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農学部

【食料環境政策学科】5年ぶりに海外農業体験(モンゴル国)を実施しました

2024年09月02日
明治大学 農学部事務室

「農学部食料環境政策学科では、2009年度から2年次学生を対象に「海外農業体験」という実習科目を開講しています(2001~08年度には「ファームステイ研修(海外)」として実施)。この科目は、実際に海外で農作業を体験したり、現地の農家や農業企業の方々と交流したりすることを通じて、海外の農業や社会、経済に関する理解を深めることを目的としています」(https://www.meiji.ac.jp/agri/info/2014/6t5h7p00000htrpn.htmlより引用)。

 当該科目は、これまでは台湾(2001~10年度の10年間)や中国(2011~19年度の9年間)で実施して来ましたが、2020~23年度の4年間はコロナ禍により中断を余儀なくされていました。2024年度は、5年ぶりにモンゴル国で実習を実施(再開)しました。

 2024年度の「海外農業体験」は、教員2名の引率の下、12名の学生が参加し、6月16日~22日に実施しました。実習は首都ウランバートル市およびその周辺地域で行いました。実習期間中のウランバートル市は日照が長く、21時を過ぎても明るかったです。また、ウランバートル市の標高は約1350mもありますので、昼夜の寒暖差は激しく、6月20日の夜中から降り出した雨が21日の昼過ぎには雪に変わりました(写真1参照)。参加学生は、こうした厳しい自然条件のなかで実習に臨んでくれました。以下に、主な実習内容を、(1)遊牧生活体験、(2)JICAモンゴル事務所や大学などへの訪問、(3)市内見学、(4)学生感想に分けて紹介します。

 

(1)遊牧生活体験

 モンゴル国での「海外農業体験」は、遊牧生活体験から始まりました。まずは乗馬体験を行いました(写真2参照)。遊牧民は馬に乗れないと生活が成り立たないので、乗馬体験は遊牧生活体験そのものになります。乗馬する前の学生の顔は不安でいっぱいでしたが、2時間の乗馬後は笑顔でいっぱいでした(写真3参照)。その後、遊牧民のゲルで手作りの乳製品やお菓子を味わいながら、モンゴル人の伝統文化や生業の説明を受けました(写真4参照)。さらに、羊のさばき方を見学し、その場で羊肉スープを試食しました。モンゴル人は羊をさばく時に、しきたりに従い、大地に血を一滴も流さずに処理します(写真5参照)。なお、別の日に、ほかの遊牧民のところで搾乳作業(手搾り)を見学しました(写真6参照)。当然ながら、搾乳ロボットまで登場している日本の酪農とは対照的です。

 モンゴル国では、遊牧民の食を支えているのは、乳製品と肉類、小麦粉に加え、じゃがいも、人参、玉ねぎなどの野菜です。羊、山羊、牛、馬、駱駝は「五畜」と称され、すべて搾乳の対象となりますが、肉の対象となるのは主に羊と牛です。一般に、乳製品は白色のものが多いので「白いごちそう」と総称されます。これに対して、日本のモンゴル研究者は肉料理を「赤いごちそう」と総称することがありますが、この表現をモンゴル人はあまり使いません。その理由は、「赤いごちそう」は生肉の色から由来していることと、赤色は血を思い出させることにあります。なお、遊牧民の食は、夏は乳製品を中心とし、冬は肉料理を中心とします。遊牧民といっても、総人口350万4741人のうち、半数近くが首都ウランバートル市に居住しているといわれています(2023年末、モンゴル国家統計局)。

 

(2)JICAモンゴル事務所や大学などへの訪問

 JICAモンゴル事務所、モンゴル国立大学(National University of Mongolia)、モンゴル国立農業大学(Mongolian University of Life Sciences)などを訪問しました。JICAモンゴル事務所では、田中伸一所長が私たちを温かく迎え入れてくれました。そして、中村圭吾さんと室根由寛さんから、JICA事業とJICAのモンゴル国における活動、モンゴル国の概況などについて学びました。中村さんからは「学生の皆様の将来の選択の一助になれば幸いです」、室根由寛さんからは「これを機に明治大学の学生さんが少しでもJICA事業や海外協力隊に関心を抱いてくださると嬉しい限りです」というお言葉をいただきました(写真7参照)。

 モンゴル国立大学の付属機関である「モンゴル・日本人材開発センター」では、「モンゴルの概要と経済と人」というテーマで中村功さんが、「モンゴルの牧畜業と寒雪害」というテーマでN.バトデルゲル先生が、それぞれ講義を行ってくださいました。モンゴル通である中村さんの講義はインパクトが強く、学生が真剣にメモをとっていました。日本留学経験者であるN.バトデルゲル先生から、地球温暖化や寒雪害などの自然災害がモンゴル国の牧畜業に与える影響について経済学の視点から学びました(写真8参照)。

 さらに、モンゴル国立農業大学を訪問しました。農大生に花卉の栽培技術を教える海外協力隊員である生方雅男先生から、モンゴル国の農業について学びました(写真9参照)。生方先生は「学生さんから活発な質問が出て楽しい時間を過ごすことができました」と、雪が降るなか笑顔で私たちを送り出してくれました。生方先生は農大での講義だけではなく、今回のモンゴル国における実習を全面的にサポートしてくださいました。

 加えて、別の日に、ウランバートル市から北に約140km離れている農大の付属牧場と付属農場(トゥブ県北部のBornuurというところにあります)の見学も行いました。トゥブ県および隣接するセレンゲ県は、比較的降水量に恵まれており、標高が低く、冷害リスクが相対的に少ないことから、ソ連時代に大規模な国営農場が作られました。現在、当該地域の国営農場は民営化されており、モンゴル国の耕種(畑作)農業の中心地域となっております。モンゴル国の畑作は主に小麦、じゃがいも、玉ねぎなどの野菜、菜種などの油糧作物、飼料作物を生産しております(写真10参照)。

 

(3)市内見学

市内見学の訪問先は、博物館(Chinggis Khaan National Museum)、ナラントール市場、製革場、革靴工場などになります。まず「Chinggis Khaan National Museum」では、主に工芸品や実用品などを通じて、モンゴル帝国時代の歴史について学びました(写真11参照)。そして、ナラントール市場を見学しました。当該市場は、規模が大きく、必需品はもちろんのこと、贅沢品も買える市場です。輸入品をはじめ、モンゴルで売られているものならほぼ揃っており、庶民の生活やモンゴルの物価を理解するうえで指標となる市場です(写真12参照)。

 製革所は、1992年に設立された皮革加工(牛、羊、山羊の原皮から仕上げ革まで)、皮革製品(革製の靴やその他の革製品)の製造と販売(国内と海外)を行っている大企業です。いわば、モンゴル国を代表する軽工業部門です(写真13参照)。革靴工場は、1994年に設立され、製革所から加工された皮革を購入し、靴のアッパーを独自に生産すると同時に、中国から靴のゴム素材ソールを輸入し、靴を完成させ、販売しています(写真14参照)。

 モンゴル国家統計局によれば、2023年のモンゴル国の主要産業は、鉱業(GDPに占める割合は31%)、農牧業(同11%)、軽工業(同8%)、輸送業(同6%)とされます。また、輸出品は、石炭、銅精鉱、蛍石などの鉱物資源がほとんど(輸出金額に占める割合は9割強)ですが、カシミア、羊毛、皮革などもあります。なお、モンゴル国では、2023年末の時点で6470万頭の家畜が飼育されており、その内訳は大雑把に、毛肉兼用の羊が40%程度、国際商品であるカシミヤを産出する山羊が40%程度、次いで牛が7%程度、馬が6%程度、駱駝が1%程度の順とされます。

 

(4)学生感想

 以下に、学生のレポートを一部引用します。「1週間の海外農業体験では、モンゴルの農業のみならず、環境、文化、歴史、経済など様々な視点からモンゴル国という勢いのある発展途上国を学び、体感することができた。教科書や本には載っていないことを実際に肌で感じることができ、人生観や学びの視点を広げる機会になったと感じている。正直な感想を言うと、これほどまで充実し、楽しく学べるとは思っていなかった」「私はモンゴルを含め途上国に初めて行ったため、新たな学びを沢山得ることができた。これからたくさんの国に行き、色々な国の文化を知りたいと思った。この貴重な経験を今後に活かしていきたい」「楽しく過ごせて、壮大な自然や文化に触れあい、日本にはないものやことの発見をしたり、雄大な自然や遊牧民の文化などのモンゴルの魅力に多く気づいたりして、再び行きたいと思っています」「今回モンゴルを初めて訪問して農業や畜産業での現地の考え方について学べただけでなく、食文化や経済、さらには家族形態、学歴について知れたのが良かった。時々このレポートを見返して普段の学習にも生かしたい」「かなりハードな実習でしたが、それ以上に得られた経験は大きいものでした。モンゴルでの経験がこれからの勉強や自分の生き方に役立つなと海外に行ってはじめて感じました」。

 

 上記のレポートから、効果の高い実習であったことが読み取れます。関係者の皆様に、改めて心より御礼申し上げます。最後に、私たちに対して、関心を示してくれ、おもてなしをしてくれた中学生との集合写真(15)で紹介を終わりにします。

農学部専任講師 暁剛

 

写真1 新ウランバートル国際空港周辺写真1 新ウランバートル国際空港周辺

写真2 乗馬体験写真2 乗馬体験

写真3 乗馬体験終了後の笑顔写真3 乗馬体験終了後の笑顔

写真4 ゲルでの勉強会写真4 ゲルでの勉強会

写真5 羊のさばき方写真5 羊のさばき方

写真6 搾乳作業写真6 搾乳作業

写真7 JICAモンゴル事務所を訪問写真7 JICAモンゴル事務所を訪問

写真8 モンゴル国立大学を訪問写真8 モンゴル国立大学を訪問

写真9 モンゴル国立農業大学を訪問写真9 モンゴル国立農業大学を訪問

写真10 トゥブ県北部における春小麦の大規模栽培写真10 トゥブ県北部における春小麦の大規模栽培

写真11  Chinggis Khaan National Museum写真11  Chinggis Khaan National Museum

写真12 ナラントール市場写真12 ナラントール市場

写真13 製革所写真13 製革所

写真14 革靴工場写真14 革靴工場

写真15 遊牧民訪問(中学生との集合写真)写真15 遊牧民訪問(中学生との集合写真)