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ゲストスピーカーによる特別授業(12月14日実施)

実施日: 2017年12月14日(木)15:20~17:00
実施場所: 和泉キャンパス M604教室
科目名: 総合学際演習
テーマ: オリンピックメダルの経済学 グローバルスポーツ軍拡競争
ゲストスピーカー: 舟橋 弘晃 氏 (早稲田大学スポーツ科学学術院助教)
実施内容:
1.メダルをたくさん獲得する国の特徴
 各国のメダル獲得能力を説明するマクロな2大要因は人的資源(人口)と経済力(1人当たりGDP)である。人口の多い国は、優秀なアスリート候補生が多く、裕福な国は国民の健康度が高く、エリートスポーツに投資できる財源が多いといったアドバンテージがある。その他の要因には政治体制(旧ソ連、旧ソ連圏の活躍)、開催国効果、地理・機構(冬季五輪は強豪国は地域的に限られる)などが考えられる。
 こうしてBigでRichな国がメダルマーケットを占拠しているが、近年、より確実にメダルを獲得するために、各国は「競技力向上システム(優秀なアスリートを生産する仕組み)を整備するようになっている。
 

2.競技力向上システムについて
 図はSPLISS(Sports Policy Factors Leading to International Sporting Success)によるメダル獲得のための要件と仕組みである。競技力向上を支える9つの柱には、財政支援、スポーツ政策の構造・組織体制、導入期のスポーツ参加、タレント発掘・育成、アスリート支援/引退後のキャリア支援、トレーニング施設、コーチの確保・養成、国内・国際競技大会、医科学研究・研究開発が挙げられる。



 タレントの発掘・育成については、わが国でも鈴木大地スポーツ庁長官が「日本体育協会の持つ全国の地域ネットワークを活用し、JSCの支援のもと、高野連、障がい者スポーツ協会、医療機関、特別支援学校を含む諸学校と連携してアスリート発掘を目指したい」という「鈴木プラン」を今後の支援方針として表明している。また、近年、多くの強豪国はオリンピックなどの大きな国際大会では、選手村以外の現地に「ハイパフォーマンスサポートセンター」を設置し、アスリートの包括的なサポートを行うようになっている。ホテルなどを借用、リフォームし、トレーニング施設、リラクセーションスペース、治療施設、ラウンジなどのリラクセーション施設、コンディショニング・マッサージなどのサービス、本国と同様の食事の提供、選手村や競技会場をむすぶシャトルバスの運営などを行っている。近年の日本のメダル獲得状況をみても、こうしたサポートは成果を挙げているようにみえる。

3.グローバルスポーツ軍拡競争
 こうしてメダル獲得競争は、各国の総合力の戦いになっており、グローバルスポーツ軍拡競争と呼ばれる。とくにメダルの総数は限られているので、競争は参入する国が増えるごとにますます過熱しており、日本を含め、各国の国際競技力向上に関する予算は増加傾向にある。また、各国はさらにメダルの獲得を確実にするために、強化する競技種目への投資を「選択と集中」するようになっている。たとえば米国は水泳と陸上、中国なら飛込みや重量挙げなどである。日本もいわゆる「御4家」と呼ばれる水泳、体操、レスリング、柔道で金メダルのほとんどを獲得しており、メダル獲得の期待度によって予算を傾斜配分している。
 こうして白熱する国家間の国際競技力競争は、ゲーム理論でいうところの「囚人のジレンマ状況」を呈しており、各国間のにらみ合いで競争はエスカレートの一途をたどっているが今後どこまでいくのであろうか。問題はスポーツの勝ち負けへの投資は一種のギャンブルであり、投資を続けるためには「軍拡競争」に対する社会全体の理解促進が必須である。とくにメダルのような成果だけでない国民の心理的な効用も重要である。これについては民間などでさまざまな調査があるが、いまのところ、そのほとんどにおいて国際大会における日本人アスリートの活躍については、国民の支持が高いという結果が得られている。

澤井 和彦(科目担当教員)