2024年度情報コミュニケーション研究科フォーラム開催報告
総合司会/コーディネーター:清原聖子(大学院情報コミュニケーション研究科)
情報コミュニケーション研究科
研究科フォーラム開催報告 第1部司会 小川凛(情報コミュニケーション学部助手)
2024/11/16(土)、情報コミュニケーション研究科では、「アメリカ民主主義の危機 異例ずくめの2024年大統領選挙」と題して、11月5日に行われた2024年アメリカ大統領選を振り返るフォーラムを対面/オンラインのハイブリット形式で開催しました。今回の2024年米国大統領選挙は、選挙人312対226で共和党ドナルド・トランプ前大統領が民主党カマラ・ハリス副大統領を破り、史上2人目の大統領職への返り咲きを果たす結果となりました。本研究科フォーラムでは、5人のアメリカ研究者に登壇いただき、それぞれの観点からアメリカ大統領選挙を振り返っていただきました。参加者は対面40名、オンライン39名、合計79名となり大盛況のフォーラムとなったことをご報告いたします。
研究科フォーラム概要
日時 | 2024年11月16日(土)13:00~16:20 |
---|---|
場所 | 駿河台キャンパスグローバルフロント1階グローバルホール |
主催 | 明治大学大学院情報コミュニケーション研究科 |
総合司会 | 清原聖子(明治大学情報コミュニケーション学部教授) |
第1部 | ~パネル討論~有権者が選択するのは“過去”か“未来”か? |
報告者 | 清原聖子(明治大学情報コミュニケーション学部教授) |
討論者 | 久保文明(防衛大学校長) |
司会 | 小川凛(明治大学情報コミュニケーション学部助手) |
第2部 | ~講演会~新政権の外交・安全保障政策の展望 :国際協調重視か、孤立主義か? |
講演者 | 久保文明(防衛大学校長) |
司会 | 清原聖子(明治大学情報コミュニケーション学部教授) |
第1部<パネル討論>有権者が選択するのは‟過去”か‟未来か”?
第1部では、4人の報告者と1名の討論者によるパネル討論を行いました。以下では、それぞれの先生のご発表と、その後の討論の内容を簡単にご報告いたします。
・清原聖子「‟二つのアメリカ”とメディアの分極化」
政治とメディアをご研究されている清原先生からは、政治の分極化とメディアの分極化についての解説後、今回の大統領選挙をメディアの観点から4つのテーマに基づいて振り返っていただきました。まず、大統領選挙キャンペーンにおける情報源について、ソーシャルメディアとマスメディアが果たした役割を分析されました。次に、バイデンが選挙戦から撤退する決定的な要因となったテレビ討論会について議論が展開されました。また、候補者たちが「敵対的メディア」とされるメディアにあえて出演する現象についても、興味深い考察が示されました。さらに、有力紙が特定候補への支持表明を行わなかったという、これまでにない出来事についても言及されました。清原先生の講演は、政治とメディアがいかに相互に影響を及ぼし合い、政治の分極化を促進する要因となっているかを多角的に捉えた内容であり、多くの参加者にとって示唆に富むものでした。
・鈴木健「政治レトリックから見たアメリカ大統領選挙」
政治コミュニケーション論や政治演説研究を専門とする鈴木先生から、レトリックの観点から振り返っていただきました。鈴木先生によると、政治コミュニケーション手法は、20世紀の「語る事は統治なり」というレトリック的大統領制(Rhetorical Presidency)から、21世紀の「常に有権者の身近に存在する」ユビキタス大統領制(Ubiquitous Presidency)へ変容しているとのこと。トランプは、ユビキタス大統領制を象徴する存在であり、SNSを駆使した議題設定力やフレーミング能力にも長けており、とりわけ移民に対する批判的な言説を効果的に発信することで、自らの主張を広く浸透させたと指摘しました。鈴木先生の講演は、トランプが示した新しい政治コミュニケーションの手法を深く考察する内容であり、参加者にとって非常に考えさせられるものでした。
・兼子歩「ジェンダーの観点から見たアメリカ大統領選挙」
アメリカ社会史を専門とする兼子先生は、ジェンダーの観点から振り返っていただきました。兼子先生によると、トランプ陣営は、ミソジニー(女性蔑視)の言説を活用し、共和党が1970年代以降推進してきた家父長的価値観(反福祉・反LGBTQ・反中絶・反フェミニズム)をさらに過激化させました。この戦略は選挙後、女性参政権を否定するメッセージがSNSや社会で増加する一因となったと指摘されました。また、ジェンダーと投票行動の関係について、高学歴の白人女性は中絶権や多様性を支持する傾向が強い一方で、低学歴の白人女性は経済的事情や伝統的価値観を重視し、家父長制的政策を支持する傾向があるという興味深い分析が示されました。兼子先生の講義からは、こうした今後の選挙分析において注目されるべき重要な視点となるジェンダーについて学ぶことができました。
・下斗米秀之「移民政策をめぐる課題と展望」
アメリカ経済史を専門する下斗米先生は、アメリカの移民政策に関する課題と展望を、移民問題の分極化、バイデン政権の失策、移民政策とアメリカ経済、の3点から解説されました。下斗米先生によると、バイデン政権は中南米からの非正規移民(不法移民)の増加に対し、移民の合法化や送り出し国への経済支援を試みたものの、国境の混乱を抑えられず、移民流入を減少させる成果には至りませんでした。移民制限が経済成長に与える影響として、少子高齢化や熟練労働者の減少が懸念され、移民の重要性がバイデン政権では強調された一方で、移民制限を強化するトランプ政権の政策には、効果の限定性や社会経済への悪影響が指摘されました。移民政策は短期的な課題にとどまらず、アメリカの長期的な経済・社会課題に大きく影響を与えるテーマであり、下斗米先生の講義を通じて、今後も重要な議論を理解することができました。
・ディスカッション/質疑応答の部
質疑応答では、討論者である久保先生から全体的な総括が行われた後、各発表に対するコメントと質問が進められました。久保先生は、アメリカ政治の過去と現在が交差する中で、トランプの1980年代後半からの保護主義的姿勢や製造業へのノスタルジアが、どのように現在の支持基盤に繋がっているかについて具体例を交えて説明されました。その後、各発表者への質問が行われ、先生方も回答を通じて議論を深めました。議論は有意義な洞察を提供し、選挙における多角的な視座を得る場となりました
第2部<講演会>新政権の外交・安全保障政策の展望:国際協調重視か、孤立主義か?
第2部では、久保先生にご講演いただき、アメリカ外交政策の歴史的背景を振り返りながら、第一次トランプ政権やバイデン政権の外交を概観し、今後予想される第二次トランプ政権の外交政策について展望していただきました。久保先生は、トランプ外交の特徴として「アメリカ・ファースト(America First)」と「力を通じた平和(Peace through Strength)」という2つのスローガンを挙げ、一見矛盾するように見えるこれらをトランプ自身は、適宜使い分けていると解説されました。
特に、中国外交では、軍事力よりも関税などの経済的手段を重視するアプローチが取られている点が指摘されました。また、ロシア=ウクライナ戦争における非介入の姿勢や、イスラエル=ガザ紛争に対する宗教保守派の影響が反映された外交姿勢についても説明がありました。最後に、久保先生は、国際秩序の変化に伴い、第二次トランプ政権が「法の支配に基づく国際秩序」にどのように関与していくのかが重要な課題になると強調されました。
講演後には、研究者や学生を含む参加者との質疑応答が行われ、活発な議論が展開されました。鋭い質問や洞察が飛び交い、非常に有意義な時間となりました。本フォーラムにご参加いただいた皆様に、改めて深く感謝申し上げます。