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研究プロジェクト 2012年度

A「女性専門職の過去・現在・未来」

吉田恵子・細野はるみ・武田政明・平川景子・長沼秀明・岡山礼子
 近年日本は男女共同参画をめざす様々な政策を打ち出しながら、わが国の女性の社会参画は、諸外国と比べて必ずしも進んでいるとは言いがたい現状がある。本研究「日本における『女性専門職』の過去・現在・未来」の目的は、「女性専門職」に注目してその歴史をさかのぼり、現在にも通底する問題点を明らかにすることである。まず、女性専門職のパイオニアたる医師と弁護士を対象とし、その形成・発展過程を社会的・政治的・思想的状況の解明との連関で明らかにする。医師については、明治30年代・19世紀末葉以降の女性医師職創出への努力とその展開を、当時の政府・有識者およびメディアの女子教育に対する対応や女性に対する社会思潮などとのかかわりのなかで明らかにする。同様に女性弁護士についても、大正期・20世紀初頭以降の努力と展開を当時の社会的・政治的・思想的状況の中で解明する。この両者を比較検討することで、女性専門職がもつジェンダー視点での問題点の根源を探っていく。

B「多様な人材の力を生かす企業におけるリーダーシップ」

牛尾奈緒美
 女性、外国人など多様な人材の活用を積極的に行なう企業における人材管理のあり方やリーダーシップ、フォロワーシップについて研究するため、実際の企業現場に赴き、関係各氏へのインタビュー調査を行う。

C「戦後ドイツにおける公共性とジェンダー」

水戸部由枝・出口剛司
 J.ハーバーマスの「公共性」概念は、「68年運動(学生運動)」と密接にかかわって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。では、同時代の「新しい女性運動(第二波フェミニズム運動)」は、「68年運動」の意義やその公共性概念をどのように解釈したのだろうか。本プロジェクトでは、60年代~70年代に展開された「公共性」をめぐる議論を、当時女性運動が掲げたスローガン「個人的なものは政治的なもの(The Personal is the Political)」と摺合せつつ、ドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおすことによって、公私のボーダレスの可能性と限界を明らかにすることをめざす。

D「グローバル化とポスト工業化を背景とする現代日本のライフコース変容」

田中洋美・他(外部の研究者との共同研究)
 本研究は、近年の社会変動を背景に欧米・東アジアのポスト工業社会で起きている個人の生き方の変容についてライフコースとジェンダーの視点から分析するものである。

E「ギャルママのネットワーキング」

江下雅之
 1990年代に、若い母親たちによる育児サークルが形成される事例が相次いだ。
 その背景に若い母親たちの孤立がある。育児サークルは子育てノウハウの共有だけでなく、孤立した母親の交流を促すサロン的空間をも目指したのだ。他方、10代で妊娠出産を経験した母親たちは、このような空間からしばしば疎外されている。彼女たちはいわゆる不良に属する例が多く、その独特の表象や価値観、他の母親たちとの年齢階層の違いから、地域の育児サークルのメンバーとの親和性が薄いと考えられる。しかしながら、1990年代末には、暴走族のレディースOGによるヤンママ(ヤンキーママ)が「魔魅威天使」という連合組織を形成したように、疎外された者たちによる育児サークル化が進められた。現在はいわゆるギャルママが同様の動きを見せている。ギャルママたちのネットワーキングにみられる形成原理・拡大原理と一般的な育児ネットワークとの共通点と差異、さらにはヤンママ・ネットワークとの継承性について実証的な検証を進めていく。

F「東アジア社会における家族・親族の変容と女性のあり方」

施利平
 東アジアの日本、中国と韓国は現在いずれも少子高齢化社会に達し、現有の家族・親族制度と関係がこれらの社会変化に適応するように、変容が要請されている。その中で女性が次世代を再生産する性として、また家族・親族の主要なケアラーとして、社会と家族の双方から重用視されてきている。しかし、それと同時に多くの女性が高学歴を持ち、社会でも活躍するようになっている。女性の役割をめぐり、再生産の性と生産の性との軋轢、家族・親族のケアラーとしての役割と市場での労働者としての役割との軋轢が高まる気配もみせている。
 本研究は、グローバル化というコンテクストのなか、社会経済的にも人口学的にも大きな変化に直面している東アジアでは、家族・親族、とりわけその中の女性のあり方がいかに変容しているのかを文献研究と実証研究の双方からアプローチし、解明することを試みる。