本学商学部の加藤拓巳専任講師が,筑波大学やUniversity of Floridaとの共同研究で,自動運転技術の顧客価値を高めるコンセプトやユーザー経験(UX)に関する研究成果を発表した。
自動運転技術は,熾烈な技術競争の真っ只中にある。しかし,技術優位性の議論ばかりに偏重している傾向がある。先端技術の導入初期段階は,耐久性能や安全性能といった客観的技術の優位性が重視されるが,それらは技術が成熟化すると差がつかなくなる。つまり,安全性能は将来的に当たり前品質になり,勝負は魅力品質に移る。イノベーションは,技術優位性ではなく,消費者の価値優位性で決まる。よって,長期的に強固なブランドを確立するには,コンセプトが不可欠である。
そこで,消費者の知覚価値を高めるコンセプトを開発し,その効果を実証した。従来の訴求方法としては,コネクテッド技術,AI(人工知能)アシスタント,エンターテイメントなどが挙げられる。しかし,消費者の本当の困りごとは,「移動が面倒」なことである。運転手はもちろん,同乗者も面倒と感じている。同乗者に関しては,(自分は運転していないので)もう既に自動運転が実現している状態である。よって,「移動を感じない」空間というコンセプトを策定した。加速,揺れ,騒音を抑え,乗り物酔いを起こしにくいように運転を制御することで,移動している感覚をなくすという内容である。実証した結果,従来のコンセプトよりも,新しいコンセプトに高い魅力があることが確認された。この傾向は,現在車を保有する人々ほど顕著であった。多くの人々にとって運転は退屈な仕事である。その仕事から解放され,快適なプライベートスペースで自由に過ごせることは期待が大きい。くつろいでいたら,知らぬ間に「気づいたら着いてる」を実現するためには,自動運転技術の性能を高めるだけでは不十分である。その価値の実現に必要な使い心地をデザイン,家具,音,香りなど五感を通じた体験によって提供する設計が求められる。
出典:
Kato, T., Tsuda, K. (2024). Concept development to increase the consumer value of autonomous driving technology. Proceedings of the 2024 International Conference on Decision Aid Sciences and Applications, 1-5. IEEE. https://doi.org/10.1109/DASA63652.2024.10836361
Kato, T., Wang, Y. (2025). A living room on wheels! Mechanisms behind customers’ perceived fun of self-driving cars. Digital Society, 1-21. Springer. https://doi.org/10.1007/s44206-025-00172-z
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