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研究科長あいさつ

文学研究科長 田母神 顯二郎



 古代ギリシャの哲人で「万学の祖」とも言われるアリストテレスは「すべての人間は、生まれながら、知ることを欲する」と書きました。しかもアリストテレスは、この言葉につづけ、すぐに二つの「知」を区別しています。一つは、現象を経験的かつ表面的に知って得られる知、もう一つは、それらの成り立ちや原因を深く掘り下げて得られる「真の知」です。
 現代というますます混迷の度を深め、多くの価値が崩壊していく世界にあって、学問の原点ともいうべきこのアリストテレスの言葉は、とても貴重な指針を与えてくれるものだと私は思います。どれほどAIが発達し、処理しきれないほどの情報が氾濫する世になっても、真の知の営みを忘れてしまえば、人間として生きることの意味がなくなってしまうからです。そして文学研究科の存在理由も、ひとえにこの点にあると思っています。
 実際、13の専攻・専修から成り立つ文学研究科は、人類の根源的な知の欲求に応えるだけでなく、人間の知を絶えず新たなものにするためのエネルギーに満ちたトポスです。もちろん、大学院では専門性が重んじられ、そのための厳しい修行を日々積んでいかなければなりません。しかし学問には、他領域の知と方法を柔軟に取り入れ、新しい道を切り拓いていく学際性も求められます。多彩な専攻・専修をもつ本研究科では、領域横断的な授業として「文化継承学」、「総合文学研究」、「総合史学研究」などの授業が置かれ、研究者間の交流も盛んです。とくに史学と文学の教員が共同で運営する「古代学研究所」は、世界的にもユニークな研究クラスターで、これまでに数々の業績を挙げてきました。一方、演劇や地理学専攻などでは人間の多様な文化と暮らしを斬新な視点から研究することが可能ですし、臨床人間学専攻では、心と社会の両方から現代人が直面する問題を考究しています。また、恵まれた留学制度を利用し、フランスやドイツをはじめ世界の多くの国と地域へ留学する道も開けています。
 最後に、本文学研究科では、平均すると毎年6〜7人の博士号取得者が生まれ、その半数が大学専任教員などの研究職に就いています。これは充実したカリキュラムに加え、各教員が、ひとりひとりの自由と独自性を重んじながら、親身になって院生たちを指導してきた成果と言えるでしょう。また修士号を得て、大学職員、中高教員、都道府県教育委員会、国および地方自治体、一般企業に就職する院生も大勢います。
 いま道に迷っている人がいれば、その人こそ文学研究科を目指すべきでしょう。「悦ばしき知」を胸に、生涯充実した日々を歩むための門を、どうか勇気をもってくぐってください。

 
明治大学大学院