政治経済学部のグローバル教育・留学
【政治経済学部】国際シンポジウム「デンマークのリスキリングから何を学ぶか」を開催しました
2024年11月26日
明治大学 政治経済学部事務室
倉地氏、エリアス氏、フェラン氏、ロウ氏によるパネルディスカッション
講演をするエリアス氏
講演をするフェラン氏
講演をするロウ氏
2024年11月10日(日)、明治大学駿河台キャンパスにおいて、明治大学政治経済学部准教授の倉地真太郎氏と立教大学経済学部教授の菅沼隆氏が共同で主催するシンポジウム「デンマークのリスキリングから何を学ぶか」が開催されました(共催:明治大学政治経済学部経済学科、後援:在日本デンマーク大使館、日本デンマーク協会)。今回の国際シンポジウムは、科研費プロジェクト「イノベーティブ福祉国家としてのデンマークー福祉国家の持続可能性の制度的基盤の研究」の成果報告の一部として行われたものです。
「新しい資本主義」において近年注目を集める「リスキリング」ですが、デンマークは労働市場の柔軟性と社会的なセーフティネットを両立する「フレキシキュリティ」という労働市場政策が導入されている国であり、デンマークの人たちの働き方は国内外で注目を集めています。そこで今回のシンポジウムでは、デンマークの労働市場政策の実務担当者と研究者をお招きし、デンマークの「リスキリング」の最前線を広く知ってもらい、日本との比較の視点から議論を行いました。
最後にコーディネーターの倉地氏から国際シンポジウムの趣旨説明とデンマークの労働市場政策や職業訓練制度に関する基本的な説明が行われました。
第一講演者のスティナ・エリアス(Stina Elias)氏(デンマーク中央職業訓練委員会委員長、DEA:Tænketanken)はデンマークの労働市場政策立案のトップとして、職業訓練政策の現状と課題について精通している方です。スティナ氏はデンマークの職業訓練プログラムが多種多様のプログラムから構成され、それを支える業界・地区委員会等の組織ネットワークが機能していること、デンマークの職業訓練システムは座学と実習を組み合わせる「デュアルシステム」に基づいており、その内容を労使が協力して組み立てていることを解説しました。多様な職業訓練プログラムの提供を通して、受講者の興味関心や将来ビジョンに応じて柔軟に対応できる仕組みがあることを強調しました。
第二講演者のトマス・フェラン氏(Thomas Felland)氏(FH:Fagbevægelsens Hovedorganisation(旧LO労働組合全国組織))は労働組合の全国組織でコンサルタントを担当し、職業訓練政策の策定にも関わっています。トマス氏は労働組合が職業訓練システムの開発と管理にどのように管理しているのか、政労使の三者合意、企業と組合が協力して訓練費用や給与額を拠出する仕組みを取り上げて説明しました。デンマークの労働市場の課題として、職業訓練の受講者、特定の熟練技術者、職業訓練の指導をする者(場所)の人手不足をあげました。今後の対策としては職業訓練の予算を増やしたり、インセンティブを強化したりする仕組みを取り上げました。また、近年合意・交渉が進んでいる「緑の三者合意」(グリーンテクノロジー推進の資金確保)も紹介しました。
第三講演者のアント・ロウ(Arnt Vestergaard Louw)氏(Aalborg University、オルボー大学准教授)は研究者の視点で現場でのヒアリング・質的調査の結果から、デンマークの職業訓練制制度「デュアルモデル」の実態について解説しました。座学と現場実習を交互に行い、現場で「実際に試す」を通じて、理論と実践を統合的に理解し、プロフェッショナルなるを実感し、(後世に残る仕事として)仕事の責任を引き受け、現場コミュニティに参加することができることを強調しました。ただし、現状としては座学と現場実習の間にギャップがあることが課題であり、デュアルシステムをうまく機能させるためには学生の視点に立つこと、学生のモチベーションを高めるような現場実習体制の構築が必要であることが述べられました。
シンポジウムの後半は、参加者と講演者による質疑応答が行われました。質疑応答では、三者合意がなぜ可能なのか、デュアルシステムの仕組み(転職時はどうするか、技術流出へ対応)、緑の三者合意とグリーンジョブ・脱炭素の関係、日本への提言・感想等が議論されました。特に日本への提言として、アント氏は日本とデンマークが大きくシステムが異なるため、システムではなく原則を学び応用する必要があること、日本の職人技術が高く、技術への誇りを維持すべきことなどが述べらました。トマス氏は、労使の信頼関係構築が重要で協力することのメリットを見出すべきと述べました。最後にスティナ氏は日本社会の安全性という強みがあること、日本とデンマークの職業訓練や労働市場の状況が異なるため)職場を生涯学習の場として捉えることも重要であること、ダイバーシティの推進を検討すべきと述べました。
最後に主催の一人である菅沼氏が閉会の挨拶として、デンマークシステムの優れた点として中央レベルで職業訓練政策において司令塔が存在し、社会ニーズに合わせて柔軟にプログラムを変えることができること、労働組合と企業が職業訓練に対して強い責任感を持っていることをあげました。その上で、日本においても、労働組合は企業内訓練だけでなく、社会全体のスキル向上に関与し、経営者団体も社会全体の視点を持ち、労使のパートナーシップを通じた政府の職業訓練政策の改革が必要であることを述べました。
シンポジウムに参加した明治大学大学院生の森嶋和之さんは次のように感想を述べました。
「デンマークの職業訓練システム(デュアルシステム)や職業訓練プログラムの充実度合と、三者(従業員・経営者・政府)合意の下で職業訓練が行われるなどといったデンマークと日本との違いに驚きました。特に日本の労使の信頼関係は希薄であり、労使対立ではなく労使協調の重要性を指摘するトマス・フェラン氏のコメントは考えるきっかけとなりました。アント・ロウ氏がシステムや制度を模倣するのではなく、その背後にある原理を学んでほしいというコメントをしたことも印象的でした。日本でデンマークのような労働組合がどのようにすれば形成されるのか、労働組合に入らない労働者をどのようにして拾い上げていくべきなのか。日本の労働組合のあり方にも関心が生まれました。」
本シンポジウムは対面・オンラインあわせて100名以上の方に参加いただき盛会に終わることができました。今後も明治大学でデンマーク・北欧の今を知るイベントを開催していく予定です。
「新しい資本主義」において近年注目を集める「リスキリング」ですが、デンマークは労働市場の柔軟性と社会的なセーフティネットを両立する「フレキシキュリティ」という労働市場政策が導入されている国であり、デンマークの人たちの働き方は国内外で注目を集めています。そこで今回のシンポジウムでは、デンマークの労働市場政策の実務担当者と研究者をお招きし、デンマークの「リスキリング」の最前線を広く知ってもらい、日本との比較の視点から議論を行いました。
最後にコーディネーターの倉地氏から国際シンポジウムの趣旨説明とデンマークの労働市場政策や職業訓練制度に関する基本的な説明が行われました。
第一講演者のスティナ・エリアス(Stina Elias)氏(デンマーク中央職業訓練委員会委員長、DEA:Tænketanken)はデンマークの労働市場政策立案のトップとして、職業訓練政策の現状と課題について精通している方です。スティナ氏はデンマークの職業訓練プログラムが多種多様のプログラムから構成され、それを支える業界・地区委員会等の組織ネットワークが機能していること、デンマークの職業訓練システムは座学と実習を組み合わせる「デュアルシステム」に基づいており、その内容を労使が協力して組み立てていることを解説しました。多様な職業訓練プログラムの提供を通して、受講者の興味関心や将来ビジョンに応じて柔軟に対応できる仕組みがあることを強調しました。
第二講演者のトマス・フェラン氏(Thomas Felland)氏(FH:Fagbevægelsens Hovedorganisation(旧LO労働組合全国組織))は労働組合の全国組織でコンサルタントを担当し、職業訓練政策の策定にも関わっています。トマス氏は労働組合が職業訓練システムの開発と管理にどのように管理しているのか、政労使の三者合意、企業と組合が協力して訓練費用や給与額を拠出する仕組みを取り上げて説明しました。デンマークの労働市場の課題として、職業訓練の受講者、特定の熟練技術者、職業訓練の指導をする者(場所)の人手不足をあげました。今後の対策としては職業訓練の予算を増やしたり、インセンティブを強化したりする仕組みを取り上げました。また、近年合意・交渉が進んでいる「緑の三者合意」(グリーンテクノロジー推進の資金確保)も紹介しました。
第三講演者のアント・ロウ(Arnt Vestergaard Louw)氏(Aalborg University、オルボー大学准教授)は研究者の視点で現場でのヒアリング・質的調査の結果から、デンマークの職業訓練制制度「デュアルモデル」の実態について解説しました。座学と現場実習を交互に行い、現場で「実際に試す」を通じて、理論と実践を統合的に理解し、プロフェッショナルなるを実感し、(後世に残る仕事として)仕事の責任を引き受け、現場コミュニティに参加することができることを強調しました。ただし、現状としては座学と現場実習の間にギャップがあることが課題であり、デュアルシステムをうまく機能させるためには学生の視点に立つこと、学生のモチベーションを高めるような現場実習体制の構築が必要であることが述べられました。
シンポジウムの後半は、参加者と講演者による質疑応答が行われました。質疑応答では、三者合意がなぜ可能なのか、デュアルシステムの仕組み(転職時はどうするか、技術流出へ対応)、緑の三者合意とグリーンジョブ・脱炭素の関係、日本への提言・感想等が議論されました。特に日本への提言として、アント氏は日本とデンマークが大きくシステムが異なるため、システムではなく原則を学び応用する必要があること、日本の職人技術が高く、技術への誇りを維持すべきことなどが述べらました。トマス氏は、労使の信頼関係構築が重要で協力することのメリットを見出すべきと述べました。最後にスティナ氏は日本社会の安全性という強みがあること、日本とデンマークの職業訓練や労働市場の状況が異なるため)職場を生涯学習の場として捉えることも重要であること、ダイバーシティの推進を検討すべきと述べました。
最後に主催の一人である菅沼氏が閉会の挨拶として、デンマークシステムの優れた点として中央レベルで職業訓練政策において司令塔が存在し、社会ニーズに合わせて柔軟にプログラムを変えることができること、労働組合と企業が職業訓練に対して強い責任感を持っていることをあげました。その上で、日本においても、労働組合は企業内訓練だけでなく、社会全体のスキル向上に関与し、経営者団体も社会全体の視点を持ち、労使のパートナーシップを通じた政府の職業訓練政策の改革が必要であることを述べました。
シンポジウムに参加した明治大学大学院生の森嶋和之さんは次のように感想を述べました。
「デンマークの職業訓練システム(デュアルシステム)や職業訓練プログラムの充実度合と、三者(従業員・経営者・政府)合意の下で職業訓練が行われるなどといったデンマークと日本との違いに驚きました。特に日本の労使の信頼関係は希薄であり、労使対立ではなく労使協調の重要性を指摘するトマス・フェラン氏のコメントは考えるきっかけとなりました。アント・ロウ氏がシステムや制度を模倣するのではなく、その背後にある原理を学んでほしいというコメントをしたことも印象的でした。日本でデンマークのような労働組合がどのようにすれば形成されるのか、労働組合に入らない労働者をどのようにして拾い上げていくべきなのか。日本の労働組合のあり方にも関心が生まれました。」
本シンポジウムは対面・オンラインあわせて100名以上の方に参加いただき盛会に終わることができました。今後も明治大学でデンマーク・北欧の今を知るイベントを開催していく予定です。