② 流通の速度・寛容的利用・権利行使
今村哲也(以下今村): まず、ラグジュアリーブランドよりファストファッションのほうが流通が早くなってしまうという問題なんですが、これはやむをえない面があります。
デザインは情報財です。いったん暴露してしまったら真似をされますよね。情報財はそういう性質のものだということを前提に商売をしなければいけません。必要になれば権利を取れば、権利行使も可能です。
あと、国によっても随分法律が違います。フランスはやはり服飾に関する権利はとても強くて、著作権でも広く保護されます。その点も含めて法律のこと、マーケットのことを理解した上で、デザイナーや創作をする人は、ビジネスとして考えなければいけないということです。
ただ、もちろん法律では保護されますから、コピーが出回るほうが早かったからといって、そちらが保護されるということはありません。
高馬:そちらはないのですね。
今村:それは創作した人が権利を持つ可能性があるというのは確かですから、そこは問題ないのです。
あと著作権フリーで自由に使わせるほうが、さまざまな形で世の中に広まって、模倣のおかげで発展する部分もあるのでは、という点についてです。それは一面ではそのとおりです。知的財産法の分野では最近、寛容的利用(Tolerated Use)といって、権利行使できるけれども目こぼしをする。そのほうが新しい文化の発展にもつながるし、商売もより発展するかもしれないと想定して模倣を放置することもあります。
ただ、それで権利がなくなるかといったらそういうわけではなく、権利は残っているのです。いくつも方法はあります。あくまで権利者としては事実を黙認するのが寛容的利用です。必要な時には権利行使をしたいわけですから、そこは権利を残しておくというスタンスを取りつつ黙認するというケースは、著作権の分野ではよくあることです。もちろん黙認しない権利者もいます。そこは利用する側が「この権利は模倣すると危ない」、「この権利者は割と緩いから大丈夫かな」などと自分で見極めるわけです。
あるいは、ゲーム業界では、ゲーム実況を想定して、会社側であらかじめガイドラインを示して、「こういう場合は使用しても良いですよ」と言ってくれる場合もあります。そこは権利を持って商売をする側が、自分が一番儲かる方法を考えていて、さまざまな方法があります。
これは確かに曖昧な部分が残っていて、グレーゾーンがあって良くないという意見もあります。しかしそれが知財なのです。権利をなくしてもいいという話になってしまったら、どんどん範囲が狭められ、表現の萎縮効果が生じるという議論もあります。
このバランスについては、パブリックドメイン派のような立場の人と、私のように権利が大事という立場の人で、考え方が少し違います。