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研究プロジェクト 2018年度

2018年度

A「現代日本のメディアにおけるジェンダー表象と性規範の形成」

田中洋美/石田沙織
 本プロジェクトは現代日本のメディアにおけるジェンダーイメージおよびジェンダー・セクシュアリティ規範の構築を分析するものである。今年度は雑誌、テレビ等のマスメディアから漫画同人誌、演劇や美術等の芸術作品、動画広告、ソーシャルメディアに至るまで様々な現代メディアのジェンダー問題を検討した。主に表象とオーディエンスの研究を行なった。
 その結果、主流メディアにおいては今も女性やセクシュアルマイノリティが象徴的に抹消・矮小化される傾向があるが、政府・自治体広報といった公的メディアや女性雑誌といった女性メディアを含む形で広く女性身体のセクシュアル化が起きていること、またセクシュアルマイノリティの描写が多様化していることがわかった。漫画同人誌に関する調査では、余暇を利用し二次創作活動に従事する女性達——「腐女子」と呼ばれる——の手になる作品およびその基となるオリジナル作品に見られるジェンダー表現・規範の分析に加え、最近増加しているオリジナル作品の「2.5次元舞台」が同人誌コミュニティに与える影響についても調べた。今年度は、今後本格的な調査を行うための予備調査として4名の女性を対象に聞き取り調査を行ない、二次創作同人活動の対象としている作品の舞台化により、原作作品の消費、および創作活動にどのような影響が見られうるのかを尋ねた(2018年7月及び11月実施)。動画広告やソーシャルメディアについては、性差別的な表現が持続していること、しかしながら従来メディアの受け手でしかありえなかった個人が発信できるようになり、ジェンダー視点によるアドボカシーが一定の影響を持つようになったことを検討した(例えば#MeToo等)。新しい言説空間にはリスクもあり、引き続き現状を捉え、そこに見られるチャンスとリスクを見極めることが求められる。今後の課題としたい。

B「少女雑誌の変遷に関する実証的研究」

江下雅之/川端有子
  明治から大正にかけて続々と創刊された高等女学校生徒向けの雑誌(いわゆる「少女雑誌」)は、当時の女学生たちの娯楽の供給源であった。実業之日本社発行の『少女の友』および大日本雄弁会講談社発行の『少女倶楽部』は、いずれも発行部数が数十万部に達していた。太平洋戦争の激化にともなって多くの雑誌は休刊を余儀なくされたが、『少女の友』および『少女クラブ』(改題)ともに戦争による中断を乗り越えた。しかし、『少女の友』は昭和30(1955)年に休刊となった。また、『少女クラブ』は昭和37(1962)年に休刊となり、かわって『週刊少女フレンド』が創刊された。昭和30年代は、平凡出版の『平凡』、集英社の『明星』などの娯楽雑誌が部数を拡大させるとともに、講談社の『週刊少年マガジン』、小学館の『週刊少年サンデー』などマンガを多々掲載する雑誌が相次いで創刊されるなど、十代を読者対象とする娯楽雑誌が大きく様変わりした時期でもある。少女雑誌もそのうねりから逃れることはできなかった。
 一方、昭和25(1950)年には月刊誌『女学生の友』が小学館より創刊された。それまで小学館は少女雑誌に分類される雑誌を発行していない。この雑誌もまた、同社が発行する雑誌群のなかでは『中学生の友』(昭和24[1949]年創刊)とおなじく学年誌に位置づけられたようだ。しかし、誌名、判型、構成等の点で同時期の『少女の友』『少女クラブ』との共通点は多く、読者層の点からも、少女雑誌とみなすことは可能だろう。
 そして同誌は昭和52(1977)年12月号まで月刊誌として発行を続け(1975年に誌名を『JOTOMO』に変更)、その翌月から『プチセブン』(創刊後しばらくの間は表紙に『女学生の友』を併記)という週刊誌にリニューアルし、こちらは2002年まで発行され続けた。『女学生の友』の変遷は、明治期以来の伝統的な少女雑誌の内容・構成が戦後どのような変化を迫られ、同時に、他の雑誌カテゴリにどのように派生したのかを示しているものと考えられる。このことを通じ、十代の雑誌読者が娯楽誌に求めた需要の構造的変化を捉えることができよう。
 こうした問題意識にもとづき、2018年度は『女学生の友』の主要連載記事、特集記事、読者投稿の整理を進めた。2018年度終了時点では、芸能情報への関心が1960年代後半に映画スターからアイドル歌手(外国のグループを含む)に移りつつあったこと、おしゃれに関する情報がほぼ同時期に増加傾向が顕著になったこと、男女交際への悩みや学校の規則に対する反発など、中学生・高校生の学校に対する不満が頻繁に取りあげられるようになったこと等、1960年代後半に大きな転換があったとみなせる材料が集まりつつある。2019年度においては、この点に関する詳細な裏づけ調査を進めたい。
 これらの分析結果は、2019年度前半に中間的な報告を研究会等の場で発表する予定である。 

C「組織におけるダイバーシティ・マネジメント」

牛尾奈緒美
 政府による「働き方改革」の推進や、女性活躍、障がい者の雇用促進、LGBTの雇用管理上の配慮、正規・非正規社員といった雇用形態による差別的雇用慣行の是正等の観点から、人材の多様性を積極的に高めていこうとする動きは加速している。こうした一連の流れは、多様な人材の能力を最大限に開花させ、属性による差別を排して応分の活躍を促すダイバーシティ・マネジメントの推進と同義であると理解できる。
 実際には、法令遵守や時流に乗り遅れないために取り組みを始めたばかりという企業もあれば、かなりの年月をかけて取り組みを深化させ、ダイバーシティの理念のもと組織風土やビジネスモデルを大きく変化させている企業も散見される。
 そこで、今年度は、ダイバーシティを企業経営の中核に据え多様な人材価値の結集により業績向上を実現する先進企業5社の経営トップを迎えた講演会を企画・実施し、その成果を事例研究として書籍化する計画を立てるとともに、教育的観点から動画教材の製作も行った。研究対象は、第一生命ホールディングス株式会社・第一生命保険株式会社 渡邉光一郎代表取締役会長、株式会社丸井グループ 青井浩代表取締役社長、株式会社ポーラ 横手喜一代表取締役社長、アクセンチュア株式会社 程近智相談役、株式会社ミライロ 垣内俊哉代表取締役社長である。ミライロを除く4社では、女性活躍を出発点にダイバーシティに取り組み始め、のちに障がい者、LGBT、外国人等へと対象を拡大させ、今日ではすべての人材に対して個々の多様性に着目した真のダイバーシティ経営へ舵を切ろうとしていることが明らかにされた。一方、社長自らが障がい者であるミライロは、マイノリティ人材の持つ価値こそが経営の強みとなりうる独自のビジネスモデル、「バリアバリュー」に基づく経営方針を掲げ、新たな視点からのコンサルティング業務で成功を収めていることがわかった。 

D「現代フランスと日本のメディア言説によって構築された規範としてのカップル像の自己/相互表象」

高馬京子/アメリ・コーベル
 今年度は、現代フランスと日本のメディア言説を通して、いかにフランスの「カップル」像が形成されているか、いくつかの事例を通して比較検討を試みた。
 まず、日本のメディアにおいてフランス特有のカップル形態として「フランス婚」という形がどのように紹介されているかについて考察した。日本では、「フランス婚」(事実婚の意『実用日本語表現辞典』)といった言葉で語られるほど、日本と異なるフランスの特徴として、女性の自立に基づいた非婚関係の恋愛を重んじる事実婚のカップルというイメージが多いとみられている。実際日本のメディアでも、2017年12月号の『クーリエ・ジャポン』の中でフランスを中心とする「愛のカタチ」特集が組まれたが、そこでは、フランスのカップルの事例として「お手軽『事実婚』、『PACS』で結婚のいいところどりをするフランスのカップル」、「24歳差『禁断の恋』の障壁を超えて仏ファーストレディになった『ブリジット・マクロン物語』」というように、お手軽な事実婚、禁断の恋、といったイメージが強調して選ばれていたり、漫画『じつはウチ、フランス婚 ~結婚してない、でも家族』(しばざき2008)の中でも「なぜフランスではフランス婚が常識なのだろうか」と記されており、その他『結婚という呪いから逃げられる生き方—フランス人女性に学ぶ』(岩本2017)、『フランス人は一割しかお嫁に行かない』(柴田2016)などその他一般の読み物の中でも結婚という形式をとらないフランス人女性をお手本に設定し日本人の結婚観に問を投げかける一般書、メディア記事が多く出版されている傾向がみられた。一方フランスにおいて『Francoscopie2030』によると、2014年の家族構成は、子供がいるいないにかかわらず51.4%がカップル、それ以外は一人親、一人暮らしであった。また、INSEEによると、2016年のPACSは15万組に対し、結婚は25万組と結婚の方が多い。また、フランスの民放テレビ番組のM6で放映される子供がいる80代、50代、30代の夫婦が登場する『Scène de ménages(夫婦喧嘩)』(調査対象期間はフランスで同性婚法が成立した2013年)は、ゴールデンタイムである20時25分から大衆に向けて放映されているが、公式フェイスブックの視聴者コメントをみていても、多くが、批判ではなく、登場人物達である夫婦や番組に対してadorer(大好きである)という語を用いたり、登場人物の名前を挙げて新年を祝う等友人のようにメッセージを送ったり、また「一番好きな夫婦と共に」「誰と一番似ているか」等がFACEBOOK公式ページでも視聴者向けに投稿され、その夫婦像に友人や視聴者を投影させる鏡のような形で提示している。このように、フランス社会で一般大衆向け「規範的」なカップル像として「夫婦」が提示されている事例もみられる。今回のように日仏のいくつかの事例にみるカップル像のずれからも、誰向けに提示しているかでそのカップル像は異なってくる可能性が示唆された。