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レポート:《ユタ・コヴァリク先生の故郷》

(このレポートは、2006年にドイツで開催されたワールドカップ・サッカーの際に記されたものです。)

ユタ・コヴァリク先生

ドイツサッカーの聖地ドルトムント:
2006年ワールドカップ日本対ブラジル戦会場

 およそ千年の歴史をもつ故郷ドルトムント市は、ドイツ第6の都市で、その人口は約60万人です。第二次世界大戦中の空爆の影響で、市内にはこれといった観光名所は残っていませんが、ルール地方の経済・文化の中心地として、この地域社会の重要な役割を担っています。ドルトムントは炭鉱・鉄鋼・ビール工場の町として有名でしたが、現在はIT都市への新たな発展を遂げています。今では60年代の灰色のイメージはなく、市の面積の半分以上が公園や緑地という緑の町でもあります。

 市民気質として見逃せないのは、昔の工業都市の伝統に裏打ちされた「働き者のメンタリティー」でしょう。こうした住民気質は、この町のもうひとつの代名詞でもあるプロサッカーチーム、ボルシア・ドルトムント(Borussia Dortmund以下BVB)との関係の中にも色濃く受け継がれています。この世界的に有名なブンデスリーガ(全国リーグ)の名門チームは1909年に創設され、これまでにドイツチャンピオン6回、欧州チャンピオンズリーグ優勝1回など多くのタイトル獲得を誇っています。

スタジアムの風景

 BVBはドルトムント市民の日常生活を大きく左右する存在です。月曜日には町のいたるところで週末の試合が話題となり、仕事が手につかない人も多いと言われています。日本では、住民とクラブとの間にこれほど緊密な関係は目にすることはできません。特筆すべきは、住民の大半が、チーム状況が良いときも悪いときも自分たちのチームへの忠節を守ることでしょう。こうしたクラブに対する市民の絶対的な愛情への見返りとして、BVBのプロ選手に対しては全身全霊でプレーすることが要求されます。市民の目には、芝生上で働く「職人」の労働モラルこそがもっとも重要なのです。

スタジアムの風景

 ホームでの試合日には、市内はBVBの伝統的なカラーである黄色と黒で溢れかえります。年齢、性別、職業を問わず、市民はスタジアムに駆けつけます。現在のドルトムントのヴェストファーレン・スタジアム(最近スポンサーの名前が冠されています)は、1974年にドイツ初のサッカー専用競技場として建設されたものです。数次にわたる拡張・近代化工事を経て、今では収容人員8万3千人(国際試合時には立ち見席が椅子席にかわるため6万7千人)の欧州でも指折りの大スタジアムですが、BVBの試合では年間数回は売り切れ満員になるのです。必見は熱烈なファンが「黄色い壁」を形づくる南側スタンドで、ここに陣取る2万5千人の立ち見客(欧州最大)が醸し出す雰囲気はまさに鳥肌ものです。ドルトムントのスタジアムはここ数年、ブンデスリーガの観客動員数ナンバーワンを誇っていますが、ちなみにBVBは2004~05年シーズンにホームでの17試合で観衆を約140万人集めました。つまり、ドルトムントは正真正銘、ドイツサッカーのメッカと呼ぶことも可能でしょう。このスポーツが大好きで、人付き合いの良い人々が、今年の6月、7月には世界中から訪れるゲストを大歓迎してくれることでしょう。

フローリアン

 ここで、観戦旅行を予定している人のために、いくつかアドバイスを記しておきます。年間でもっとも気候の良いこの時期は、町の散策も楽しめます。ショッピングゾーンを代表するヴェステンヘルヴェークは、中世においてすでに塩の通商路として重要な役割を果たしていた道路で、現在では大きなデパートやブティックが集まる華やかな町の中心を構成しています。旧マルクト広場には多くのカフェやビアホールが集まり、しばしの休息にはもってこいです。その際にはドルトムント名物の地ビールをぜひお試しあれ。付け合わせには、伝統的な料理のプフェファーポットハスト(塩茹でジャガイモとサラダ付の牛肉料理)をお忘れなく。ドルトムントの美しい風景を楽しみたい方は、ヴェストファーレン公園の中にある市のシンボル、フローリアンという愛称で親しまれているテレビ塔へどうぞ。この大規模な公園はスタジアムの近くに位置し、3千種以上のバラが栽培されています。試合前のピクニックに最適です。

 6月22日には、市は、予選リーグ最終戦のため、日本とブラジルからのサポーターをお迎えすることになります。現地時間21時(日本時間23日午前4時)に試合開始のホイッスルがドルトムントのスタジアムに鳴り響くとき、私はもちろん日本のテレビのライブ放送の前で、日本チームの応援をしていることでしょう。私の故郷の町ドルトムントで、素晴らしい試合がおこなわれ、私たちみんなが声を合わせてTOR!(ゴール!)の歓声をあげられるよう期待しています。

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