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特別講義開催報告

情報コミュニケーション研究科特別講義開催報告

博士後期課程3年 岩瀨祥瑚





2022/10/21(金)、情報コミュニケーション研究科では、慶應義塾大学名誉教授の大石裕先生を講師にお招きし、「メディアの公共性——放送法第4条を中心に」と題して特別講義をオンラインで開催いたしました。
 
冒頭で、情報コミュニケーション研究科長の今村哲也教授より、「最先端の研究や成果にふれることのできる特別講義の機会を生かし、専門分野でない受講生の方たちも、議論を聴く中で学際的な理解や認知力を高めてもらいたい」と講義の趣旨が語られ、大石先生の講義が開始されました。
 
大石先生からは、「放送メディアの果たす大きな社会的役割、中でもジャーナリズムの機能は放送法第4条によって制約されるのか。逆に放送ジャーナリズムの自由を守るほうに作用するのか」という問題提起がなされ、メディアの公共性、日本放送協会の公共性、放送倫理基本綱領等の具体的な内容の解説がされました。また、講義の後半では、ジャーナリストの意見までもがフェイクとされてしまうフェイクニュースの問題について、いわゆる「偏向報道」はジャーナリズム組織や個々のジャーナリストの「価値」判断そのものであり、「公平・公正・中立・客観報道」はそもそも困難であるため、「偏向報道」に関する社会的理解が必要であると指摘されました。
 
講義後には、コメンテーターの大黒岳彦教授から、電波が希少なものであった時代には、国家が電波を管理して放送の公共性を担保していたが、インターネットの発達した現在は、国家が公共性を担保する必要はないため、「公共性」という概念自体が変容しつつあることを踏まえて「公共性」を編成し直すべきではないか、とコメントがありました。コメントに対して、大石先生は、欧米諸国でも分断が生じ、そのことが権威主義的な国家への志向性を強めている現代において、具体的にどのような形で、誰を担い手として国家とは異なる公共圏を考えることができるのか、現在は国家というものをもう一度考え直す段階ではないか、と応答され、お二方の依拠する専門分野の違いを背景として活発な議論が展開されました。
 
その後、司会の清原聖子教授から、「偏向報道」について学生にはどのように伝えていくべきか、との問いかけがあり、大石先生は、ジャーナリズムは偏向するものだということを理解したうえで、様々な角度からの意見を踏まえて社会が合意をもって意志決定するということの重要さを認識してもらいたいと返答されました。
 
その他、放送法4条の撤廃という議論があるが、このことについてどう捉えているか、という質問や、「公正」や「公平」という概念は基準があって機能するものであり、こうした概念を使用することよりも、立場を明確にしたうえで、事実に基づき意見表明する、というプロセスが重要ではないか、といった論点が提出され、参加者とも積極的な議論が交わされました。
 
全体を通して、フェイクニュースのような現代的な問題から、「公共性」、「公正・公平」といった概念の問い直しに至るまで、多岐にわたる論点について議論がなされた特別講義となりました。


【当日の様子】




明治大学大学院