Go Forward

第2回「ガクの情コミ」学際研究ラボ開催!

「ガクの情コミ」学際研究ラボ テーマ「流行」

INDEX

総合討論(コーディネーター 高馬京子 教授)その1

【映像】

総合討論



 パネリスト
  今村 哲也(情報コミュニケーション学部教授)
  鈴木 雅博(情報コミュニケーション学部准教授)
  後藤  晶(情報コミュニケーション学部専任講師)
 コーディネーター
  高馬 京子(情報コミュニケーション学部教授)



高馬京子(以下高馬):今回のラボでは「流行」というテーマを設定しました。流行はまさに私の研究テーマです。大学ではフランスの地域文化論を担当しており、さまざまな枠を越えて創られていく文化を意味する超域文化論としてのファッションを研究対象としています。

研究対象としての「流行」
高馬:服飾、そしてファッション、流行は研究対象であって研究分野ではありません。例えば、建築は科学研究として建築学という「学」が付いて研究分野になっております。一方で「ファッション学」のような分野はありません。その代わり、流行は、あらゆる研究、学問分野の研究対象の1つとして、例えば哲学、社会学、法学、歴史学、経済学など、さまざまな分野における研究対象となり得ると言われています。
 現代の情報社会のさまざまな課題について、情報コミュニケーション学部で学際的に考えていこうということがこのラボの趣旨です。流行という、現代の情報社会を映し出すような現象について、1つの分野から見ていくのではなく、さまざまな分野の研究者である本学部教員からコメントをいただき、流行というものを考えた時に、どのような問いを立てられるのか。それを討論していくことで、学際的に流行を考えていきたいと思います。
 今回、3人の先生方がそれぞれ異なる分野から流行についてご報告をいただきました。流行をめぐっていろいろなテーマがあるのだということと、さらにそれらが全てどこかでつながっているということがご理解いただけたのではないかと思います。  
 3人の先生方の報告は直線的にもリンクしていると考えられます。
 まず、鈴木先生の報告では、流行の消費者、生産者となる人を育てる教育機関において、流行というものがどのように扱われてきたのかをご紹介いただきました。後藤先生の報告では、教育機関から社会に出て、企業で流行の生産者、消費者になっていく時に、どのような行動が行われているのかをご紹介いただきました。
 今村先生の報告では、それらに対して法がどのように対応していくのかをお話いただきました。
一分野一分野で掘り下げた形になっているとは思うのですけれども、このように俯瞰的・学際的に見ていくことで、今まで見つけられなかった課題も新たに提言できるのではないかと思います。
今村報告をめぐって
コメント
高馬:ここから討論に入っていきたいと思います。それでは、まずお1人目のご登壇者である今村先生の報告につきましてコメントいたします。
 報告で興味深かった事例の一つに、音楽と流行語によって法律が違うということがありました。法律の対応が異なるということを、分かりやすく伺いました。
模倣の自由と知財をめぐる法律の調整については、いわゆるさじ加減が気になったところです。具体的には3点あります。
 1つ目が、ラグジュアリーブランドとファストファッションの関係です。私の研究分野にも目配りをいただいて、ファストファッションの事例を出していただいたかと思います。
 私がラグジュアリーブランドのデザイナーの方に聞いた話をご紹介します。ラグジュアリーブランドがファッションを発表する。それを見たファストファッション側は、作るのが早い。場合によってはラグジュアリーブランドよりも先にそのファッションを出してしまうこともあるそうです。そのため、展開する時期を少しずらすなどのことができないか、デザイナー方も非常に悩んでいる、といった話です。
 こういう場合は、法律で罰されるわけでもないので、どのようにしたら良いのでしょうか。
 2点目は、日本のアニメ・漫画文化に関するお尋ねです。これらは場合によっては翻訳もついて違法に世界中に広がっていきました。結果的にそれが流行して、日本の文化としてアニメ・漫画が広がっていく。実際のアニメや漫画を作っている会社も、最終的には利益を得る流れになっていると思います。こうした広がり方はまさに先生がおっしゃった自由と法律の調整に関わってくると思いますが、こうした場合はどのように考えたらよいのでしょうか。
 3点目は、ファッションと環境問題、そして法律との関わりです。最近、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン 偽造不可のデジタルデータ)や、ARを活用した、バーチャルファッションなどが注目されるようになりました。その代表格が、デジタルファッションのスタートアップ企業であるDRESS X(https://dressx.com/)です。この会社はアメリカを拠点としていますがウクライナ人によって2020年創業されました。同社のデジタルファッションは、同社のアプリでユーザーがバーチャルな服を買って、自分の全身写真を撮影してアップすると、あとで購入した服を着たユーザーの写真が送られてくるというものです。
DRESS XがDRESS Xが生まれたきっかけはSDGsといわれています(https://www.wwdjapan.com/articles/1275260)。服を買ったり捨てたりするのはもったいない。環境問題が同社誕生の動機になっているのです。デジタルファッションは、著作権の問題などさまざまな関わりがあると思います。先生の方でお考えがあれば教えていただきたいと思います。



流通の速度・寛容的利用・権利行使
今村哲也(以下今村): まず、ラグジュアリーブランドよりファストファッションのほうが流通が早くなってしまうという問題なんですが、これはやむをえない面があります。
 デザインは情報財です。いったん暴露してしまったら真似をされますよね。情報財はそういう性質のものだということを前提に商売をしなければいけません。必要になれば権利を取れば、権利行使も可能です。
 あと、国によっても随分法律が違います。フランスはやはり服飾に関する権利はとても強くて、著作権でも広く保護されます。その点も含めて法律のこと、マーケットのことを理解した上で、デザイナーや創作をする人は、ビジネスとして考えなければいけないということです。
 ただ、もちろん法律では保護されますから、コピーが出回るほうが早かったからといって、そちらが保護されるということはありません。
高馬:そちらはないのですね。
今村:それは創作した人が権利を持つ可能性があるというのは確かですから、そこは問題ないのです。
あと著作権フリーで自由に使わせるほうが、さまざまな形で世の中に広まって、模倣のおかげで発展する部分もあるのでは、という点についてです。それは一面ではそのとおりです。知的財産法の分野では最近、寛容的利用(Tolerated Use)といって、権利行使できるけれども目こぼしをする。そのほうが新しい文化の発展にもつながるし、商売もより発展するかもしれないと想定して模倣を放置することもあります。
ただ、それで権利がなくなるかといったらそういうわけではなく、権利は残っているのです。いくつも方法はあります。あくまで権利者としては事実を黙認するのが寛容的利用です。必要な時には権利行使をしたいわけですから、そこは権利を残しておくというスタンスを取りつつ黙認するというケースは、著作権の分野ではよくあることです。もちろん黙認しない権利者もいます。そこは利用する側が「この権利は模倣すると危ない」、「この権利者は割と緩いから大丈夫かな」などと自分で見極めるわけです。
あるいは、ゲーム業界では、ゲーム実況を想定して、会社側であらかじめガイドラインを示して、「こういう場合は使用しても良いですよ」と言ってくれる場合もあります。そこは権利を持って商売をする側が、自分が一番儲かる方法を考えていて、さまざまな方法があります。
 これは確かに曖昧な部分が残っていて、グレーゾーンがあって良くないという意見もあります。しかしそれが知財なのです。権利をなくしてもいいという話になってしまったら、どんどん範囲が狭められ、表現の萎縮効果が生じるという議論もあります。
このバランスについては、パブリックドメイン派のような立場の人と、私のように権利が大事という立場の人で、考え方が少し違います。 
③ 知財とSDGs
今村:3つ目のSDGsの話ですけれども、これはなかなか難しいです。知的財産とSDGsは、また別の規範ですよね。ただ、日本ではまだ知財とSDGsの関係は、そこまで深く議論はされておらず、特許の世界では、そういう議論は出てきています。
 いずれにせよ、ヨーロッパなどでいろいろな政策文書などを考えていく上で、SDGsというキーワードが出てこないことがない世界になっていますので、知財は知財といった割り切りは、もうできない時代です。SDGsということを考えて、さまざまな制度設計や全体の利益を考えて見ていかなければいけない時代になっています。
 私がファストファッションの例を挙げたのは、今回の主題が流行で、高馬先生のご専門の関係からも入れてみた面もあるのですが、ただ、やはりファストファッションのことを議論する時は、知財の論点ももちろんありますが、SDGsを抜きにしては語れません。
 法律といっても1つではありません。さまざまな規範の分野がありますので、法律の分野でも総合的にいろいろな利益を考えながら検討していかなければいけないと思います。
高馬:例えばユニクロでも、商品をリサイクルしてリユースする取り組み(RE.UNIQLO https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/planet/clothes_recycling/re-uniqlo/)をしていますよね。ファストファッションの側もSDGsの影響を受けてきている面もありますね。
今村:SDGsに知財が反抗する場合もあるのです。例えば、ラグジュアリーブランドを加工し直して販売する場合は知財が関わります。それは商標権侵害になるのではないか、といった議論もあったりします。
高馬:SDGsだから良いというわけではないということですね。
今村:それが良いか悪いかも含めて、いろいろな論点が出てきて面白い分野ということです。
  
お問い合わせ先

教務事務部 情報コミュニケーション学部事務室

駿河台キャンパス
〒101-8301
東京都千代田区神田駿河台1-1
TEL.03-3296-4262~4
✉ infocom■mics.meiji.ac.jp  ※■を@に置き換えてください。

和泉キャンパス
〒168-8555
東京都杉並区永福1-9-1
TEL.03-5300-1627~9