わたくしは、刑法・刑事法学を専門として研究しています。いい方をかえると、刑法という法律を解釈すること(法解釈学)がわたくしの課題ということになります。刑法学の領域においては、みずから犯罪行為を行う者を「正犯」、他者の犯罪行為に関与する者を「共犯」といいますが、①どのような基準であれば正犯と共犯の区別を明確にすることができるか、②「共同正犯」は正犯なのか共犯なのか、③犯罪現象における共同正犯の意義について、とくに検討を行ってきました。
共同正犯とは刑法60条に規定される関与形式であり、犯罪行為の部分的な遂行にとどまっても全員が正犯とされる点に特徴があります(これを一部実行の全部責任の原則といいます)。暴行のみを分担した者と財物奪取のみを分担した者が「共謀」していた場合には、暴行罪と窃盗罪が別々に成立するのではなく、この規定にしたがえば両者には強盗罪が成立することになります。この共同正犯の「処罰根拠」を正犯と共犯という形式からアプローチすることにより具体的に説明することができるのか否か。このことに強い関心をもっています。
このような共同現象を解明するためには、法律の問題以外に、社会学、心理学、組織論といった領域で議論される人間行動における「共働・共同・集団」の意義を前提にすることも重要です。つまり、共同正犯規定を的確に解釈するためには、他の学問領域からのアプローチが必要であると考えています。この意味においては、法律学という(一見すると)古典的な学問領域にあっても、学域横断的な思考をふまえなければ妥当・適切な結論を導けない場合もあることをぜひ強調しておきたいと思うのです。
その他、名誉毀損罪、犯人隠避・証拠偽造罪、企業犯罪などの論文も書いてきました。研究手法としては、わが国の判例および学説をベースに、外国法、とくにドイツ刑法(やはり判例・学説)を比較の対象としながら、オーソドックスな法律解釈学をベースにしつつ関心領域を拡げてきました。
【必要な外国語の能力】
大学院の講義・演習では、日本語の論文・判例の読解を中心に個別のテーマ(各自の修士論文のテーマ)を深掘りしていきますが、必要に応じて、ドイツ語・英語の文献をとり上げます(博士後期課程ではこちらがメインとなります)。
【大学院進学に向けて準備すること】
進学を希望される方は、わたくしの著書・論文を読むか、簡単な刑法・刑事法の教科書・参考書(厚くなくてよいです)を通読しておいてほしいと考えます。