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国際日本学研究科

国際日本学研究科の学生が積水化学工業を訪問しました

2025年07月10日
明治大学 大学院国際日本学研究科

2025年度春学期、大学院(博士課程前期)国際日本学研究科「多文化共生・異文化間教育研究領域」の科目「企業とダイバーシティ」では、日本企業が近年、ダイバーシティ重視の経営をどのような事情、環境から進めてきたかを考察し、その有効性を明らかにすることを目的に、カリキュラムのなかで企業訪問を組み入れています。
 
具体的には、一般社団法人日本経済団体連合会のソーシャル・コミュニケーション本部の協力を得て、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンの取り組みを行っている企業を紹介いただき、その本社を訪問、担当者からお話を伺いDEI推進上の諸課題解決に向けた方策を探っています。その一環として、さる6月25日の午後、港区虎ノ門に東京本社を置く積水化学工業を訪問しました。ご対応いただいたのは、人事部人材マネジメントグループの吉田知晃さんら2名で、事前にお伝えしていた学生の関心事項を踏まえ丁寧にご説明いただきました。
 
同社は、1947年3月の創業、あと2年ほどで創業80年を迎える歴史ある企業です。化学メーカーとして「今ある社会課題を、未来に残さない」という考えのもと、様々な事業を展開しています。聴講する中で、特に印象的だったのは、1964年のオリンピック開催を控える東京の美化に貢献したポリバケツ(商品名はポリペール)です。当時も公共性の高い取り組みでしたが、そういった社会課題解決に対する想いが、同社の現在の事業分野である、(1)レジデンシャル(住宅カンパニー)、(2)アドバンストライフライン(環境・ライフラインカンパニー)、(3)イノベーティブモビリティ(高機能プラスチックスカンパニー)、(4)ライフサイエンス(メディカル事業)に受け継がれています。
 
同社の長期ビジョン「Vison 2030」のキーワードは「挑戦」です。その実現に向け、人的資本戦略が織り込まれています。ビジョン実現に欠かせない、従業員一人ひとりの活躍に注力しており、抜擢や育成等を計画的に進められています。これらの戦略は、人材理念である「従業員は社会からお預かりした貴重な財産である」という考えに基づき、ダイバーシティ推進の観点では、「一人ひとりが持ち味を発揮し、いきいきと活躍できる風土づくり」という、人材に関する基本方針のもと、進められています。こういった人材が活躍する基盤を重視した戦略が、同社の重点KPIである、定着率97.8%(2024年度)に通ずることが理解できました。
 
具体的なダイバーシティ推進についてはまず、ジェンダーに関し2006年頃から女性の採用強化を始め、その育成・強化の第二段階に入り、基幹職登用に結びつけています。障がい者については2015年から採用活動強化を図り定着支援を行ってきましたが、現在では特例子会社の設置、就農モデルの開始により法定雇用率を上回る障がい者雇用が実現されています。またシニア層の活躍については、グループ一体での65歳への定年延長を図り、さらにグローバル人材の活躍では現地スタッフの育成に注力しています。加えて、育児や介護、病気などのライフイベント、リスクなどに直面した際の両立支援も強化されていました。
 
ダイバーシティ推進の足かせともいえる「周囲から理解されていないことが多い」という当事者の声には、グループ従業員一人ひとりの「自分ごと化」に向けて、「知る機会」の創出に注力されています。具体的な取り組みとして、啓発セミナーの開催、当事者の声を発信する座談会記事の発信、各種の方針・支援情報等を集約したイントラページの公開、ステークホルダーなどに向けた社外向け発信ページの作成等、多角的に情報を発信し、必要な情報を受け取れる体制を構築されています。
 
企業組織において女性活躍がなぜ必要かという点に関しては、ハーバード大学ビジネススクール教授、ロザベス・モス・カンター氏の「黄金の3割」(クリティカスマス)の理論が有名ですが、同社は製造業の特徴として、もともと総合職の女性の社員が少ないというところからスタートし、地道な取り組みを行っているように感じました。同社では2014年から、グループ一体での女性の基幹職候補者とその上司の育成の場として、キャリア・デベロップメント・プログラムを開始しています。女性社員の登用が特別ではないことを周知し、登用後の育成支援としてメンター制度(自社の経営層が伴走支援)を導入する等、キャリアフェーズに合わせた支援が設けられています。2024年度からは特定の性別を指す女性活躍推進から、ジェンダーダイバーシティに表現を変更し、『性別に関わらず全ての従業員が活躍する組織』の視点で、今後の事業発展が進められていくであろうことを予感させるヒアリングとなりました。
 
国際日本学研究科兼任講師 井上 洋
 
明治大学大学院