フランス女性誌とは、他国のものと同様、週間、月間に発表される、そのとき限定の女性にとって価値のある情報の詰まった、そして、その時が過ぎてしまったら読み捨てられる運命にある媒体であり、限られた図書館でしか通年的に保管はされていない。このことを裏返して考えてみると、女性誌を通史的に考察していくとは、まさにその時代、時代の社会状況、風俗、女性、ジェンダーの様子が色濃く反映されている貴重な情報源ということになる。確かに、写真等著作権のきれた女性誌の電子化がフランス国立図書館で進み、また昨今各有名女性誌が電子版を発行し始めてはいるものの、その両方にも当てはまらないフランス女性誌も多くあり、それを通史的に現物の資料を収集し、考察するということは非常に困難な作業である。すなわち、女性誌とは時代を知る重要な資料でありながらそれを系統立てて資料を見ることは非常に難しいメディアなのである。報告者である江下雅之教授は、社会ネットワーク論、メディア史を専門とされ、長く研究滞在をされていた地、フランスの入手困難な女性誌という貴重な資料の収集を進めながら、そのフランスにおける女性誌史という貴重なご研究をされている。
氏によると、フランス革命は制度面のみならず人々の価値観を大きく変容させ、そのなかで新聞や雑誌などメディアが発達し、女性を主たる読者とする女性誌が発達したのものその時期であり、女性誌の変遷は社会変化を反映しているという。フランス革命の経緯は明治維新を経験した日本社会と比較でき、また、第二次世界大戦は日本社会と同様にフランス社会にとっても大きな転換点となるなど、日仏の社会変化の歴史には共通点が見出されるとし、研究会では、まず18世紀から現代に至るまでのフランスにおける女性誌の歴史を概括し、続いて1960年代後半以降の市場構造の相違を含めて日本と比較することにより、両者の特徴的な状況を考察された。
氏はまずフランス女性誌史の大枠を保守性と政治性に二極化する黎明期、運動から消費へと転換が進む拡大期、復活後に陳腐化する黄金期~暗黒期、読者層のセグメント化が進む転換期の4期に分け提示された。①極端に貧弱だった庶民の衣食住、②布地屋と仕立屋の徹底的な分業体制、③女性ではなく男性がモードの主役、④限定かつ偏在的な出版物の受容といった女性誌に関わるフランスの社会状況として特徴を有した大革命以前と比べ、黎明期にあたる大革命後は、①フランスの当時の社会状況として、②有閑層向け雑誌が伝統価値観を補強、③生活向上と都市化で雑誌への関心拡大、④7月~2月革命間のフェミニスト誌台頭、新しい読者層に急進的なテーマが浸透という特徴がみられるとする。また、第二帝政後の女性誌の拡大期には、①交通と通信技術の発達でプレスが飛躍、②町中に躍り出た女性が需要を一層拡大、③富裕層以外の一般女性がマス市場を形成、④今日的な女性誌の主要な領域が勢ぞろいしたと考察する。また、女性誌の絶頂期から暗黒期にあたる戦後から五月革命時は、①新女性と保守的な女性とが共存し、②5月革命前後には先進的雑誌の陳腐化、③伝統的な実用大衆紙は時代遅れの烙印を押され、④経済危機と新メディアとの競合が圧迫したと分析を提示されている。そして、マーケティングの時代であるとする女性誌における転換期は、①もはや100万部の発行は実現が困難、②闘争的な段階が過ぎ個性尊重の方向、③カテゴリのセグメント化による多様性進展、④オリジナリティや高級感がキーワードであるとしている。さらにインターネットの出現に牽引される高度情報社会を迎えた今日では、フランスでもかつてのような紙媒体のみならず、ファッションブログ(blog de mode)の時代に突入しているとし、フランスにおける女性誌の歴史を入手困難な貴重な資料である女性誌を提示しながら示された。
フランスの女性誌を研究対象とする場合、モードに関する語彙の記号論的調査、女性性形成における女性誌の役割に関するフェミニズム的観点からの調査などみられるが、氏の研究のように21世紀現代のブログまでを射程にいれて社会を映し出す鏡としてフランス女性誌の通史をみたものは数少なくメディア史研究において重要な役割を担うと同時に、社会風俗調査資料としてのフランス女性誌の価値の再評価を示す貴重な論考であるといえるだろう。