それはそれで放っておけばいいという話でもあるのですけれども、放っておくとデザイナーのインセンティヴがなくなり、新しい作品が生み出されなくなることもあり得ます。かといって、過度に保護するのもどうかという議論もあります。
一応、洋服のデザインなどについて法的に保護することは可能です。
一番主要な権利としては意匠権で、これは登録ができます。ただ登録まで時間がかかるので、登録が終わるころには、もう流行が終わっているというケースがあります。そのため保護が不十分だという意見もあります。
このような登録などしなくても、不正競争防止法という法律では、国内である商品を販売したら、その商品の形態は登録しなくても3年以内は保護できるという規制もあります。不正競争防止法2条1項3号のデッドコピー規制という規定がそれにあたります。しかし他方で、柄や模様のデザインは、この規定では保護されないため、これも欠点があるのですね。
その他の法的保護について考えてみます。例えば私が着ているユニクロのポロシャツは、おそらく著作権の保護対象にはならない。著作物としての創作性がないためです。個性的な工夫のあるコスチュームなどなら保護される可能性があります。つまり独特な何かであることが必要だということです。
ファッションプロダクトの商品形状が、いわゆる商品等表示として、不正競争防止法で保護される場合もあり得ますが、周知性や著名性の獲得がないと、保護されません。
それでは服のブランドに、これ以上新しいデザインを生み出すためのインセンティヴを付与する必要があるのでしょうか。短いサイクルでも、いわゆる「市場先行の利益」といって、先にマーケットに商品を出して、ある程度、1カ月とか2カ月でも利益を回収できる機会があれば、それでいいのではないか、という考え方もあります。そもそもファッションというのは、模倣を繰り返してこれまでもやってきたでしょう、という議論もあります。
他方でファストファッション自体、工程短時間化があまりにも進んでしてしまっているので、ラグジュアリーブランドのデザイナーのインセンティヴが足りなくなってきているのではないかという問題点もあるかもしれません。
これは未解決の問題ですので、いろいろ問題があることを指摘するにとどめたいと思います。
私は別にファストファッションが悪いとは思っていませんけれども、実はファストファッションは、環境や労働の観点から問題点が指摘されることが増えています。この点は無視できません。
ヨーロッパ、特にEUで政策を考える時には、もうSDGsに触れないわけにはいかない世界になってきています。そういった点も法的な規制で何とかするのか、あるいは他の手段でどうにかなるのかという、そういったことも考察の対象になってくると思います。
私の専門分野から、流行という主題を考えたときに重要である、模倣の自由と知財の独占との間の調整をめぐってお話しさせていただきました。