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暴力行動と言っても様々ですが、最も狭い意味で、他者に個人的に、身体的に危害を与えること、としておきましょう。これは動物にも広くみられるものです。心理学ではかねてより、この狭い意味での暴力行動が主要な研究対象のひとつとなっていました。一方で動物の行動学者から見ると、動物の観察においては、食べ物を奪う、縄張りを守るなどの行動が頻繁に見られるので、動物界に一般的に存在する行動であると認識されていました。動物学者から見ると、動物が生活する上で有利に使えるので、広く暴力行動が進化したのだととらえられます。よく人間社会が暴力を植え付けたと言われますが、狭義での暴力行動は広く動物界で見られるため、そういった事象を基盤に、暴力を人間社会のなかで考えていくのが良いということになります。 心理学で、動物の暴力がどういった形で触れられるようになってきたかということを説明しておきます。1990年代、心理学に脳科学と進化生物学が強く影響を及ぼすようになり、心理学は領域が広い学問になっていきました。心理学の標準的な入門書「ヒルガードの心理学」でも第14版から、脳科学的視点、進化生物学的視点が各章それぞれの背景として解説が加わり、人間の心、あるいは行動を語る時に、脳科学や進化生物の視点が非常に重要であるというスタンスが明確になっていきました。
次に脳科学と暴力行動との関連を見ていきます。暴力がどんな時に誘発されるかということに関する脳科学の知見があります。大脳辺縁系および大脳基底核は脳の中心部分で、この中心部分を基底として、神経細胞のネットワークが興奮していくプロセスであるとわかっています。興奮度の高い認知状態において、アドレナリン系の神経伝達物質が分泌されます。これは危機の感知、危機への対処、威圧による支配、それに対する服従、怒り、怯えるといった感情および行動のなかで、その基盤を支えている物質です。人間に限らず哺乳類で広く検出されています。 続いて暴力と生物学の関係です。分類上、人間に最も近いとされている動物がチンパンジーです。生物学的には両者はかなり似ているので、人間の暴力行動の多くは、チンパンジーと同様ではないかと理論的に推測できます。ただ認知機能を見ると、人間特有の部分が多くなります。たとえば社会性では、チンパンジーは個体優先で、上下関係が非常に強く、上下関係にまつわる暴力行動も観察されています。一方で人間は協力したり、助け合ったりしたりするので、その点は異なります。「環境」「感情」「思考」などでも人間特有のものは多く見られますが、暴力行動の素因は、チンパンジーと共通した点が中心になり、生得的な部分として捉える必要があるということになります。 生得的と聞くと、本当にそうなのだろうかと思われるかもしれませんが、これは双生児研究で実証されています。一卵性の双子の場合、遺伝情報が完全に一致しています。二卵性の双子なら半分が一致しています。この2つを比較することで研究を進めるのです。完全に後天的、経験でのみ決定するということになると、それぞれ一緒に生活している双子間の差はないということになります。しかし事実、社会、文化、教育の影響もあるものの、その影響よりも遺伝的な差異というのが非常に大きいことが分かっています。 身長や体重の遺伝率は80-86%。性格は36-52%。才能にいたっては50~92%です。では暴力はどうなんだということになりますが、攻撃性に対する直接のデータはないものの、青年期反社会性というデータがあり、これは62%。暴力は性格に比べると生得的影響が強く出ると言えます。
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