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研究プロジェクト 2020年度

2020年度

A「組織におけるダイバーシティ・マネジメント」

牛尾奈緒美
今年度は、科研費の研究プロジェクト「企業の研究開発におけるジェンダー・ダイバーシティとパフォーマンス」(文部科学省 科学研究費基盤研究(C)(一般)研究代表者 牛尾奈緒美 令和2年度~6年度)に基づき、企業の研究開発部門の業績(同部門が発明する特許の質と量により評価)が、研究チーム内の人材多様性の程度とどのような関係性をもつのか、大量サンプルを用いて多変量解析を行い、いくつかの分析モデルを検出することで仮説検証を行った。組織内のダイバーシティ推進によるイノベーションの創出効果は既存の理論研究においても多数指摘されているところだが、特許に関する当該研究はこれまでになく、本研究の独自性を追求すべく来年度以降も継続的な調査研究を実施する予定である。本年度は、イノベーション・政策研究所(IIPR)主催の「イノベーションと政策研究」ワークショップにおいて、「発明者のジェンダーダイバーシティと特許の質」 の口頭発表を行った。
また、毎年筆者が企画とファッシリテーターを務め実施してきた大学主催による「企業トップの考えるダイバーシティ・マネジメント」を今年度はジェンダーセンター主催とし、ズームによるウェビナー形式で実施した。講師として、アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEOの安渕聖司氏,株式会社大和証券グループ本社取締役兼執行役副社長の田代桂子氏を招聘し、講演並びにパネルディスカッション、質疑応答にご対応いただいた。女性のキャリア形成、LGBTQs、障がい者支援等,多面的に人材多様性の価値について語られ、ダイバーシティ推進にあたっての問題点や具体的事例、経営者自身のキャリア形成に関する経験談など忌憚のない意見が出され、参加者との質疑応答においても有意義な議論が展開された。トップマネジメントのダイバーシティ推進に対する考え方や、組織全体にその価値観を注入するインクルージョンについて実務に基づく知見を収集でき、今後の研究に生かしていきたいと考えている。

B「オンラインメディア空間における自己表象によるジェンダーとファッション」

高馬京子
ファッションとジェンダーを研究するスーザン・カイザーは、ファッションとは、様々な境界(階級、国、ジェンダー、年齢、人種など)を超えて「私は誰になろうとするのか」、アイデンティティを構築する装置と述べている(kaiser2012)。ファッションという装置のほかにも、なりたい「私」になるために、ひとは、ダイエット、化粧、整形、性転換手術などを用い、さまざまなメディア等で提言されてきた自らがなりたい理想像に近づけるために身体を変容させてもきた。 現在、高度情報社会を迎え、インターネット上でのコミュニケーションが促進されている今日、ファッション情報は、それぞれオンライン上で多様に展開されるようになっていく。このようにメディアと時代の変遷とともに、ファッションを身に着けることで「なりたい私」はより実際の自分から遠くへ、より自由にその境界を超えることができるようになった。現在蔓延しているCOVID-19によりリアル・ヴァーチャル空間が混在することとなったポストインターネットとしてのデジタルメディア上ではこの傾向はさらに加速されているのではなかろうか。今日、このようなデジタルメディア空間で「私」を見せるために、ファッションはどのような役割を担うのか。そのファッションを纏うことでオンライン上でいかなる境界を越え、どんな「私」になろうとしているのか。オンラインメディア上で、社会的規範に囚われることなくより多様な個性的な「私」を自己表象できているのか?それとも、冒頭であげたカイザーの提言した「境界」を超えても、社会的規範ジェンダー像を再強化するにすぎないのであろうか。以上の諸課題を考察するための第一歩として、今日のデジタルメディア空間におけるファッションと自己表象との関係について、2020年度特にこのコロナ禍、新しいファッション情報が発進され、かつそのファッションを身につける実践の場を提供する最先端のファッション・メディアとしての「あつまれ動物の森」を事例に、ファッションを身に付けることでいかなるアイデンティティを形成するのか、について文献、および基礎調査をおこなった。その結果、①ファッション雑誌として、ブランドの広報・広告の場として、また着用者のアバターを用いてのファッションの実践の場としてのオンラインゲームの新しいファッション・メディアとして可能性があるということ②オンラインゲーム上で、プレイヤーがアバターという「身体」を入手することで現実の身体を「放棄」し、「私」がだれかを提示するということ、また、その際に、「私」を表すための装置としてファッションという物質面にのみ依拠する傾向が強かったということ、これにより、②アバターを用いることで性別、体形、年齢といった現実の身体に制限されはしないものの、そのアバターの特性に制限されたゲーム内の社会規範を選択し追従せざるを得ず、よりファッションという物質的なものでのみ「私」を明示する結果につながることを示唆した。これらを基にさらに研究をすすめたい。一部報告をFASHION STUDIES 主催Think of Fashion™ オンライントーク ♯03「ゲーム空間」と「ファッションとアイデンティティ」で行った(Think of Fashion™ オンライントーク ♯03 | FASHION STUDIES)。