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農学部

第34回ユーグレナ研究会において農芸化学専攻博士前期課程1年吉岡和政さん、農芸化学科4年小森美都さんが若手優秀発表賞に選ばれました

2018年12月13日
明治大学 農学部事務室

2018年11月24日に開催された第34回ユーグレナ研究会において、農芸化学専攻博士前期課程1年吉岡和政さん、農芸化学科4年小森美都さん(共に環境バイオテクノロジー研究室)が「若手優秀発表賞」を受賞しました。発表演題は「Euglena gracilisを用いたコハク酸生産」(吉岡和政さん)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)によるシアノバクテリア Synechocystissp.PCC6803のフォースカーブ測定(小森美都さん)になります。
この研究は、科学研究費新学術領域研究「新光合成」(領域代表 基礎生物学研究所皆川純 教授、計画研究班 大阪大学清水浩 教授)、学技術振興機構戦略的創造研究推進事業先端的低酸素化技術開発(JST-ALCA)(代表 明治大学農学部小山内崇 准教授)の一環として行われました。

【関連情報】
新学術領域研究「新光合成」:http://photosynthesis.nibb.ac.jp/index.html
先端的低炭素化技術開発(ALCA):https://www.jst.go.jp/alca/index.html

研究内容の詳細については、以下のとおりです。
内容:
1) Euglena gracilisを用いたコハク酸生産(吉岡和政さん)
 ユーグレナ (和名:ミドリムシ)は、昆布やわかめのような藻の一種であり、植物のように光合成を行い、動物のように運動を行う珍しい生物です。ユーグレナは、自身のもつ豊富な栄養素から栄養補助食品としての需要を高めており、また、バイオ燃料の原料となる油脂を生産することから産業的、学術的に注目を集めています。
 本研究では、ユーグレナの新たな可能性として、コハク酸という有用物質の生産に着目しました。コハク酸は、バイオプラスチックの原料であり、その汎用性から米国エネルギー省 (DOE)が定める「バイオリファイナリーで重要な12品目の1つ」に選定されています。ユーグレナの一種であるEuglena gracilis (E. gracilis)は、発酵環境下(低酸素条件)でコハク酸を細胞外に排出することが明らかとなっています。
 我々は、E. gracilisを用いて、細胞増殖に関わる培地組成や培養日数、発酵環境下での細胞密度やpHを検討し、これらがコハク酸量にどのように影響を与えるかを検討しました。結果として、培養日数を長くし、培地の各成分量を減らし、発酵環境下で細胞密度を高め、中性付近で培養することでコハク酸量が増加することが明らかとなりました。このように本研究では、E. gracilisの光合成の力を使って、バイオプラスチック原料となるコハク酸を生産する技術を開発しました。今後、光合成生物を用いた有用物質生産の技術が発展することで、持続的社会システムの発展や温室効果ガスの排出量抑制への寄与が期待されます。

2) 走査型プローブ顕微鏡(SPM)によるシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のフォースカーブ測定(小森美都さん)
 シアノバクテリアは、酸素発生型の光合成を行う細菌であり、バイオプラスチックの原材料であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)やコハク酸をはじめ、様々な有用物質を生産します。シアノバクテリアの一種であるシネコシティス(Synechocystis sp. PCC 6803)は、培養時に窒素が欠乏すると、炭素の貯蔵源としてPHBやグリコーゲンを細胞内に蓄積することが知られています。研究グループは、過去の研究において、窒素栄養状態を感知する因子であるNtcAを過剰発現すること(細胞内でタンパク質を増やすこと)によって、シネコシスティス細胞内の代謝が大きく変化することを明らかにしています。
 NtcAの改変によって、細胞内が大きく変化することは明らかなりましたが、細胞の形状や硬さ、粘性など、細胞外の物理的性質が明らかになるかはわかっていませんでした。硬さや粘性は基本的なパラメーターですが、シアノバクテリアでそれらを比較した研究は過去に例がありません。また、硬さや粘性が変化する条件では、細胞内の物質の取り出しやすさなどが変わると考えられます。
 本発表では、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて固さと粘性を測定しました。NtcA過剰発現によって、培養時の窒素の有無に関わらず、硬さが約0.9倍に小さくなることを明らかにしました。また、野生株とNtcA過剰発現株ともに、窒素欠乏時には細胞の粘性が約1.1倍に大きくなること、窒素充足時にはNtcA過剰発現によって粘性が約1.1倍に大きくなることが分かりました。これによって、シアノバクテリアは、遺伝子改変や窒素栄養条件によって、細胞の硬さや粘性が変化することが初めて分かりました。