政治経済学部のグローバル教育・留学
【政治経済学部・藤本穣彦ゼミナール】極地建築家・村上氏(本学・卒業生)が「食糧・食事・食卓のなかにある、暮らしの規矩を探して」をテーマに講義
2023年08月02日
明治大学 政治経済学部事務室
極地建築家の村上氏(2002年 本学理工学部卒)
2023年7月18日の講義「食料経済学」に、明治大学の卒業生で極地建築家の村上祐資さん(2002年・理工学部卒業)をお招きしました。「食糧・食事・食卓のなかにある、暮らしの規矩を探して」というテーマでお話いただきました。
その内容を、藤本ゼミナールの栗原駿と内山結葉がレポートします。
村上さんは、南極昭和基地の越冬隊や火星模擬実験生活に参加するなど、様々な極地で生活をしてきました。極地と呼ばれる厳しい環境にある美しい暮らし方を探すため、非日常の中にある日常を探すため、様々な極地の生活を踏査してきた極地建築家です。
もし地球で暮らせなくなったら、皆さんはどうしますか?
現在様々な団体が、人が火星=極地で暮らすための研究を行っています。その研究で実際に極地生活を送ることは、精神的にも肉体的にもとても過酷なことです。そのような過酷な環境の中、村上さんは、仮に私たちのような一般の人が火星で「暮らす」としたらそこにはどのような壁があるのか、何がきっかけで個が崩れ、集団に歪みが生じるのかを考えてきました。
仕事の場と暮らしの場、共有スペースとパーソナルなスペースが入り交じる閉鎖空間で、どうすれば人は安心して暮らすことが出来るのか。村上さんは、“安全は食から”と考え、そのキーワードの一つが「小鉢」だったと言います。食事が小鉢で用意されることで大きな共有テーブルに自分の居場所をつくることができ、ほっと一息つける空間を生み出すことができたそうです。限られた食糧しかない極地ではそこにあるものをどう食べるか、どういう食卓をつくるのかが大切になるのだと感じました。
また、資源が限られているという点では地球も同じ。これから私たちがどのような食卓・暮らし・社会を地球でつくるのかを考えるきっかけになりました。
次に、「習慣」と「問題への向き合い方」のお話を残しておきます。
「人は習慣なしでは生きられない」
村上さんは、火星生活実験で、外界から遮断された荒野を火星に見立て、実際に火星に暮らすことになった際に想定される環境の中で160日間生活する社会実験を行いました。その中で、村上さんはこのような生活や他のクルーを観察することによって、暮らしの中に本当に必要なのは、習慣であると気がついたそうです。
私たちの生活で当たり前にある習慣は、極地では当たり前ではない。一切の習慣のない中で生活をしていると、リズムが取れなくなり、心も身体もバラバラになってしまう。これが、村上さんが極地で見た現実でありました。その中で、メンタルコントロールできる探検家には習慣がありました。その習慣の一例として、必ずパジャマに着替えること。自分がoff状態であることを自分と自分以外にも示すということがあったとお話ししていただきました。
私たちの暮らしや欲の矢印は、外を向きすぎているのかもしれない。「何も縛られないこと」「自由であること」「足りないもの」「欲しいもの」「満たされるもの」にばかり目を向けて、本当に必要なものに気づけていない。私たちが豊かに暮らしていくために、自分の内側に目を向け、習慣というものが果たす役割を認識すること、考えてみることが必要なのかもしれません。また、そのことがどんなに難しくてもそこに目を向ける努力をしなくては、気づかぬうちに、自分たち自身の暮らしを苦しく、重いものにしてしまう可能性があります。私たちは、当たり前にあるものの価値についての「問い」を受けとりました。
さらに、「問題への向き合い方」についても示唆的なお話がありました。
NASAという国際機関は、暮らしの豊かさよりも、とにかく生き延びることを重視して実験を行っているそうです。そんな実験に参加する人たちは、厳しい選考をくぐり抜けた優秀な人たちで、火星に行きたくてどうしようもない人たちとのこと。
そのような人たちとの生活は、なにか不自由なことがあっても「大丈夫です」と言って問題がなかったことにされてしまう。また、高い問題解決能力を持っているからこそ、問題を処理して、問題ではなくしようとすることがあったそうです。
過酷な閉鎖空間で、同じ人たちが長期間生活する中では、問題が起こるのは必然的で問題の根本解決はできないことが多い。その中で、良好な人間関係を保っておくため、豊かな生活をするためには、「問題はいつもあるもの」として捉え、上手く付き合っていくという考えが必要だったのです。そして、声を大にして主張される希望的観測ではなく、実態を徹底的に観察することの大切さも教えていただきました。
私たちは、しばしば、問題があるとすぐにそれを処理して、解決しようとしてしまいます。しかし、問題は常にあるものとして考え、問題をそのままに、でも共有して、集団として上手く付き合っていく。そのことが、私たちが豊かに生きることにつながっていくのかもしれません。
村上さんのお話を通じて、当たり前とされているもの、良いとされている逆側に目を向けてみる重要性、実態をしっかりと観測することの大切さを学びました。
改めまして、村上祐資さん、お忙しいところ貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしております!!
(栗原駿・内山結葉)
その内容を、藤本ゼミナールの栗原駿と内山結葉がレポートします。
村上さんは、南極昭和基地の越冬隊や火星模擬実験生活に参加するなど、様々な極地で生活をしてきました。極地と呼ばれる厳しい環境にある美しい暮らし方を探すため、非日常の中にある日常を探すため、様々な極地の生活を踏査してきた極地建築家です。
もし地球で暮らせなくなったら、皆さんはどうしますか?
現在様々な団体が、人が火星=極地で暮らすための研究を行っています。その研究で実際に極地生活を送ることは、精神的にも肉体的にもとても過酷なことです。そのような過酷な環境の中、村上さんは、仮に私たちのような一般の人が火星で「暮らす」としたらそこにはどのような壁があるのか、何がきっかけで個が崩れ、集団に歪みが生じるのかを考えてきました。
仕事の場と暮らしの場、共有スペースとパーソナルなスペースが入り交じる閉鎖空間で、どうすれば人は安心して暮らすことが出来るのか。村上さんは、“安全は食から”と考え、そのキーワードの一つが「小鉢」だったと言います。食事が小鉢で用意されることで大きな共有テーブルに自分の居場所をつくることができ、ほっと一息つける空間を生み出すことができたそうです。限られた食糧しかない極地ではそこにあるものをどう食べるか、どういう食卓をつくるのかが大切になるのだと感じました。
また、資源が限られているという点では地球も同じ。これから私たちがどのような食卓・暮らし・社会を地球でつくるのかを考えるきっかけになりました。
次に、「習慣」と「問題への向き合い方」のお話を残しておきます。
「人は習慣なしでは生きられない」
村上さんは、火星生活実験で、外界から遮断された荒野を火星に見立て、実際に火星に暮らすことになった際に想定される環境の中で160日間生活する社会実験を行いました。その中で、村上さんはこのような生活や他のクルーを観察することによって、暮らしの中に本当に必要なのは、習慣であると気がついたそうです。
私たちの生活で当たり前にある習慣は、極地では当たり前ではない。一切の習慣のない中で生活をしていると、リズムが取れなくなり、心も身体もバラバラになってしまう。これが、村上さんが極地で見た現実でありました。その中で、メンタルコントロールできる探検家には習慣がありました。その習慣の一例として、必ずパジャマに着替えること。自分がoff状態であることを自分と自分以外にも示すということがあったとお話ししていただきました。
私たちの暮らしや欲の矢印は、外を向きすぎているのかもしれない。「何も縛られないこと」「自由であること」「足りないもの」「欲しいもの」「満たされるもの」にばかり目を向けて、本当に必要なものに気づけていない。私たちが豊かに暮らしていくために、自分の内側に目を向け、習慣というものが果たす役割を認識すること、考えてみることが必要なのかもしれません。また、そのことがどんなに難しくてもそこに目を向ける努力をしなくては、気づかぬうちに、自分たち自身の暮らしを苦しく、重いものにしてしまう可能性があります。私たちは、当たり前にあるものの価値についての「問い」を受けとりました。
さらに、「問題への向き合い方」についても示唆的なお話がありました。
NASAという国際機関は、暮らしの豊かさよりも、とにかく生き延びることを重視して実験を行っているそうです。そんな実験に参加する人たちは、厳しい選考をくぐり抜けた優秀な人たちで、火星に行きたくてどうしようもない人たちとのこと。
そのような人たちとの生活は、なにか不自由なことがあっても「大丈夫です」と言って問題がなかったことにされてしまう。また、高い問題解決能力を持っているからこそ、問題を処理して、問題ではなくしようとすることがあったそうです。
過酷な閉鎖空間で、同じ人たちが長期間生活する中では、問題が起こるのは必然的で問題の根本解決はできないことが多い。その中で、良好な人間関係を保っておくため、豊かな生活をするためには、「問題はいつもあるもの」として捉え、上手く付き合っていくという考えが必要だったのです。そして、声を大にして主張される希望的観測ではなく、実態を徹底的に観察することの大切さも教えていただきました。
私たちは、しばしば、問題があるとすぐにそれを処理して、解決しようとしてしまいます。しかし、問題は常にあるものとして考え、問題をそのままに、でも共有して、集団として上手く付き合っていく。そのことが、私たちが豊かに生きることにつながっていくのかもしれません。
村上さんのお話を通じて、当たり前とされているもの、良いとされている逆側に目を向けてみる重要性、実態をしっかりと観測することの大切さを学びました。
改めまして、村上祐資さん、お忙しいところ貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしております!!
(栗原駿・内山結葉)