Go Forward

研究科長あいさつ

理工学研究科長 工学博士 渡邉 友亮



 大学院における専攻や研究室を選択するのは、多くの学生にとって大変に難しいことだと思います。私自身過去を振り返ってみると、大学院における研究内容を選択する際に、自身の研究分野に対する明確な理解はなかったように思います。高校時代には物理と化学が好きで、漠然と化学系の学科に進学し、大学院では材料物理科学関連の専攻を選択しました。大学院の5年間は無機材料をいかに環境にやさしい手法で合成できるかという課題に取り組みました。ただし、それらの研究は当時あまり注目されていなかったのも事実です。しかしその過程で、その時々の出会いや私の興味や関心に合わせて、研究対象物質をリチウムイオン電池関連材料、可視光応答型、水分解光触媒材料白色LED用材料などに広げてきました。多くの場合は新しい研究者との出会いによって研究対象が広がってきたといえます。
 この中で現在になってより注目された研究が一つあります。それはグリーン水素製造関連の研究です。現在ではグリーン水素の製造には種々の手法が提案されていますが、規模の観点から考えれば、光触媒を用いて太陽光と水から直接水素を製造する手法が最も有望と考えられています。この光触媒は50年以上前に日本において日本人により発見され、その後も継続的に研究されてきたものですが、つい10年位前までは現実の水素製造に使えるとは考えられていなかったのです。このように研究というのは短期的に評価することは非常に難しいのであるといえます。
 皆さんの多くは若い世代だと思います。それを考えれば、もし皆さんが研究分野やテーマに関して悩んでいるとすれば、今現在だけの視点ではなく、できる限り長期的な視点でそれらを見つめるよう努力することをお勧めします。それからもう一つ。先に述べたように私の場合は、無機材料合成というベースから、研究の対象範囲を広げて研究活動を行ってきました。これも一つの方法だと思いますが、もう一つ全く別の方法もあります。それは、研究対象を広げるのではなく、どんどん物事の本質に迫っていこうとする研究手法です。これは研究分野とそれぞれの研究者の個性によるところが大きいと思いますので、どちらが優れているということではないと思います。
 これらのことから、大学院における様々な選択の場面で「長期的視野」と「研究の方向性」そして「出会い」、ぜひこの三つの要素を大切にしてもらえればと思います。

 最後になりますが、大学院で取り組むべきことは主に研究を通したケーススタディーです。指導教員の指導に従って研究を進めていけばスムースにそれなりの研究成果は得られるかもしれませんが、その成果そのものが直接皆さんの将来の役に立つことは稀です。たとえ研究の進捗が滞ったとしても、皆さん自身が研究に対して主体的に取り組めば取り組むほど自身の思考力が高まり、たとえどんな研究分野を選択したとしても、社会の様々な局面で役に立つ能力が身に付いていくことでしょう。効率の悪い研究手法でも許されるのは大学院生だけの特権だと思います。困難は多いと思いますが、ぜひ後者を目指していただきたいと思います。

 明治大学大学院での経験をステップに、より大きな世界へ羽ばたいてほしいと思います。

明治大学大学院