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特別講義・上映会 2018年度

映画『カランコエの花』特別上映会・トークイベント

2018年6月27日(水)実施



左から中川駿監督/池田えり子氏/田中洋美氏/松岡宗嗣氏

【日時】2018年6月27日(水) 19:00-21:00(開場18:30)
【会場】明治大学駿河台キャンパス 
   グローバルフロント1階 グローバルホール 
【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
   一般社団法人fair
【後援】明治大学学生相談室
【概要】
●映画『カランコエの花』について
昨年の東京レインボーリール映画祭(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)グランプリ受賞をはじめ、多数の賞を受賞している本作は(グランプリ6冠、計11冠)、LGBTを取り巻く課題を「周囲の人々」の視点から描いています。40分の短編映画でありながら、高校生のリアルな心の葛藤を描き、LGBT当事者への向き合い方、社会のあり方について考えさせる作品となっています。

〜〜〜あらすじ〜〜〜
「とある高校2年生のクラス。ある日唐突に『LGBTについて』の授業が行われた。しかし他のクラスではその授業は行われておらず、生徒たちに疑念が生じる。『うちのクラスに LGBTの人がいるんじゃないか?』生徒らの日常に波紋が広がっていき…思春期ならではの心の葛藤が起こした行動とは…?」

【登壇者】
中川駿氏(本作品監督)
池田えり子氏(特定非営利活動法人ReBit事務局マネージャー/元高校教員)
田中洋美氏(明治大学情報コミュニケーション学部准教授)
松岡宗嗣氏(一般社団法人fair代表理事)
報 告:松岡 宗嗣(一般社団法人fair)
 2018年6月27日、筆者が代表理事を務める一般社団法人fairと明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンターの共催で「映画『カランコエの花』特別上映会・トークイベント」を開催した。ある高校2年生のクラスで行われたLGBTに関する授業をきっかけに始まる「LGBT探し」や、生徒たちのさまざまな葛藤を描いた映画「カランコエの花」を上映。その後、監督の中川駿氏、LGBTの子ども、若者を支援する特定非営利活動法人ReBit事務局マネージャーであり、元高校教員の池田えり子氏、情報コミュニケーション学部准教授の田中洋美氏、筆者の4名が登壇し、「周囲にできること」をテーマにパネルディスカッションを行なった。
  映画のキャッチコピーは「ただ、あなたを守りたかった」。LGBTに関する社会の認識の変化が過渡期と呼ばれるような現状の中、学校という閉ざされた空間の中で起こりうる高校生のリアルな心の葛藤を、当事者ではなく、周囲の人々の視点から鮮やかに描いた本作。
 善意でLGBTについて知識を伝えること、悪気なくセクシュアリティを揶揄すること、守ろうと思い否定すること、配慮とは、理解とは何か。友人、クラスメイト、家族、先生、さまざまな立場から「今まで見えてこなかった他者とどう向き合うか」を考えさせられる映画だった。 
 中川監督が本作を制作したのは2年前。LGBTという言葉を耳にして興味を持ったが、どう描こうか考えた際、センシティブなテーマだから、うかつに手を出したら誰かを傷つけてしまうのではと考え、映画仲間に相談した所、自分の中の潜在的な差別意識に気付かされたショックが制作のきっかけだったと語った。
 さらに、とあるゲイの当事者のブログを読んだ際、周囲の過剰な配慮に気づいたというのも本作を制作した一つのきっかけだったという。そのゲイの当事者は、自身のセクシュアリティをオープンにしていたが、周囲にカミングアウトした後、周りからはいつも「言ってくれてありがとう、絶対に誰にも言わないからね」と言われたという。
 本人の同意なく、第三者にセクシュアリティを暴露する「アウティング」は、本人のプライバシーの侵害にあたり、生命の危機に及ぶこともある。しかし、本人の意思を確認せず、勝手な決めつけで腫れ物扱いをすることでしんどさを感じる当事者もいる。監督は、そうした他者の画一的な「配慮」によって、当事者や周囲の人々が混乱する様子を描きたいと考えたという。
 池田氏は、高校教員時代、生徒たちに自身がバイセクシュアルであることをカミングアウトすることはできず、性の多様性について教えることもできなかったという。LGBTについても伝えることができればと思って学校に飛び込んだが、そのハードルは非常に高かったと語る。
 当事者として過ごした自身の高校時代を振り返ると、当時の先生から「女の子らしくしなさい」「将来はお父さん・お母さんとこんな家庭を築きます」という教育を繰り返し受けてきたことで、先生に対してセクシュアリティについて打ち明けることは難しかったと語った。
 田中氏は、自身が受け持つジェンダー論の授業で、LGBTだけでなく、社会に共存している自分と異なる他者と遭遇したときに、どう振る舞えるか、どのようにコミュニケーションをとれるかについて伝えているという。
 本作では、養護教諭が、ある1つのクラスだけでLGBTについての簡単な授業を実施することで、クラスに当事者がいるのではないかという憶測が広がっていく様子を描いている。騒動に対する養護教諭の対応も良いものではなく、田中氏は教員として見過ごすことはできないと語った。
 特に、学校という場で教員が持つ権力の大きさに言及。例えば、生徒や学生の前で話す際に、セクシュアルマイノリティの人がいるかもしれない。選挙の話をする際に、選挙権を持つことのできない人もいるかもしれないといった想定が必要だと語った。さらに、子どもたちの未来を委ねられ、「知」を伝える教員という立場だからこそ、定期的な新しい情報のインプットの必要性を訴えた。
 最後に、田中氏自身も感じていたという学校独特の息苦しさについて触れ、学校という場が子どもたちにとって楽しい場である一方、息苦しい場所にもなりうることに言及。誰もが居心地の良い環境づくりについて語った。
 上映後に参加者から映画に対する感想や質問を募集。映画に込められた思いや、LGBTについて学校でどのように教えたら良いか等、多岐にわたる質問が寄せられた。映画の上映とパネルディスカッションが、無意識の偏見でもなく、過剰な配慮でもない、「自分と異なる他者との向き合い方」について考えるきっかけとなることを願う。

舞台映像『幸福な職場』上映会・講演会

2018年6月22日(金)実施

講師:きたむらけんじ氏(本作演出・劇団東京フェスティバル)



きたむらけんじ氏(左)と細野はるみ教授(右)

【日時】2018年6月22日(金) 17:20-20:20(開場17:00) 
*映画上映(120分)後、きたむらけんじ氏による講演。
【会場】明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント1階 グローバルホール 
【主催】情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【後援】学生相談室

【概要】
高度成長期に向かう昭和30年代の日本。とある町工場で知的障害のある少女の職業体験を受け入れることになり、やがて従業員や経営者の内面には変化がもたらされる。彼らの交流は「障害」や「差別」、「働くこと」の意味を問いかけてくる。その後、会社は少女を従業員として採用し、日本の障害者雇用のさきがけとなった。2009年初演。2017年1月の舞台(世田谷パブリックシアター)の映像化作品。 
報 告:細野 はるみ(明治大学情報コミュニケーション学部教授)
ジェンダーセンターでは多様性の理解と共生社会の実現に寄与することを設立以来の目的の一つとしており、約2年前からは「ジェンダー」のほかに「ダイバーシティ」「承認」も加えて3つの項目をキーコンセプトとして掲げている。そうした問題提起をこめた企画として、2016年度には障害者とその周囲の人々を扱ったドキュメンタリー映画「ちづる」の上映会を実施した。今回はそれに次いで、やはり知的障害者を扱った舞台劇「幸福な職場」の映像化作品を通して、障害者をめぐる状況の理解への提言をめざした。
 2018年という年には、官公庁での障害者雇用の数値の水増し問題が軒並み表面化したり、旧優生保護法を根拠とした障害者の強制不妊手術の人権侵害問題が当事者たちから提訴されたりした。この作品はこうした問題点を先取りしたものとして、優れて問題提起的であると言える。
 1947年に議員立法で法案が出された優生保護法は、第二次世界大戦中の国民優性法が兵員増強を目的としていたのに対し、中絶を認めるなど、女性の産む権利を主眼としていた。しかし、障害者は身辺の自立が難しい、障害は遺伝である、障害者は障害者を再生産して治安上も問題である、などを根拠として、戦後のベビーブームに対する産児制限の必要もあり、知的のみならず視覚や聴覚の障害者までもが不妊手術を強制された。2018年にはかつて強制的に手術を受けさせられた当事者たちが相次いで人権侵害を告発する訴訟を起こしており、現時点でも注目すべき問題である。
また、現在では「障害者雇用促進法」や「障害者差別解消法」等で障害者の社会参加の促進は謳われてはいるが、現実の理解や施策などにはまだまだ問題が多い。現行法では一定規模以上の事業主には障害者を一定の割合で雇用する義務があり、できない場合は納付金を負担することとされている。官公庁などの雇用率は民間企業よりは高く設定されているが、実際は雇用者の数値が水増しされていたり、不適切な算定をしていたりする実態が次々と明らかにされた。雇用後の便宜上、身体障害者に比べて知的・精神・発達障害者の雇用が大幅に遅れているなどの内実もあるなど、昨今の経済低成長や働き方改革などの陰でゆがめられた実態も少なくない。ジェンダー問題やダイバーシティ問題への提言を標榜するジェンダーセンターでのこの作品の上映会の実施は意義あるものと考える。
作品中では、少女の恋心や結婚への夢など、一人の女性として当然抱く内面の思いも描かれ、障害当事者の視点も提示されている。また、誰もが当事者や当事者にかかわる立場になりうるとして、他人事ではなくすべての人に関係する問題としても取り上げられている。障害者の姿はとかく施設や家庭の中に押しとどめられ可視化されず、また社会に出ようとしても常に無力な存在としてしか受け入れられてはこなかった。こうした点にもスポットを当て、これからの障害者観をも問い直そうとしている。
 上演後、作者のきたむらけんじ氏にお話を伺った。同氏は放送作家としてラジオのニュース情報番組「JAM THE WORLD」(J-WAVE)などを手掛けるほか、「劇団東京フェスティバル」を主宰している。選挙、震災、米軍基地などといった深刻な社会問題を扱いながら、人間味あふれ、時にコミカルな部分も織り交ぜて、重要だが避けられがちな問題に知らず知らずのうちに目を向けさせる作品を生み出している。
「幸福な職場」は当初90分ほどの作品だったものを、知的障害者施設で元職員により入居障害者に対し大量の殺人・傷害が行われた2016年の津久井やまゆり園事件をきっかけに、「障害者は社会に対して不幸をしか作らない」という犯人の主張に対して、そのカウンターになるような要素を込めて120分の作品に再構成したという。そこで主人公のさとみの淡い恋心のエピソードが加わった。障害者もまた我々と変わらない一人の人間である、ということを強く気付かせる場面である。また、きたむら氏自身の初めて親になった経験と重ねあわされて、胎児性水俣病のトピックを媒介に、誕生直前のわが子がもし障害児だったらどう受け止めるかという観点を盛り込んで、当事者は決して限定された人々ではないのだというメッセージを明確にしたという。この作品は高校など学校で上演される場合も多く、こうした問題になじみのない若い人々にも無理なく多様性への理解を広げるきっかけになっていよう。
講演の後には会場からの質問や発言も多く、関心の高さがうかがわれた。