視点や、やさしい日本語を運用できるまでの日本語能力をどのように保障していくのかという視点も必要だと感じている」など、多くの感想をいただきました。登壇者と山脇ゼミ内で共有するとともに、来年度の懇談会の参考にしていきたいと思います。

懇談会に登壇した学生の感想は以下のとおりです。

センドウ・ケフィン「自治体ホームページの翻訳に関しておもしろい意見を聞くことができ、有意義な時間を過ごすことができました。特に、外国人住民を巻き込んで翻訳を進めるのはどうか、また、機械翻訳をしてから人間の手で修正することで効率化を図るのはどうか、という2つの意見が印象的でした。今回の懇談会では自治体のホームページに焦点を当てましたが、今後は外国人住民や日本語を話さない方がどこで情報を手に入れているかについても、調査・議論していくことが重要だと思いました。」

クォン・アヒョン「今回の懇談会を通じて、中野区について興味を持つことができました。また、中野区が外国人のためにどのような取り組みを進めているのかについても実感できるいい機会だったと思います。」

デイビッド「今回の懇談会は、自分の意見を発信させて頂ける貴重な機会でした。登壇者の皆様のご意見聞けてすごく勉強になりました。これからも多文化共生に力を入れていきたいと思います。」

枡田菜々香「今回の懇談会では、外国人住民への情報発信というテーマで、外国人留学生から様々な意見を聞き、今まで自分が気づかなかった情報発信の課題なども知る事ができ、とても有意義な時間となった。また聴講者の方々から、その課題をどう解決していくべきなのかという提案が出されたりなどして、活発な意見交換の場となったと思う。今回の懇談会をきっかけに、これからの外国人住民への情報発信が少しでも改善することを願いたい。また自分自身も今回の経験を元に、今後多文化共生を推進していきたいと強く思った。」

懇談会の企画運営を担当した山脇ゼミ生の感想は以下のとおりです。

竹内健人「今回の懇談会は山脇ゼミ13期にとって初めてのイベントであり緊張していたが、酒井区長や登壇者、来賓、聴講者の皆さん、そしてゼミ生の協力のおかげで有意義な時間にすることができた。私自身にとっても、登壇者や聴講者の皆さんのお話から、事前調査だけでは気づかなかった課題や様々な意見を知る非常に良い機会となった。そしてこのような多文化共生社会について共に考えるイベントを開催できたことから大きな達成感を得ることができた。この懇談会での気づきを今後のゼミ活動に役立てていきたいと思う。」

岡野瑠璃「今回の懇談会は、私たち13期にとって初めてのイベントであり、最後まで無事に走り切れるか大変不安であったが、ゼミ生をはじめ、登壇者の皆さん、聴講者の方々など、様々な方のご協力によりとても有意義な会にできたと思う。また、普段留学生の生の声を聞く機会はあまりなかったため、留学生視点での課題など、多くの気づきや学びを得ることができた。ここで得た経験、学びをこれからのゼミ活動に活かし、海外にルーツのある人だけでなく、日本人にとっても住みやすい街づくりに取り組みたい。」

中村俊介「今回の懇談会は、多言語化およびやさしい日本語での情報発信と言うテーマであり、中野区での暮らし向上に向けて非常に有意義なものであった。13期にとっての初めての一大イベントであったが、特に目立ったトラブルもなくスムーズに無事終えることができてよかった。情報発信に関して、中野区にはまだ課題があることがわかり、その改善が中野区の暮らし向上だけでなくその他の自治体の模範となることを期待したい。」

山本陸「今回の懇談会は、登壇者の外国人留学生の方々はもちろん、やさしい日本語に携わっている方々や自治体関係者の方々の活発な議論のおかげで、今中野区の外国人住民への情報提供において必要なことが何かを確認することができた。今回の懇談会を通して、外国人住民への情報提供では多言語表記と共にやさしい日本語を用いることがとても効果的であると感じた。外国人留学生の生の声はとても貴重であり、このような意見を得る機会は少ないと考えられるため、今回出た意見を参考に中野区の外国人住民への情報提供が改善されることを期待したい。」

今回の懇談会で、外国人住民に対する情報発信は、正確な多言語化とやさしい日本語への言い換えにあわせて、外国人住民から見て、必要な情報が整理されていることとアクセスしやすいことなども大事であることがわかりました。登壇してもらった留学生には、当初は「役所の情報発信について特に問題はないと思う」と話していた留学生もいましたが、懇談会の趣旨を理解し、当日に向けて各々調べて時に相談しながら、外国人住民に対してどうすれば情報が届きやすいか、どこがわかりにくいかなど考えてきてくれたおかげで、今回、多くの要望や意見を酒井区長に伝え話し合うことができました。

今回の懇談会は、中野区をはじめとする全国の自治体や関係省庁、日本語学校、NPO、企業の関係者など様々な立場の方にご参加いただき、外国人住民である留学生との意見交換を通じて、外国人住民も日本人住民もより住みやすい中野区をはじめとする全国それぞれの地域づくりに向けて共に考える機会になったと思います。多言語化とやさしい日本語が普及してきた今、外国人住民の声を集めるだけではなく、彼らと問題意識を共有して話し合う、懇談会のような場はさまざまな地域で増えていくとよいだろうし、今後もぜひ、酒井区長と留学生の協力をいただきながら、この懇談会を続けていきたいと思います。
(国際日本学研究科 松野有香)