経営学部

フィールドスタディC(京都府、滋賀県:佐々木先生)実施報告

2025年11月07日
明治大学 経営学部事務室

株式会社川島織物セルコン①株式会社川島織物セルコン①

株式会社川島織物セルコン②株式会社川島織物セルコン②

オムロン京都太陽株式会社オムロン京都太陽株式会社

オムロン株式会社 草津事業所オムロン株式会社 草津事業所

松下資料館松下資料館

実習先:京都府、滋賀県
実習期間:2025年7月3日(木)~7月5日(土)

実習報告:
2025年7月3日から7月5日にフィールドスタディC京都の見学実習を行った。以下は、見学に参加した学生が作成し、授業担当者が整理した報告書である。

1.株式会社川島織物セルコン(7月3日午後)
 7月3日の最初の見学先は、川島織物セルコンであった。
 川島織物の「つづれ織り」は日本が世界に誇る伝統工芸のひとつであり、特徴はまるで絵画のような表現だ。実際はすべて手織りで仕上げられていて、その現場を見て驚いた。また、織っている途中では鏡を使わなければ模様がわからないことに特に驚き、そのことにより難易度が上がっていると感じた。今回の見学で一番印象的だったのは、つづれ織りが技術者によって大きく出来栄えが変わってしまうということである。同じ図案でも、糸の扱いや力加減、微妙な色の差し方によって大きく変わり、まさに人の手でしか生み出せない芸術であると感じた。機械では再現できない一点物の価値がそこにあり、職人の経験や感性が作品そのものの質を左右するという世界に強く惹かれた。また、出来上がった作品の感想を納入先に直接聞けないため、自分で納得できるよう精進して作業を進めるということを聞いたとき、職人としてのこだわりがあるのだと感じた。
 このことに関連して、事前学習の段階では川島織物セルコンの今後の課題・挑戦として作り手の思いが市場の新たなニーズ・トレンドを生むような商品を生み出していくことが発信情報として挙げられていたが、伺った話の中で、それぞれの職人が失敗のないよう丹精を込めて製品作りに向き合っていることを感じたため、プロモーションにおいて職人の思いとその技術と希少性をアピールするなどして、量産された物ではなく、高い技術で作られた精巧な一点物に価値を感じる消費者に商品を認知させ届けていくことがこの挑戦においての戦略になりえると考察した。
 経営面については、川島織物セルコンが非住宅のマーケットで大きなシェアを持っていることに、同事業戦略と品質の高さへの評価を感じた。ホテルや劇場、公共施設などの空間においては、デザイン性だけでなく耐久性や機能性も求められる。そうした高い基準を満たしながら、美術工芸品のような質感を提供できる点で、川島織物セルコンは他社と一線を画しているのだろうと考えた。また、非住宅分野は一件あたりの規模も大きく、ブランド力や信頼性が重視される。長い歴史の中で培ってきた技術と実績が、現在のマーケットでの強さにつながっていることに納得した。
 質疑応答では、事前学習で質問事項として用意していた項目について伺った。2023年の木村社長のインタビューで語られていた、昨今の日本の住宅市場での持ち家の減少による窓総数・カーテンの総数の減少傾向に対応し、カーテンとクッションやラグなどをセットで販売することで客単価を上げていく取り組みの動向について質問したところ、実際にクッションやラグを自社で設計・生産しているとの回答を得られた。さらに、上記の傾向にともない、現在はto Cよりもオフィスや商業施設といったto Bにシフトしているということや、従業員の1/3が営業であり、さらに営業の人材を増やしたいという展望についても述べられていた。これを受けて、審美性のみならず耐久性や機能性も備えた品質の高い信頼できる製品を作ることはもちろん重要であるが、経営として営業利益を上げていくためには、営業の力で商品をどう広め売っていくべきなのかという視点も重要であることを意識した。

2.オムロン京都太陽株式会社(7月4日午前)
 2日目の最初の訪問先はオムロン京都太陽であった。オムロン京都太陽では、企業と福祉の連携による日本初の福祉工場として、身体・知的・精神など多様な障がいを持つ社員が生きがいを持って働ける職場づくりに取り組んでいる。工場では、個々の特性に応じた補助具や治工具、半自動機を自社設計して生産ラインに導入しており、能力や嗜好に合わせた業務配置が実施されている。作業環境はバリアフリー・ユニバーサルデザインが施されており、可視化された業務手順や対話によるサポート体制が整えられている。
 判断が苦手な従業員のために、電気の消灯区分を色で可視化している取り組みに触れたとき、まさに「人」をベースに考える姿勢が表れているのだと強く感じた。効率や成果だけを追い求めるのではなく、一人一人の特性や課題に真正面から向き合い、その人に合った働き方を実現しようとする姿勢には深く感銘を受けた。このような取り組みを通じて、単に業務を遂行するという枠を超えて、「人」の可能性をどこまでも信じ、引き出そうとする企業理念が根付いていることを実感した。
 実際に工場内を案内していただいた際、社員の方々が熱心に働いている姿が印象的だった。障がい者が単に働くだけでなく、チームの一員として役割を担っている仕組みが確立されている。すなわち、業務の細分化やICTの活用、視覚的サポートの導入などにより、誰もが能力を発揮できる環境づくりが徹底されている点が印象的であった。これにより、多様な個性を尊重し、技術と改善で誰もが活躍できる環境づくりを実現する企業理念の具体的な実践を学べて、非常に示唆に富む視察であった。
 オムロン京都太陽の工場を見学し、障がいのある方々が安心して働ける環境が整えられていることに感銘を受けた。技術と福祉の融合によって、真の共生社会が形作られている現場を目の当たりにし、多様性を尊重する社会の実現に向けて自分にできることを考えるきっかけとなった。

3.オムロン株式会社 草津事業所 (7月4日午後)
 2日目の午後は、オムロン草津事業所を見学し、製造現場での改善活動や最先端技術の活用について多くの学びを得ることができた。
特に印象的だったのは、現場で発生する課題を抽出するまでの時間が従来の6分の1に短縮されているという点であり、絶え間ない改善の積み重ねによって製造の効率と精度が高められていることに驚かされた。実際に製造ラインを見学した際には、効率的かつ正確に作業を進めるための工夫が随所にみられ、デジタル技術や自動化を取り入れながらも品質を維持するものづくりへの真摯な姿勢が感じられた。加熱・冷却検査など複数の工程がシームレスに連携する自動化ラインや、工場内を自在に移動するモバイルロボットなど、未来のものづくりを体現するような光景は非常に感動的であった。
 また、生産現場では「人を超える自動化」「人と機械の高度協調」「デジタルエンジニアリング革新」の三本の柱が掲げられており、単なる自動化にとどまらず、人間の負担を軽減し、より創造的な業務へとシフトするという思想に共感を覚えた。自動運搬ロボットやメタルマスク洗浄ロボットも、安全性や省エネ設計を重視して導入されており、人手不足という社会課題に対する現実的な解決策となっている点が印象的であった。新たなシステム導入にあたっては、当然ながら初期段階での不具合もあるとのことだが、それらをトライアンドエラーで解決しながら完成度を高めていくという現場の柔軟性と粘り強さに感銘を受けた。
 今回の見学を通して、「すべてを機械化すれば生産性が上がる」という単純な考えを改めることになった。現場の方から伺った「ROI(投資対効果)」の視点に基づく設備投資の判断は、限られたリソースを最大限に活用するという製造業経営の本質を突いており、今後のキャリアを考える上でも非常に重要な学びとなった。さらに、Q-upシステムによってオーダー単位で不良の原因を即時に追跡できる仕組みが導入されており、生産性と品質の両立を支える強力な基盤となっていることが分かった。AIについては現時点で導入されていないものの、現在はデータ収集段階にあり、将来的な活用に向けた基礎づくりが進められていると伺った。また、草津工場では「超多品種少量生産」を特徴としており、1日に500回以上の段取り替えが行われているという柔軟な生産体制にも驚かされた。大量生産から多様なニーズに対応する生産へとシフトする中で、こうした高度な対応力は日本の製造業の未来を切り拓く重要な要素だと感じた。
 現場見学の後の質疑応答では、中国市場の現実についても率直に語っていただき、グローバル市場における課題や競争の厳しさを実感した。中国では低価格商品が主流であり、少品種多量の生産体制が優位にある一方で、オムロンは多品種少量という特性を持ち、コスト以外の付加価値で勝負する必要があるという厳しい現実に直面していることを学んだ。中国製品の精度が向上している現在、差別化の難しさと戦略的な判断の重要性についても理解を深めることができた。

4.松下資料館(7月5日午前)
 最終日の7月5日午前は、松下資料館での学習となった。
 松下資料館は、京都市南区に位置する、パナソニック創業者・松下幸之助氏の経営哲学、人生観、社会観を体系的に学ぶことができる貴重な施設である。館内では、松下氏の生い立ちから事業の創業、「水道哲学」に象徴される理念までが映像や展示でわかりやすく紹介されていた。
 特に印象的であったことは、松下氏が「企業は社会の公器である」との考えを早くから掲げ、企業の社会的責任について真剣に考えていた点である。松下氏は、決して裕福とはいえない環境で育ちながらも商売を実践的に学びながら成長し、自らの事業を成功へと導いた人物である。そのような背景を持つ松下氏は、事業が順調に進むにつれて同業者や代理店の経営状況にまで思いを巡らせていた。「松下電器は人様の預かりものである」との言葉に象徴されるように、自社の利益のみを追求するのではなく、事業を通じて社会全体の発展に貢献することを企業の使命と捉えていた姿勢に、強い感銘を受けた。
 また、昭和恐慌の際に従業員の大量解雇を行わず、操業時間を短縮することで雇用を守ったエピソードや、「人材育成の心得十ヵ条」を定め、経営の根幹として人材育成を重視していた点からも、松下氏の「人を思いやる心」が一貫していたことがうかがえた。利益の追求にとどまらず、社会的責任・人材の育成・共存共栄といった理念に基づく経営姿勢は、現代にも通じる普遍的な価値を持っていると感じた。
 今回の見学は、経営を学ぶ学生として、企業の存在意義や経営者の役割について考える大きなきっかけとなった。今後の学習や将来のキャリア形成において、松下氏の思想を参考にしていきたいという思いを募らせるきっかけとなった。


以上

佐々木 聡 専任教授