Go Forward

研究プロジェクト 2010年度

A「多様な人材の力を生かす企業におけるリーダーシップ」

牛尾奈緒美
 研究課題は大きく分けて5つに分けられる。
1.企業における女性社員の登用や多様な人材管理に関する事例研究・文献研究
2.日本企業の人材管理の在り方とジェンダーとの関連性について文献研究
3.女性社員のキャリア形成についての定性的研究
4.大学生の就職行動と若年従業員の就業意識についての実証研究
5.ダイバーシティー・マネジメントに取り組む企業における人材管理のあり方、リーダーシップと人材育成についての研究
 まず、1つ目は、近年の労働力人口の減少に伴い、これまで企業組織において中核的位置付けがなされることのなかった人材(女性や高齢者、若年者、外国人)の登用問題が新たな経営課題として浮上してきた。具体的には、女性社員の積極的活用を推進するためのポジティブ・アクションや、人材の多様性管理(ダイバーシティー・マネジメント)の導入といった新たな取り組みがいくつかの先進企業の間で取り入れ始められている。こういった流れを事例として研究する一方、その意義について理論研究を行っている。2つ目は、伝統的な日本的雇用慣行の在り方とジェンダー意識との関連性について、社会学的視点から文献研究を行っている。3つ目は、企業の管理職層に昇進した女性従業員に対して、インタビュー調査を実施し、女性自身のキャリア形成上の課題や、企業として女性をいかに有効に活用していくかについての研究を行っている。4つ目は、大学生の就職活動や、若年層の就業意識について大規模な質問紙調査を10年近く継続的に実施しており、企業の人材採用の有効性と若年社員の組織社会化の促進に寄与するための方向性を模索している。

B「イギリス男女同一賃金法に見る女性労働」

吉田恵子
 イギリスでは1970年代に男女同一賃金法や性差別禁止法が成立した。しかしそれから40年がたっても、賃金格差は80程度と、縮まってはいない。その理由をジェンダーの視点ではなく、女性の選択の結果とする研究があるが、それへの反論も含めて、この法律が効果を挙げ得なかった理由を、制定をめぐる社会状況の中に探った。とくに、この時期に重要性を増してきたパートタイム労働との関連性に注目をして考察をおこなった。
 この成果は「同一賃金法とパートタイム労働から見た戦後イギリスの女性労働」『情報コミュニケーション学研究』第10・11合併号 2011年に掲載予定である。

C「戦後ドイツにおける公共性とジェンダー」

水戸部由枝・ 出口剛司
 J. ハーバーマスの「公共性」概念は、1968年の運動と密接に関わって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。しかし、同時代のフェミニズム運動は、ジェンダー史研究の観点から見ると、1968年の運動やその公共性イメージに対するアンチテーゼという側面を有していた。本プロジェクトは、こうした公共性概念をドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおすことによって、可能性と限界を明らかにすることをめざす。

成果:
  本テーマの一部については、ドイツ現代史学会にて報告(水戸部)

現状報告:
  1970年代初頭から半ばにかけて急激に拡大した「新しい女性運動(第二波女性運動)」。 同運動内における親密圏・公共性に関する議論を整理し、それとハーバーマスの「公共性」概念との比較を試みた。その際、特に注目したのが、アメリカのラディカル・フェミニストによって叫ばれ、世界的な影響力をもったスローガン「個人的なものは政治的なもの(The Personal is Political)」である。この言葉は、近代の社会科学全体が前提としてきた公私の区分論を批判するもので、当時のフェミニズムは、私的領域である家族にも権力関係が存在し、それこそが公的領域(政治および市場・市民社会)での不平等と深くかかわっていることを告発したのである。  今後の研究では、こうした公私をめぐる議論について考察を深めると共に、同議論と1968年運動との関連性についても明らかにしていきたい。