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研究プロジェクト 2017年度

2017年度

A「現代日本のメディアにおけるジェンダー表象と性規範の形成」

田中洋美・石田沙織
 本研究プロジェクトは、日本国内で出版されている雑誌や同人誌などの各種娯楽メディアにおけるジェンダー表象を分析するものである。主として、申請者がこれまでに扱ってきた商業雑誌(『an・an』等の女性雑誌)や腐女子と呼ばれる女性漫画ファンによって制作される漫画同人誌といったコンテンツを扱う予定である。そしてそれらのメディアテクストにおいていかなる形で男性、女性ないし男性身体・女性身体が描かれており、そこにはいかなる性規範の構築が見られるのかを検討する。またメディアにより形成されたそれらの諸規範・表象に対して、交渉や抵抗といった多様なリーディングを試みるオーディエンスがどのようにメディア内に還元されているのかも探る予定である。

B「女性専門職の過去,現在,未来」

吉田恵子・細野はるみ・平川景子・長沼秀明・岡山礼子・武田政明
 男女平等意識が浸透してきたと思われる21世紀の現在でも、女性の社会参画は必ずしも順調には運んでいない。社会的責任の重い立場の女性の割合は諸外国に比べて格段に低く、仕事と家庭の両立に悩む女性の問題も相変わらずである。
 本研究では近代社会確立期の日本における女性の専門職、特に医師・看護師・弁護士に焦点を当て、時代思想、社会情勢、文化的文脈などを総合的に分析・検討し、その形成と発展の歴史的背景を明らかにすることを目的とする。ここでは「専門職」を「高度の専門性と自律性に裏付けられた社会的地位の高い職業」と定義して、男性の職業と衝突する面、逆に女性であることが有利に働く面などにも注目する。背景としての幕末から明治・大正期という時代の諸相、すなわち戦争の多発や政治・経済・社会における近代化の進展とそれに伴う人々の意識の変革などの背景にも留意する。
 これらの専門的職業は公認の資格を要するため国家の介入は不可欠であるが、医療方面での医師や看護師は明治10年代よりその資格などが論じられたのに対し、法曹界での弁護士資格は大正デモクラシー期を経てからと、同じ専門職でも展開の時期は分野によって約半世紀の開きがある。また、これら女性の専門職の先駆者たちを生み出すに当たって、男尊女卑の伝統的観念から比較的自由でありえた男性の理解者の存在も無視できない。さらに、専門職に就くことを可能にするための教育の環境整備も不可欠である。そうした周辺の諸問題や時代の意味も問うていく。

C「女性誌研究会による女性誌の多角的研究」

江下雅之・川端有子
 日本、フランス、イギリス等で発行された少女雑誌、モード誌、主婦向け雑誌等の女性誌を対象に、そのコンテンツの特徴、表象、読者層等の分析を行い、女性誌の社会的・歴史的な役割を考察する。
 江下・川端は2016年度に女性誌研究会を主催し、毎回、人文学、社会学、経済学等を研究する研究者10名前後によるセミナー形式の研究交流を4回実施した。2017年度においても、同様の形式で数回の研究交流を実施したいと考える。また、これらのセミナーを踏まえた上で、研究発表会を実施することも計画している。

D「組織におけるダイバーシティー推進とその課題」

牛尾奈緒美
 2016年度同様組織におけるダイバーシティー推進は、組織の競争優位の確立や、利益拡大、組織全体の活性化や有効性を高めるなど、多くの意義があることが確認されている。
 しかし、同質的な組織価値観のもとで長年運営されてきた組織にとって、ダイバーシティー推進は容易ではない。推進の過程で生じる各種の組織的問題点や、成員間のコンフリクトなど、さまざまな課題について検討し、解決策を模索する。
 ダイバーシティーの具体例としては、女性、障害者といった伝統的組織における少数派と目される人々を対象とし、分析していきたい。

E「現代フランスと日本のメディア言説によって構築された規範としてのカップル像の自己/相互表象」

高馬京子 アメリ・コーベル
 本研究は、現代フランスと日本のメディア言説を通して、いかに規範となる「カップル」像が形成されてきたか、比較考察するものである。
 日本では、「フランス婚」(事実婚の意『実用日本語表現辞典』)といった言葉で語られるほど、日本と異なるフランスの特異性として、サルトル・ボーヴォワールの関係で知られるよう法制度ではなく、女性の自立に基づいた非婚関係の恋愛を重んじる事実婚といったカップルが多いというイメージが抱かれている。しかし、フランスでは、日本と異なり、カップルを結ぶ法的な形式として「結婚」だけではなく、「パックス(民事連帯契約法 )」(1999年)、「みんなのための結婚(同性婚)」(2013年)といった、様々な「選択肢」が提示されているにも関わらず、2015年12月に発表されたL'INSEE(フランス国立統計経済研究所)によると、フランスのカップルが選んだカップルの形態は結婚が最多で73%、ユニオン・リーブル(事実婚)23%、パックスは4%、また、日本の国税庁のデーターと合わせ見ると、フランスでは離婚も多いといわれながらも絶対数で比較すると日本の約2分の1という現実もあり、ある種イメージと現実のギャップが感じられる。
 本研究では、実際、このようなギャップの間で構築されたフランスの「カップル」像の役割について考察するために、日仏メディアにおいて、
1. 「規範」となるフランスの「カップル」像がいかに言説によって形成されてきたか
2.その「規範」は日仏社会にとっていかに必要とされたのか
3.それらを形成し、正当化するそれぞれの社会構造/言説編成体とはなにか
を考察する。本年度は特に、本研究の問題意識の下、具体的に、現代日仏において、カップルを題材として放映されているテレビ番組に着目し、日仏におけるカップルを描いたテレビドラマの歴史の変遷を比較調査しつつ、現代の日仏のテレビ番組において規範としてのカップル像が形成されているか、またそれに対し、視聴者、世論はどう意見を提示しているかについての言説分析を中心とした考察を行う。様々な形態がある中で今回テレビ番組を選んだのは、一般大衆向けにメディアが形成する現代の規範としてのカップル像形成を考察するには、テレビという大衆向けメディア、さらには以下に示すようにフランスの民放チャンネルで長きに渡り放映されているカップルに関する番組が、本テーマ課題を検討する上で相応しいと考えたからである。本研究を通して、日本との比較の下、フランスにおいていかなる規範としてのカップル像が描かれ、大衆向けに流布されてきたかを明らかにしたい。