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ゲストスピーカーによる特別授業(12月13日実施)

1.実施日    
2018年12月13日(木)15:20~17:00

2.実施場所
和泉キャンパス M604教室

3.科目名
総合学際演習

4.テーマ 
スポーツ業界のビジネスフレームワークと戦略~顧客戦略とCRM~

5.ゲストスピーカー
池田 健一 氏(株式会社La Bandiera dello Sport)

6.実施内容
 Jリーグ浦和レッズなど多くのJクラブやプロ野球球団で顧客マーケティングのコンサルティングをしてきた池田健一さんに、プロスポーツクラブのビジネスの特徴という基本原理の話から、顧客戦略、とくにCRMなどマーケティングの実際について、実際のデータに基づいて詳細な解説をしていただいた。 

1.スポーツ業界におけるマーケティング戦略

 ・B to C系の戦略について
 ・プロスポーツ業界における戦略の構造
 ・経営理念→経営戦略→強化戦略→強化戦略(←スポーツ企業特有)/事業戦略 のうちの事業戦略(顧客戦略)にフォーカスする

 ・スポーツ業界と類似性がある業界はどこか?
  ホテル業界や航空業界

 ・スポーツ業界 ホテル業界 航空業界の共通点は?
   1.キャパが決まっている 
   2.同じ場所なのに値段が異なる
   3.自分で商材を売れない

 ・ホテル業界では直販はかなり少なく、自分たちだけではすべてのチケットを売れない。
  →つまり手数料を取られている。
 ・なので「イールドマネジメント」が重要になる
 ・イールドマネジメントとは、同じ商品やサービスに異なる価格帯を設定し企業の収益を最大化させるためのマーケティング戦略
 ・スポーツ業界も航空業界もホテル業界も、在庫を繰り越せない(サービス業だから)
 ・すなわち満席、満室だとそれ以上チケットを売れない

2.Balanced Score Card(BSC) byロバートSキャプラン、デビッドノートン

 ・スポーツリーグ産業のBSCモデル:外部視点:財務の視点、顧客の視点
 ・この「顧客の視点」がマーケティングの領域/内部視点:学習・成長の視点、業務プロセスの視点
 →マーケティングには顧客の視点が必要
 ・スポーツクラブ・球団はチケット販売を多分に他社に依存している。スワローズ、ジュビロ、マリノス、レッズなどはぴあや楽天などのチケット販売システムを使いつつ、自前でCRMを行っている。
 ・ぴあにチケット販売を委託すると、ぴあ独自のチケットの売り方をする。必ずしも球団の理念と一致していない場合がある。

 Q(学生)「なぜ球団・クラブは自分たちでチケットを売らないのか?」
 A(池田)
 ・サッカーは野球と違って天候が大きく左右する。熱心なファン以外は、試合を見に来た時に次の試合のチケットを買ってくれるのはほとんどいない。ほとんどの人は当日券か1,2日前に購入している。
 ・マリノスは当日券の比率がかなり高い。ほとんどは前々日、前日、当日に購入している。天気がわかってから買う。そもそも(満員になることがないので)当日行っても買えることがわかっている。

 Q(学生)「クラブとチケット代理店の販売方法をめぐるミスマッチはたとえばどう起こるのか?」
 A(池田)
 ・たとえば浦和はしばしば暴動がおきるなどサポーターが問題を起こす。逮捕レベルの事件が起こる。クラブとしては顧客情報を把握して対策したいが、ぴあはそうした「見える化」を拒否しており顧客情報をもらえないといった問題がある。

3.顧客戦略

 ・なぜ顧客戦略が必要なのか?
  ファン/サポーターの声を拾い上げ、満足度をあげて再びスタジアムにきてもらい、クラブ・球団の利益の最大化を図るため。
  野球の72試合に比べて、サッカーは21試合しか事業機会がないので、限られた事業機会を最大化する必要がある

 ・プロ野球やサッカーのファン・サポーターとトヨタ自動車やMUFGの顧客の違いは何か?
  一度ファンになったらめったなことではファンをやめない。
  他のチームのファンになるスイッチングコストが高く、逆に生涯顧客価値が高い。

 ・最大の課題は何回も来てもらうこと。リテンション率を高めることが収益向上に繋がる。
   ・ただしハイブリッド型(複数クラブを好きになる)のファン・サポーターは増えている
   ・10年前はそう多くなかった。
 ・要は、何回も来てもらうことが唯一にして最大の課題
 ・新しくファン・サポーターを獲得するのは、一度来てくれたサポーターを誘導するコストの5~6倍かかる。
 ・既存顧客のうち5%のリテンションを確立すれば収益は86%向上すると言われている。
 ・アーセナル・・シーズンチケットを子どもに引き継がせる
 ・リテンション率を高めることが重要→CRM

4.CRM

 ・CRMとは…顧客関係性価値マネジメント(CRM:Customer Relationship Management)
 ・B to C系の商材、マーケティングをしている業界はかならずやっている、銀行、コンビニなど
 ・ポイントカード・・CRMの一環
 ・一度きりの取り引きではなく、長期にわたる取引関係を構築し且つ客単価を上げるための戦略
 ・顧客と関わり、アプローチしてファン獲得へつなげるマネジメント
 ・CRM導入によって、顧客満足度をあがり、リピート率が高まる。
 ・顧客と接点をもつ価値マネージメント
 ・ターゲティング→獲得→リテンション→拡大(顧客との関係性の価値向上)
 ・それをお客さん自身にやってもらわないといけない。

5.Life Time Value

 ・Life Time Value(顧客生涯価値)・・事業会社からの視点、お客さんが認識することはあまりない。
 ・顧客シェア追求型
 ・市場シェアから顧客シェア(顧客1人が購入するある製品カテゴリーにおける自社の占有度)→顧客追求型
 ・ある製品市場カテゴリー市場全体における自社の占有度を市場シェアというのに対し、顧客一人がある製品カテゴリーに対する自社の占有を顧客シェアという。
 ・継続してお客一人からどれだけ売り上げるか・・ARPU(Average Revenue Per User)、つまり顧客単価(ファンクラブ会費、飲食購買額、チケット購買額)(携帯のビジネスモデルでは必須)
 ・できるだけ個別対応(マーケティング施策)していくため
 ・海外のクラブ・・長期のシーズンチケット購買者を招待してパーティ
 ・市場が飽和化した現在、リピーターの確保が利益率を高めることに貢献する
 ・ARPU=顧客単価・・・1人の顧客がどれだけの売上金額をもたらしてくれたかをはかる
             =ファンクラブ会費+飲食+チケット+グッズ購買額
 ・ARPUをもとに、サポーターをセグメントした後それぞれの購買行動、購買力を考察した上で個別の対応をしていく。
 ・サポーターのセグメント例
   1.コア層(シーズンチケット)
   2.リピーター層(年に数回)
   3.ライト層(今までに数回)
   4.スタジアム未来場者(しかしクラブのことが好きだと思っている人)
 ・セグメンテーション・マーケティング 野球よりもサッカーの方が顕著・・
  →シーズンチケット価格が違う
   ・サッカー20万以下 9割が個人、1割が法人
   ・野球150万円、9割が法人、1割が個人
 ・市場が飽和化した現在、リピーターの確保が利益率を高めることに貢献する
  →LTV:顧客生涯価値に重点を置くようになった
 ・長期にわたる取引関係を構築し、かつ顧客単価上昇によってもたらされる相対価値を向上させる=CRM
 
事例)浦和レッズの顧客戦略=REX CLUB
 ・REX CLUB Reds Experience
 顧客データベース+履歴から蓄積されたデータを用いて分析し、顧客の求めているものを提供→購買の増加へ
 ・シーズンチケットホルダーが減ってきている中でどう増やすか考えた。
 ・レッズ、シーズンチケットをまったく割引しない
 ・会員の個人情報取れる、好きな選手、住所もわかる、キャンペーンなどの反応・効果もわかる

事例)ACミラン
 ・囲い込み
 ・ICチップ入りのカード、来場データわかる、ミランの提携ストアやレストランの来場データも取れる、クレジットカードの機能も
 ・一度きりの取ではなく、長期にわたる取引関係によってもたらされる

 

澤井 和彦 (科目担当教員)