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ジェンダーセンター

特別講演会『企業トップの考えるダイバーシティ・マネジメント』開催報告

2025年11月13日
明治大学 情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター

2025年10月20日(月)
特別講演会『企業トップの考えるダイバーシティ・マネジメント』

【登壇者】
翁 百合氏((株)日本総合研究所 シニアフェロー)
日本銀行入行後日本総合研究所に移り、主席研究員などを経て2018年から25年6月まで理事長を務める。同年7月より現職。
エコノミストとして金融システム、社会保障、経済政策について分析、中長期視点から提言を続けている。現在慶應義塾大学特別招聘教授も兼任。産業再生機構産業再生委員、規制改革会議委員、「選択する未来2.0」懇談会座長、内閣官房「新しい資本主義実現会議」構成員などの政府委員も歴任、23年より政府税制調査会長。著書に『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社)など。第一回日本経済新聞社 円城寺次郎記念賞受賞(2006年)。

後藤佐恵子氏(はごろもフーズ株式会社 代表取締役社長)
スタンフォード大学経営大学院修士課程修了。味の素、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、2004年にはごろもフーズ入社。サービス本部長、経営企画本部長などと歴任し、2019年10月に代表取締役社長に就任。
2031年の創業100年に向けて“キッチンで最も愛されるブランドの確立”のため、お客様ニーズに応える新製品の開発に注力。自身の経験からワークライフバランスの推進に取り組み、「時差出勤」や「時間単位の有給休暇取得」などの制度を導入。従業員エンゲージメントを高め、社員全員にとって働きがいのある会社をめざす。


【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【日時】2025年10月20日(月)15:20~17:00(15:00開場)
【会場】明治大学駿河台キャンパス リバティタワー 1156教室
【企画・ファシリテーター】牛尾奈緒美(情報コミュニケーション学部教授、ジェンダーセンター長)
【来場者数】75名

【報告】牛尾奈緒美
 明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンターは、2025年10月20日、駿河台キャンパス・リバティタワー1156教室にて、特別講演会「企業トップの考えるダイバーシティ・マネジメント」を開催した。本企画は、人種・性別・性的指向・障がい・年齢・価値観・経験など、多様な個性を尊重し、それを組織の力として活かす「ダイバーシティ・マネジメント」をテーマに、企業経営者や専門家を招いて議論を深めるシリーズであり、今回で8回目となる。
 本会には、株式会社日本総合研究所シニアフェローの翁百合氏、はごろもフーズ株式会社代表取締役社長の後藤佐恵子氏の2名をゲストとして迎えた。両氏による講演に続き、ジェンダーセンター教員を交えたディスカッション、そして参加学生との質疑応答が行われ、多様な視点から日本社会におけるダイバーシティ推進の現状と今後の課題が語られた。
 まず翁氏は、日本銀行勤務を経て長年エコノミストとして活躍してきた立場から、日本が直面する人口減少および労働力不足の構造的問題を提示した。特に、生産年齢人口の減少が避けられない状況下で、付加価値生産性をいかに維持・向上させるかが重要であると指摘。そのためには「人材への投資」が不可欠であり、「人件費はコストではなく投資である」と強調した。また、税制により配偶者の年収上限に働き方を合わせる現状、長時間労働文化、育児期のキャリア中断など、日本社会に根強く残る制度的・慣習的な要因が、女性の能力発揮を妨げていると指摘。女性の教育水準が高いにもかかわらず十分な活躍に結びついていない現状は、日本の大きな「潜在力の損失」であり、社会保障制度を含む抜本的な改革が必要であると述べた。
 続いて後藤氏は、2019年に同社初の女性社長として就任した自身の経験を踏まえ、企業内部から見たダイバーシティ推進の実践について語った。はごろもフーズでは、女性社員のキャリア形成を支援する女性リーダー研修や、管理職候補層を育成するHG職制度の導入、男性の育児参加を促す制度整備など、具体的な取り組みを継続してきたという。特に、社員による「育児休業体験談の掲示」は、制度の理解促進だけでなく、職場全体の意識改革を促す効果があると述べた。「男女関係なく個人としての視点や働き方を尊重することが大切」「百点を目指さず六十点でもよい」「仕事を辞めないことに意味がある」という言葉には、働く人々への現実的かつ温かいメッセージが込められ、会場の共感を呼んだ。
 質疑応答では、学生から「女性が新卒から望むキャリアを築くために必要なこと」「教育制度はどのように変わるべきか」など、多様な質問が寄せられた。後藤氏は「男性の意識が変わらなければ社会は変わらない」と述べ、企業のみならず社会全体で価値観をアップデートする必要性を強調した。参加者からは、実務経験に基づいた具体的な助言に勇気づけられたという声が多く聞かれた。
 ある参加者は、今回の講演を通じて日本のダイバーシティ推進の現状と課題を再認識したと感想を述べていた。女性の働き方を制限する構造、長時間労働文化、育児期のキャリア中断など、社会制度の見直しの重要性に加え、企業ができる具体的なアクションを学ぶ機会になったという。また、社会のトップで活躍する女性の存在は、学生自身の将来への励ましにもなったと語り、「これからは自分も社会の変化を担う一員として、より主体的にキャリア形成に向き合いたい」と述べる者もいた。
 本講演会は、多様性尊重の理念を社会に広く浸透させるために、制度と文化の両面からアプローチする重要性を改めて示す機会となった。今後も学生と社会をつなぐ学びの場として、ダイバーシティに関する講演・研究活動を継続的に展開していきたい。

講演する翁氏講演する翁氏

講演する後藤氏講演する後藤氏

前列左から翁氏、牛尾教授、後藤氏と、牛尾ゼミ生一同前列左から翁氏、牛尾教授、後藤氏と、牛尾ゼミ生一同

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