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政治経済学部

【政治経済学部】ゼレンスキー大統領の「人間的な価値観」コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使に海野ゼミナールがヒアリング調査を実施しました

2022年12月21日
明治大学 政治経済学部事務室

明治大学政治経済学部海野ゼミナールの「ウクライナ・プロジェクト」第3弾を紹介いたします。

海野ゼミナールでは2022年12月5日、ウクライナ大使館でセルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使に、ヒアリング調査を実施しました。実施時間は約1時間、使用言語は英語、調査目的はゼレンスキー大統領のリーダーシップ並びにコミュニケーション・スタイルを明確にすることでした。

質疑応答は、以下の通りです。

Q1: 大使は10月1日、茨木県守谷市で行われた演説でゼレンスキー大統領のスピーチの能力を高く評価しました。ゼレンスキー大統領の高いスピーチ能力について、具体例を示して頂けますでしょうか。

A1: 大統領に就任する前のゼレンスキーの職業と関係があります。彼はアーティストでした。アーティストはコミュニケーションの仕方について常に練習しています。コミュニケーションの仕方はうまくいくための不可欠なスキルです。ゼレンスキーは俳優として成功し、芸能事務所を所有して、テレビに出演していました。
ゼレンスキーは熱意を持って語り、聴衆を引き付けて、彼等に影響を与えることに長けています。彼は世界のリーダーたちとコミュニケーションをとり、世界中の議会で何度も演説を行っています。1日に5回から7回も演説をして、リーダーたちと電話でコミュニケーションを取り続けます。

Q2:ゼレンスキー大統領について文献調査を行った際、大統領を批判する文献がありました。戦争が起きる前のゼレンスキー大統領の支持率をみると、現在の支持率よりも低いことが分かります。戦争前と今のゼレンスキー大統領のリーダーシップ・スタイルに変化はありますか。

A2: ウクライナには、大統領を選んだ翌日から彼の批判を始める文化があります。どのような人物が選ばれても、関係なく批判をします。
しかし、現在ゼレンスキーはリーダーシップを発揮しています。ゼレンスキーはキエフに残りました。ゼレンスキーが国内に残った姿をみて、彼はロシアの占領に抵抗し、ロシアを許さないと、ウクライナ国民は信じるようになりました。
もう1つ重要な点を挙げてみましょう。ゼレンスキーは軍事専門家の意見に介入しません。彼は専門家の邪魔をしないので、彼等は素晴らしい仕事ができます。
ゼレンスキーは専門家には専門家としての仕事をしても
らうという考え方をしています。一方、彼は自分の仕事は世界の政治家とコミュニケーションを図り、ウクライナ支援を引き出すことだと思っています。

Q3:つまり、ポロシェンコ前大統領と比べると、異なったマネジメント・スタイルであるという認識でよろしいでしょうか。

A3:その通りです。

Q4: 大使はゼレンスキー大統領の「民主主義的な価値観」がウクライナ国民の支持や信頼を得る上で、大きな役割を果たしと思いますか。

A4: これは重要な質問です。私は「民主主義的な価値観」ではなく、「人間的な価値観」と呼びます。ゼレンスキーは、非常に思いやりのある人物です。ウクライナ国民の命や犠牲者に対する彼の姿勢は、極めて誠実です。これまでに起きた問題は彼にとって、痛ましいことであることは間違いありません。
また、ゼレンスキーは家族を重視します。これはウクライナ人にとって非常に重要な問題です。というのは、私たちの絶対基準(黄金の基準)は、家と庭があり、家族がいることです。これらは生きる上で欠かせないものです。ゼレンスキーは家族がとても重要だと主張しています。

Q5: 日本にはゼレンスキー大統領と似たようなリーダーシップ・スタイルをとる政治家はいますか。日本人とウクライナ人のリーダーの間に共通のコミュニケーション・スタイルが存在すると思いますか。

A5: 私はそれらの質問に対して判断できる立場にはないと思います。私には難しい質問です。相違点を挙げれば、ウクライナでは直接的なコミュニケーションをとります。
一方、日本では直接的なコミュニケーションを避けます。特に、否定的なメッセージを発信する際、日本人は間接的なコミュニケーションをとる傾向があります。

Q6: ゼレンスキー大統領のソーシャル・メディアの使い方について聞かせてください。キエフがロシアに攻撃された際、彼はソーシャル・メディアを通じてキエフに残っていることを伝えました。ゼレンスキー大統領がウクライナ国民や世界とコミュニケーションを取る際、ソーシャル・メディアはどのような影響をもたらしていますか?

A6:とても良い質問です。ロシアとウクライナの戦争は、フェイスブックが誕生してから初めての本格的な戦争です。フェイスブックの誕生は2010年でした。これまでソーシャル・メディアのある状態で、大規模な戦争は行われませんでした。どのようにソーシャル・メディアがプロパガンダや対プロパガンダに使われるのかを研究することは意義があります。
ロシアとの戦争はすでに2014年に始まっていたので、ウクライナは2月24日を準備が十分整った状態で迎えることができました。ウクライナはこの8年間、ソーシャル・メディアについて継続的に訓練を行い、プロパガンダ対策を行ってきました。例えば、「デジタル化による偽情報の作戦機関 (Center for Digital Disinformation Campaign)」のような対プロパガンダ対策の機関の設置です。

以上、ヒアリング調査において、殊に興味深い質疑応答を取り上げてみました。大使の質疑応答から以下のことが分かると思います。

第1に、ゼレンスキー大統領のウクライナ国民の命や犠牲者に対する思いやりのある「人間的な価値観」に基づいたリーダーシップ・スタイルが、ウクライナ国民の支持及び信頼を勝ち取り、彼等を引き付けていることが明らかになりました。

第2に、ゼレンスキー大統領は軍事専門家に信頼を置き、自分のスキルと役割を認識し、実践している点が明確になりました。同大統領の主たる役割は、情熱的なコミュニケーションを通じて、世界の政治家から支援を引き出すことです。

第3に、ソーシャル・メディア時代における初めての本格的な戦争であるウクライナとロシアの戦争では、言うまでもありませんが、ソーシャル・メディアの役割が極めて重要であることが分かりました。誤情報やプロパガンダに対して、ソーシャル・メディアを駆使し、防衛策を講じることが不可欠です。

今後、海野ゼミナールでは「ウクライナ・プロジェクト」第4弾に取り組んで参ります。

ウクライナに栄光あれ!(God bless Ukraine!)

なお、質問内容はゼミの総意によるものであり、個人名は出してありません。但し、テープ起こしと日本語訳は3年生の川西大貴が担当したことを付記します。