2023年度
A「企業のダイバーシティ推進の実態調査」
牛尾奈緒美
今年度は、ロータリー国際大会がメルボルンで5月28日から5月31日まで開催されることに伴い渡豪し、現地に集う各地区ロータリーに所属する企業経営者や組織運営者と懇談、意見交換する機会を得て、各組織におけるダイバーシティ推進の実態や、現地社会の人種や性別等の多様性が経済発展に寄与している状況を見聞・視察することができた。また、ダイバーシティ推進に積極的に取り組む大手日本企業数社に対して大規模な従業員意識調査を実施し、回答をもとに実証研究を行い学会での発表や学術論文の執筆を行った。
B「欧州におけるファッション(服飾流行)とジェンダー表象に関する考察」
高馬京子
本プロジェクトでは、その時代のジェンダーをめぐる課題とも密接に関係しているといえるファッションとファッションを通して構築されるジェンダー・アイデンティティについて、フランスを中心に欧州におけるファッションに焦点をあて考察をおこなった。
ファッションはジェンダーをめぐる問題を映し出すと同時に、内在化しているその社会のジェンダーにかかわる問題を明るみにだし時には社会変革を起こす力ももつものである。そのようなファッションとジェンダーをめぐる課題の関係性について社会的背景と関連付けて検討することを研究課題とする中、本プロジェクトとしては、その基礎研究として、歴史的変遷について考察をおこなうこと、また現代の欧州のファッションとジェンダーの関係について明らかにするため、講師に仏・ソルボンヌ・ヌーヴェル大学メディア・文化・コミュニケーション学部教授のニック・リーズ=ロバーツ氏を招き、2023年11月9日、駿河台キャンパス・グローバルホールでシンポジウム「ファッションにおける失敗—ジェンダー、そしてデザインの否定芸術」を実施した。
C「生殖技術の進展と女性アスリートのライフコース変容」
竹﨑一真
本研究プロジェクトでは、スポーツ科学をフェミニズム視点から分析する「フェミニズム・スポーツ科学論」を手掛かりに、三つの事例について研究を行った。
第一の事例は、女性アスリートの月経管理アプリである。2021年に日本国内で女性の健康管理を行うテクノロジー「フェムテック」が注目を集めて以降、スポーツ界でも関心が高まっていた。なかでも月経管理を行うアプリは、チームマネジメントの重要な手段として認識され始めている。本研究では、スポーツ界における月経管理アプリに関するメディア言説の分析を行うとともに、実際に使用しているチームの監督へのインタビューを行った。その成果を、科学技術社会論学会の学会大会にて報告した。
第二の事例は、女性アスリートの卵子凍結である。女性アスリートの平均引退年齢は、男性アスリートに比べて早く、その背景には妊娠・出産という女性特有のライフコースがあるとされている。女性アスリートの持続可能なキャリア支援は、今日のスポーツ界において喫緊の課題である。そうしたなかで注目されているのが卵子凍結である。欧米におけるいくつかのスポーツ団体では、所属するアスリートが卵子凍結にアクセスしやすいような制度作りを行っている。そこで本研究では、欧米と日本のスポーツ界における卵子凍結をめぐる状況を整理し、欧米と日本の差異を分析した。その成果は、スウェーデンのウプサラ大学とのオンライン研究セミナーにて報告した。
D「ジェンダー・ノンコーフォーミングをめぐるパフォーマンス・アートの電子アーカイブ化」
大島岳
本研究では、古橋と親交があった東京を中心に活動するパフォーマンス・アーティストに焦点を当て、バイオグラフィーからジェンダー・ノンコーフォーミングと表現についての記録を保存し分析を行う。そのうえで、ジェンダー/セクシュアリティをめぐる日本社会の課題に対し、社会の周縁に置かれた者がどのように苦悩や希望を表現し他者とつながり、どのようなメッセージを発してきたかという個人に立脚した社会学的研究を行うことを目的とする。そのキックオフとなる本年度は、科研で行っている生活史の聞き取り調査と併行し、これまでの作品を収めたメディア(VHSビデオテープ)や紙媒体のフライヤー等が30年近く経過した現在、劣化ないし消失を防ぐ目的で、電子化をおこない基礎資料の一部整備を行なった。