情報コミュニケーション研究科特別講義開催報告
博士後期課程1年 河村まい香、小川凛
2023年10月6日(金)、情報コミュニケーション研究科では、選挙プランナーの松田馨氏を講師にお招きし、「ネット選挙解禁から10年の節目を迎えて~選挙プランナーに聞く」と題して特別講義をオンラインで開催しました。
松田先生のご職業である選挙プランナーは、優良な政治家を世に輩出するために、選挙に関する難解な公職選挙法・政治資金規正法を熟知する「コンプライアンスに関連する仕事」、適切な予算とスケジュールを管理する「プロジェクトマネージャーの仕事」、PR戦略のための情勢の調査・分析を行って当選への道筋をつけていく「広告代理店の仕事」という役割を担っています。日本では10名程度しか存在しない専門家です。そのような稀有な立場と経験から、ネット選挙が解禁されて何が変わったのか、将来的にネット投票はどのような利点と欠点を抱えているのかという2つをテーマにお話をしていただきました。
まず「ネット選挙運動」は、日本においては2013年に解禁されました。これにより、選挙運動期間中において政治家は、ウェブサイトやSNSなどのデジタルプラットフォームを活用して直接有権者にアプローチすることが可能になりました。松田先生によれば、選挙で行われる様々な活動は「地上戦・空中戦・ネット戦」の3つに分類することができます。地上戦とは、戸別訪問など脚を運んで対面で直接一対一で有権者と触れ合うような活動です。また、空中戦は、駅や街頭での演説など一対多数で有権者の耳や目に刷り込みを行う活動です。ネット戦とは、ホームページ、ブログ、X(旧Twitter)やLINEなどの各種SNSを活用して有権者にアプローチする活動です。これまでの選挙運動では、地上戦と空中戦と比較して、ネット戦に割かれるリソースは僅かでした。しかしながら、スマートフォンの普及に伴い、インターネットの情報を参考に投票をする人々の割合が増えた背景とも相まって、今は20%のほどの割合で重要さを増し、戦略として洗練されてきたとご教示いただきました。
松田先生が具体的に携わられた、ネット選挙の成功事例として、全国の市長で歴代最年少となる26歳で、兵庫県芦屋市の市長選挙で初めての当選を果たした高島りょうすけ氏の動画広告の戦略についてご紹介をいただきました。短い20秒間の動画広告の中で、若さと経歴不足を補うために、名前を繰り返し提示し続けることで知名度の上昇を図ったり、女性市民と談笑や対話する映像を集めたりすることで、女性支持者の獲得に努めるなどの工夫を施されたといいます。本事例からは、候補者の潜在的に所持するパーソナリティを引き出すことを大前提に、データに基づいたアドバイスを掛け合わせてイメージ戦略を行う選挙プランナーの巧みな技について学びました。
最後に、「ネット投票」に関する知見もご共有くださいました。つくば市を例に、投票所への移動が困難な人々にとってのネット投票の重要性が強調されました。一方で、不正行為の取り締まりや、データ改ざんといったリスク、プライバシー保護や予算問題など、ネット投票の課題が複数挙げられます。したがって、技術的には可能な時代となったとは言え、導入については留意が必要であると指摘されました。これまでネット投票を推進する主な目的は、若者の政治参加を促進することであると考えていましたが、今回の講義でこの考え方に対する新たな示唆を得ることができました。
最後の質疑応答セクションでは、総合司会である、アメリカ政治とメディアをご専門に、インターネットを使った選挙運動の研究をされている清原聖子先生から、日本も徐々にアメリカに近づいているという見解をコメントいただきました。特に本特別講義で紹介いただいたような日本のネット選挙の過渡期の状況は、欧米との比較が可能であり、学術的にも紹介される意義があるでしょう。他にも参加者から選挙プランナーの業務内容やネット選挙について様々な質問が終始飛び交い、活発な議論がなされました。
全体を通して、インターネット×選挙という高度情報社会における新しい選挙活動の形態について、政治家のPR動画の戦略に関するメディア論の視点や、ネット選挙やネット投票の複雑な課題と展望など、情報コミュニケーション研究科の特徴である「学際的」な視点を刺激する特別講義でした。
【当日の様子】