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ドイツ語学習のすすめ

商学部教授 千葉修身

 明治大学商学部への入学が決定すると間もなく、大学での勉学の設計(履修計画)の必要に迫られます。その中でも「初習外国語」の選択に悩む諸君は多いことでしょう。特に英語に苦手意識を持っていると、類似の言語には近寄ろうとしない傾向が強いようです。ここでは、そのようなことを意識しながら、「ドイツ語学習」の役立ちの側面を述べてみようと思います。決して強く履修を勧めているわけではありません。むしろ、大学でのドイツ語履修を超えたところで、その重要性を理解してほしいと願っています。
 
 私が生まれ育った東北の田舎では、旦那さんのことを「だんけ」といいます。高校生ぐらいまでの女子学生を「びって」といっていました。多少のドイツ語の知識のある諸君なら、同音のドイツ語を思い起こすかもしれませんね。またドイツ語の発音には,東北弁なまりの発音もあります。「ウムラウト」のことです。私が明大商学部に入学した頃は、履修登録まで現在よりも時間的余裕がありましたので、こうした点に気が付けるほどのガイダンス期間がありました。私が学部時代にドイツ語を選択し、ドイツ会計を研究し始めた動機は、このようなものでした。どの語学の科目が単位を取りやすいか、どの言語が学びやすいかの観点よりも、むしろ「親近感」の方が勝っていたように記憶しています。授業が始まると、最初に「お!」と気づくことがありました。極めて幼稚な印象です。ローマ字を介して、字面(スペル)と発音がほぼ一致していた点です。これは衝撃的でした。この一致を覆す例外の数が実に少なかったわけです。次に驚いたことは、文章構造が極めて論理的であるという点です。数学が好きでしたから、その構造分析が論理的に(我流ですが)説明できる点も個人的には納得のいくものでした。文法事項が明瞭で応用が利くという感じです。教授陣も、実に論理的な風貌の先生方が多くおられました。現在も、そうではないかなと思っています。一般的に、ドイツ語の先生は決して「理屈っぽい」ということではなく、「話せば分かる」タイプだということです。
 
 ドイツは歴史的にも日本と関係の深い国です。ドイツ会計学を研究するようになると、その深さは、「日本史」や「世界史」のテキストに書かれている以上に密であることを知るようになりました。他方、ドイツの会計専門書にも「適当な考察結果に基づいた見解」が記述されていることも分かるようになりました。よく論理的な国と評されるドイツですが、それほどでもないようです。この点は、実際にドイツの学者とお話をしてみると気が付くだろうと思います。ただ、「物事の本質を記述する」点では、最適な言語であろうと思っています。現在、会計の世界では、英文表記が主流ですが、その含意を探ることは容易ではありません。しかし、ドイツ語の文献をみると、同一の物事の含意が見事に表現されており、常に驚かされます。ドイツ語の文章構造それ自体が、そうした側面を生み出すのかもしれません。もっとも、そこには多少の誤解もありますが、「複眼的な思考」を駆使する学問・研究の観点からすれば、ドイツ会計には学ぶべき点が多々あります。
 
 どの言語を学ぶかを決める基準は、諸君の「ものの考え方」です。この考え方に悩んだときには、この駄文を思い出してみてください。大勢を占める状況(英語表記)にあって独りで自分の判断を下す必要は、大学卒業後、さらに増していきます。自分自身の考え方を分析する訓練を若い頃から始めてください。ドイツ語学習がその一助になることは間違いありません。最後に、公然の秘密を記しておきます。ドイツ会計の専門文献は3か月もあれば、「解る」ようになります。私の研究室の院生は皆、そうなっています。