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2018年度

A「現代日本のメディアにおけるジェンダー表象と性規範の形成」
田中洋美/石田沙織

 本プロジェクトは現代日本のメディアにおけるジェンダーイメージおよびジェンダー・セクシュアリティ規範の構築を分析するものである。今年度は雑誌、テレビ等のマスメディアから漫画同人誌、演劇や美術等の芸術作品、動画広告、ソーシャルメディアに至るまで様々な現代メディアのジェンダー問題を検討した。主に表象とオーディエンスの研究を行なった。
 その結果、主流メディアにおいては今も女性やセクシュアルマイノリティが象徴的に抹消・矮小化される傾向があるが、政府・自治体広報といった公的メディアや女性雑誌といった女性メディアを含む形で広く女性身体のセクシュアル化が起きていること、またセクシュアルマイノリティの描写が多様化していることがわかった。漫画同人誌に関する調査では、余暇を利用し二次創作活動に従事する女性達——「腐女子」と呼ばれる——の手になる作品およびその基となるオリジナル作品に見られるジェンダー表現・規範の分析に加え、最近増加しているオリジナル作品の「2.5次元舞台」が同人誌コミュニティに与える影響についても調べた。今年度は、今後本格的な調査を行うための予備調査として4名の女性を対象に聞き取り調査を行ない、二次創作同人活動の対象としている作品の舞台化により、原作作品の消費、および創作活動にどのような影響が見られうるのかを尋ねた(2018年7月及び11月実施)。動画広告やソーシャルメディアについては、性差別的な表現が持続していること、しかしながら従来メディアの受け手でしかありえなかった個人が発信できるようになり、ジェンダー視点によるアドボカシーが一定の影響を持つようになったことを検討した(例えば#MeToo等)。新しい言説空間にはリスクもあり、引き続き現状を捉え、そこに見られるチャンスとリスクを見極めることが求められる。今後の課題としたい。

B「少女雑誌の変遷に関する実証的研究」
江下雅之/川端有子

 明治から大正にかけて続々と創刊された高等女学校生徒向けの雑誌(いわゆる「少女雑誌」)は、当時の女学生たちの娯楽の供給源であった。実業之日本社発行の『少女の友』および大日本雄弁会講談社発行の『少女倶楽部』は、いずれも発行部数が数十万部に達していた。太平洋戦争の激化にともなって多くの雑誌は休刊を余儀なくされたが、『少女の友』および『少女クラブ』(改題)ともに戦争による中断を乗り越えた。しかし、『少女の友』は昭和30(1955)年に休刊となった。また、『少女クラブ』は昭和37(1962)年に休刊となり、かわって『週刊少女フレンド』が創刊された。昭和30年代は、平凡出版の『平凡』、集英社の『明星』などの娯楽雑誌が部数を拡大させるとともに、講談社の『週刊少年マガジン』、小学館の『週刊少年サンデー』などマンガを多々掲載する雑誌が相次いで創刊されるなど、十代を読者対象とする娯楽雑誌が大きく様変わりした時期でもある。少女雑誌もそのうねりから逃れることはできなかった。
 一方、昭和25(1950)年には月刊誌『女学生の友』が小学館より創刊された。それまで小学館は少女雑誌に分類される雑誌を発行していない。この雑誌もまた、同社が発行する雑誌群のなかでは『中学生の友』(昭和24[1949]年創刊)とおなじく学年誌に位置づけられたようだ。しかし、誌名、判型、構成等の点で同時期の『少女の友』『少女クラブ』との共通点は多く、読者層の点からも、少女雑誌とみなすことは可能だろう。
 そして同誌は昭和52(1977)年12月号まで月刊誌として発行を続け(1975年に誌名を『JOTOMO』に変更)、その翌月から『プチセブン』(創刊後しばらくの間は表紙に『女学生の友』を併記)という週刊誌にリニューアルし、こちらは2002年まで発行され続けた。『女学生の友』の変遷は、明治期以来の伝統的な少女雑誌の内容・構成が戦後どのような変化を迫られ、同時に、他の雑誌カテゴリにどのように派生したのかを示しているものと考えられる。このことを通じ、十代の雑誌読者が娯楽誌に求めた需要の構造的変化を捉えることができよう。
 こうした問題意識にもとづき、2018年度は『女学生の友』の主要連載記事、特集記事、読者投稿の整理を進めた。2018年度終了時点では、芸能情報への関心が1960年代後半に映画スターからアイドル歌手(外国のグループを含む)に移りつつあったこと、おしゃれに関する情報がほぼ同時期に増加傾向が顕著になったこと、男女交際への悩みや学校の規則に対する反発など、中学生・高校生の学校に対する不満が頻繁に取りあげられるようになったこと等、1960年代後半に大きな転換があったとみなせる材料が集まりつつある。2019年度においては、この点に関する詳細な裏づけ調査を進めたい。
 これらの分析結果は、2019年度前半に中間的な報告を研究会等の場で発表する予定である。 

C「組織におけるダイバーシティ・マネジメント」
牛尾奈緒美

 政府による「働き方改革」の推進や、女性活躍、障がい者の雇用促進、LGBTの雇用管理上の配慮、正規・非正規社員といった雇用形態による差別的雇用慣行の是正等の観点から、人材の多様性を積極的に高めていこうとする動きは加速している。こうした一連の流れは、多様な人材の能力を最大限に開花させ、属性による差別を排して応分の活躍を促すダイバーシティ・マネジメントの推進と同義であると理解できる。
 実際には、法令遵守や時流に乗り遅れないために取り組みを始めたばかりという企業もあれば、かなりの年月をかけて取り組みを深化させ、ダイバーシティの理念のもと組織風土やビジネスモデルを大きく変化させている企業も散見される。
 そこで、今年度は、ダイバーシティを企業経営の中核に据え多様な人材価値の結集により業績向上を実現する先進企業5社の経営トップを迎えた講演会を企画・実施し、その成果を事例研究として書籍化する計画を立てるとともに、教育的観点から動画教材の製作も行った。研究対象は、第一生命ホールディングス株式会社・第一生命保険株式会社 渡邉光一郎代表取締役会長、株式会社丸井グループ 青井浩代表取締役社長、株式会社ポーラ 横手喜一代表取締役社長、アクセンチュア株式会社 程近智相談役、株式会社ミライロ 垣内俊哉代表取締役社長である。ミライロを除く4社では、女性活躍を出発点にダイバーシティに取り組み始め、のちに障がい者、LGBT、外国人等へと対象を拡大させ、今日ではすべての人材に対して個々の多様性に着目した真のダイバーシティ経営へ舵を切ろうとしていることが明らかにされた。一方、社長自らが障がい者であるミライロは、マイノリティ人材の持つ価値こそが経営の強みとなりうる独自のビジネスモデル、「バリアバリュー」に基づく経営方針を掲げ、新たな視点からのコンサルティング業務で成功を収めていることがわかった。

D「現代フランスと日本のメディア言説によって構築された規範としてのカップル像の自己/相互表象」
高馬京子/アメリ・コーベル

 今年度は、現代フランスと日本のメディア言説を通して、いかにフランスの「カップル」像が形成されているか、いくつかの事例を通して比較検討を試みた。
 まず、日本のメディアにおいてフランス特有のカップル形態として「フランス婚」という形がどのように紹介されているかについて考察した。日本では、「フランス婚」(事実婚の意『実用日本語表現辞典』)といった言葉で語られるほど、日本と異なるフランスの特徴として、女性の自立に基づいた非婚関係の恋愛を重んじる事実婚のカップルというイメージが多いとみられている。実際日本のメディアでも、2017年12月号の『クーリエ・ジャポン』の中でフランスを中心とする「愛のカタチ」特集が組まれたが、そこでは、フランスのカップルの事例として「お手軽『事実婚』、『PACS』で結婚のいいところどりをするフランスのカップル」、「24歳差『禁断の恋』の障壁を超えて仏ファーストレディになった『ブリジット・マクロン物語』」というように、お手軽な事実婚、禁断の恋、といったイメージが強調して選ばれていたり、漫画『じつはウチ、フランス婚 ~結婚してない、でも家族』(しばざき2008)の中でも「なぜフランスではフランス婚が常識なのだろうか」と記されており、その他『結婚という呪いから逃げられる生き方—フランス人女性に学ぶ』(岩本2017)、『フランス人は一割しかお嫁に行かない』(柴田2016)などその他一般の読み物の中でも結婚という形式をとらないフランス人女性をお手本に設定し日本人の結婚観に問を投げかける一般書、メディア記事が多く出版されている傾向がみられた。一方フランスにおいて『Francoscopie2030』によると、2014年の家族構成は、子供がいるいないにかかわらず51.4%がカップル、それ以外は一人親、一人暮らしであった。また、INSEEによると、2016年のPACSは15万組に対し、結婚は25万組と結婚の方が多い。また、フランスの民放テレビ番組のM6で放映される子供がいる80代、50代、30代の夫婦が登場する『Scène de ménages(夫婦喧嘩)』(調査対象期間はフランスで同性婚法が成立した2013年)は、ゴールデンタイムである20時25分から大衆に向けて放映されているが、公式フェイスブックの視聴者コメントをみていても、多くが、批判ではなく、登場人物達である夫婦や番組に対してadorer(大好きである)という語を用いたり、登場人物の名前を挙げて新年を祝う等友人のようにメッセージを送ったり、また「一番好きな夫婦と共に」「誰と一番似ているか」等がFACEBOOK公式ページでも視聴者向けに投稿され、その夫婦像に友人や視聴者を投影させる鏡のような形で提示している。このように、フランス社会で一般大衆向け「規範的」なカップル像として「夫婦」が提示されている事例もみられる。今回のように日仏のいくつかの事例にみるカップル像のずれからも、誰向けに提示しているかでそのカップル像は異なってくる可能性が示唆された。

2017年度

A  「現代日本のメディアにおけるジェンダー表象と性規範の形成」
田中洋美・石田沙織

 本研究プロジェクトは、日本国内で出版されている雑誌や同人誌などの各種娯楽メディアにおけるジェンダー表象を分析するものである。主として、申請者がこれまでに扱ってきた商業雑誌(『an・an』等の女性雑誌)や腐女子と呼ばれる女性漫画ファンによって制作される漫画同人誌といったコンテンツを扱う予定である。そしてそれらのメディアテクストにおいていかなる形で男性、女性ないし男性身体・女性身体が描かれており、そこにはいかなる性規範の構築が見られるのかを検討する。またメディアにより形成されたそれらの諸規範・表象に対して、交渉や抵抗といった多様なリーディングを試みるオーディエンスがどのようにメディア内に還元されているのかも探る予定である。

B 「女性専門職の過去,現在,未来」
吉田恵子・細野はるみ・平川景子・長沼秀明・岡山礼子・武田政明

 男女平等意識が浸透してきたと思われる21世紀の現在でも、女性の社会参画は必ずしも順調には運んでいない。社会的責任の重い立場の女性の割合は諸外国に比べて格段に低く、仕事と家庭の両立に悩む女性の問題も相変わらずである。
 本研究では近代社会確立期の日本における女性の専門職、特に医師・看護師・弁護士に焦点を当て、時代思想、社会情勢、文化的文脈などを総合的に分析・検討し、その形成と発展の歴史的背景を明らかにすることを目的とする。ここでは「専門職」を「高度の専門性と自律性に裏付けられた社会的地位の高い職業」と定義して、男性の職業と衝突する面、逆に女性であることが有利に働く面などにも注目する。背景としての幕末から明治・大正期という時代の諸相、すなわち戦争の多発や政治・経済・社会における近代化の進展とそれに伴う人々の意識の変革などの背景にも留意する。
 これらの専門的職業は公認の資格を要するため国家の介入は不可欠であるが、医療方面での医師や看護師は明治10年代よりその資格などが論じられたのに対し、法曹界での弁護士資格は大正デモクラシー期を経てからと、同じ専門職でも展開の時期は分野によって約半世紀の開きがある。また、これら女性の専門職の先駆者たちを生み出すに当たって、男尊女卑の伝統的観念から比較的自由でありえた男性の理解者の存在も無視できない。さらに、専門職に就くことを可能にするための教育の環境整備も不可欠である。そうした周辺の諸問題や時代の意味も問うていく。

C 「女性誌研究会による女性誌の多角的研究」
江下雅之・川端有子

 日本、フランス、イギリス等で発行された少女雑誌、モード誌、主婦向け雑誌等の女性誌を対象に、そのコンテンツの特徴、表象、読者層等の分析を行い、女性誌の社会的・歴史的な役割を考察する。
 江下・川端は2016年度に女性誌研究会を主催し、毎回、人文学、社会学、経済学等を研究する研究者10名前後によるセミナー形式の研究交流を4回実施した。2017年度においても、同様の形式で数回の研究交流を実施したいと考える。また、これらのセミナーを踏まえた上で、研究発表会を実施することも計画している。

D 「組織におけるダイバーシティー推進とその課題」
牛尾奈緒美

 2016年度同様組織におけるダイバーシティー推進は、組織の競争優位の確立や、利益拡大、組織全体の活性化や有効性を高めるなど、多くの意義があることが確認されている。
 しかし、同質的な組織価値観のもとで長年運営されてきた組織にとって、ダイバーシティー推進は容易ではない。推進の過程で生じる各種の組織的問題点や、成員間のコンフリクトなど、さまざまな課題について検討し、解決策を模索する。
 ダイバーシティーの具体例としては、女性、障害者といった伝統的組織における少数派と目される人々を対象とし、分析していきたい。

E 「現代フランスと日本のメディア言説によって構築された規範としてのカップル像の自己/相互表象」
高馬京子 アメリ・コーベル

 本研究は、現代フランスと日本のメディア言説を通して、いかに規範となる「カップル」像が形成されてきたか、比較考察するものである。
 日本では、「フランス婚」(事実婚の意『実用日本語表現辞典』)といった言葉で語られるほど、日本と異なるフランスの特異性として、サルトル・ボーヴォワールの関係で知られるよう法制度ではなく、女性の自立に基づいた非婚関係の恋愛を重んじる事実婚といったカップルが多いというイメージが抱かれている。しかし、フランスでは、日本と異なり、カップルを結ぶ法的な形式として「結婚」だけではなく、「パックス(民事連帯契約法 )」(1999年)、「みんなのための結婚(同性婚)」(2013年)といった、様々な「選択肢」が提示されているにも関わらず、2015年12月に発表されたL'INSEE(フランス国立統計経済研究所)によると、フランスのカップルが選んだカップルの形態は結婚が最多で73%、ユニオン・リーブル(事実婚)23%、パックスは4%、また、日本の国税庁のデーターと合わせ見ると、フランスでは離婚も多いといわれながらも絶対数で比較すると日本の約2分の1という現実もあり、ある種イメージと現実のギャップが感じられる。
 本研究では、実際、このようなギャップの間で構築されたフランスの「カップル」像の役割について考察するために、日仏メディアにおいて、
1. 「規範」となるフランスの「カップル」像がいかに言説によって形成されてきたか
2.その「規範」は日仏社会にとっていかに必要とされたのか
3.それらを形成し、正当化するそれぞれの社会構造/言説編成体とはなにか
を考察する。本年度は特に、本研究の問題意識の下、具体的に、現代日仏において、カップルを題材として放映されているテレビ番組に着目し、日仏におけるカップルを描いたテレビドラマの歴史の変遷を比較調査しつつ、現代の日仏のテレビ番組において規範としてのカップル像が形成されているか、またそれに対し、視聴者、世論はどう意見を提示しているかについての言説分析を中心とした考察を行う。様々な形態がある中で今回テレビ番組を選んだのは、一般大衆向けにメディアが形成する現代の規範としてのカップル像形成を考察するには、テレビという大衆向けメディア、さらには以下に示すようにフランスの民放チャンネルで長きに渡り放映されているカップルに関する番組が、本テーマ課題を検討する上で相応しいと考えたからである。本研究を通して、日本との比較の下、フランスにおいていかなる規範としてのカップル像が描かれ、大衆向けに流布されてきたかを明らかにしたい。


2016年度

A 「女性専門職の過去・現在・未来」
細野はるみ・吉田恵子・平川景子・長沼秀明・岡山礼子・武田政明

 人は、だれでもがその能力と希望に応じて、その選択した職業を通じて、自己実現をはかり社会貢献をする。そのことによって、社会は、安定的に維持され発展の継続がなされる。したがって、職業の選択と遂行の場面において、必要な能力の獲得と自由な選択意思および円滑な遂行を阻害する要因となるものの分析は、きわめて重要である。このことは、現在でも数々の点で克服できていない女性の職業選択の自由および職業継続・遂行の阻害要因を根源的なところから除去する解決手段を考える際にも同様である。
 本研究は、かつては、女性が選択することができなかった、いわゆる女性専門職に注目し、女性がその専門職に就くために克服していった過程を、それぞれの時代ごとに、政治、経済、文化的背景等を十分に踏まえて総合的に研究する。本研究は、それぞれの阻害要因を多面的に解明することにより、歴史的研究にとどまることなく、成果が現在に直接生かされる研究となることを目指す。
 具体的な女性専門職としては、かつては就くことが認められていず高度な専門性と社会的有用性を有するという観点から、医療職としての医師と看護師、法曹職としての弁護士を取り上げ、異なる2つの領域の女性専門職を同様に対比させて研究することにより、異なる点等も明確にすることにより、深みと厚みを加えた総合的研究をする。

B  「メディアにおける男性身体・女性身体のセクシュアル化」
田中洋美・石田沙織

 ジェンダーとメディア研究では、1990年代以降、女性身体の性的モノ化の傾向が一層強まっていること、また女性身体のみならず男性身体もが性的なまなざしの対象とされるようになっていることが指摘されている。また2000年代以降は、こうしたメディア表象におけるセクシュアル化には、若い女性を中心に自己セクシュアル化の傾向が強まっていることも指摘されている。本研究プロジェクトでは、日本においても同様の傾向が観察されることを踏まえ、それを学術的に捉え、議論すべく、日本のメディアにおける身体表象のジェンダー分析を行う。
 分析にあたっては、ジェンダーとメディア研究の鍵概念のひとつである「セクシュアル化」(sexualization)に関する先行研究を参照し、その知見を踏まえて日本のメディアにおける男女の身体表象の特徴を実証的に把握することを試みる。特に日本ではまだ議論されていない男性身体のセクシュアル化と女性身体の自己セクシュアル化の二つを軸に考察したいと考えている。これらの作業を通して、ジェンダー表象に関する学術的な議論に新しい知見を加え、貢献することを目指す。
 なお分析データは、1991年に先駆的に男性ヌード特集を行ったことで知られる女性誌『an・an』の創刊号(1970年)から2015年末までに刊行された全ての号の表紙である。過去45年間のデータを網羅的に分析し、時代的推移と近年の動向を検討する。

C 「組織におけるダイバーシティー推進とその課題」
牛尾奈緒美

 組織におけるダイバーシティー推進は、組織の競争優位の確立や、利益拡大、組織全体の活性化や有効性を高めるなど、多くの意義があることが確認されている。しかし、同質的な組織価値観のもとで長年運営されてきた組織にとって、ダイバーシティー推進は容易ではない。推進の過程で生じる各種の組織的問題点や、成員間のコンフリクトなど、さまざまな課題について検討し、解決策を模索する。ダイバーシティーの具体例としては、女性、障害者といった伝統的組織における少数派と目される人々を対象とし、分析していきたい。

D  「戦後の女性誌がライフスタイルに及ぼした影響」
江下雅之・川端有子

 日本の女性向け雑誌、とりわけ主婦向けの総合誌と少女向けの娯楽誌は大正時代に部数を急拡大させた。この傾向は第二次大戦によって中断させられたが、戦後まもなく多くの女性向け雑誌が復刊あるいは創刊された。とりわけ戦後の洋裁ブームのなかで、服飾関係の雑誌の登場や、既刊誌におけるモード関係の記事の拡充が顕著であった。
 1970年以降は、ファッション誌が女性誌のなかで急成長を遂げる。かつて若い独身女性「おしゃれ」は不良の行動と見なされた時期もあったが、戦後世代の台頭により、おしゃれは徐々に若者のライフスタイルの重要な要素となってきた。この時点でおしゃれの情報源であり教科書役を担った媒体が雑誌である。逆に、雑誌は読者の嗜好や動向を探って誌面をつくっていた。両者は若者のライフスタイル形成において相互作用的な関係を維持していたのである。
 本プロジェクトにおいては、こうした相互作用的な関係を系統的かつ実証的に分析することを目指す。先行研究によれば、戦後ユースサブカルチャーは映画や雑誌の影響を強く受けていること、そして80年代以降は通年的な「若者文化」が成立しえず、徐々にユースサブカルチャーズが並立し、それに沿って雑誌の多様化が進んでいる。本研究においては、とりわけユースサブカルチャーズの並立過程に注目するとともに、ある世代集団が年齢を上昇させるにつれて確立するライフスタイルの変化にも着目し、いわば横方向と縦方向の系統において、いかなる雑誌がいかなるタイミングでいかなるサブカルチャーズと親和的であったのかを検証する。そのために、主要な雑誌の主要な年自分を収集し、コンテンツの整理と体系化を進めるものである。

E  「現代フランスと日本のメディア言説によって構築された規範としてのカップル像の自己/相互表象」
高馬京子 アメリ・コーベル(CORBEL, Amelie)

 本研究は、現代フランスと日本のメディア言説を通して、いかに規範となる「カップル」像を自己/相互形成されてきたか、比較考察するものである。
 日本では、「フランス婚」(事実婚の意『実用日本語表現辞典』)といった言葉で語られるほど、日本と異なるフランスの特異性として、サルトル・ボーヴォワールの関係で知られるよう法制度ではなく、女性の自立に基づいた非婚関係の恋愛を重んじる事実婚といったカップルが多いというイメージが抱かれている。しかし、フランスでは、日本と異なり、カップルを結ぶ法的な形式として「結婚」だけではなく、「パックス(民事連帯契約法 )」(1999年)、「みんなのための結婚(同性婚)」(2013年)といった、様々な「選択肢」が提示されているにも関わらず、2015年12月に発表されたL'INSEE(フランス国立統計経済研究所)によると、フランスのカップルが選んだカップルの形態は結婚が最多で73%、ユニオン・リーブル(事実婚)23%、パックスは4%、また、日本の国税庁のデーターと合わせ見ると、フランスでは離婚も多いといわれながらも絶対数で比較すると日本の約2分の1という現実もあり、ある種イメージと現実のギャップが感じられる。
 本研究では、実際、このようなギャップの間で構築されたフランスの「カップル」像の役割について考察するために、日仏メディアにおいて、
① 「規範」となるフランスの「カップル」像がいかに言説によって形成されてきたか、
② その「規範」は日仏社会にとっていかに必要とされたのか
③ それらを形成し、正当化するそれぞれの社会構造/言説編成体とはなにか
を明らかにするために、伝統的な媒体である新聞、雑誌、及びデジタル・メディア、また、外国人向け語学教材といった社会「規範」を国内外向けに形成・発信する役割をもつ日仏の様々なメディアにおける「結婚」「離婚」「恋愛」「家族」等に関する記事を資料体とし、日本の「カップル」像との比較も射程にいれつつ、そこで形成される規範としての日仏のカップル像の自己/相互表象を言説分析を通して考察する。


2015年度

A 「女性専門職の過去・現在・未来」
武田政明・吉田恵子・細野はるみ・平川景子・長沼秀明・岡山礼子

 人は、だれでもがその能力と希望に応じて、その選択した職業を通じて、自己実現をはかり社会貢献をする。そのことによって、社会は、安定的に維持され発展の継続がなされる。したがって、職業の選択と遂行の場面において、必要な能力の獲得と自由な選択意思および円滑な遂行を阻害する要因となるものの分析は、きわめて重要である。このことは、現在でも数々の点で克服できていない女性の職業選択の自由および職業継続・遂行の阻害要因を根源的なところから除去する解決手段を考える際にも同様である。本研究は、かつては、女性が選択することができなかった、いわゆる女性専門職に注目し、女性がその専門職に就くために克服していった過程を、それぞれの時代ごとに、政治、経済、文化的背景等を十分に踏まえて総合的に研究する。

B 「企業における女性の活躍推進に関する調査研究」
牛尾奈緒美

 女性管理職の増加に向けた取り組みが多くの日本企業で採用されるようになっており、いくつかの先進企業では、生え抜きの女性が執行役員などの重要ポストに抜擢されるまでになってきた。反面、企業組織には女性の就労継続や昇進に関して男性とは異なる問題が残存しており、その実態を解明し問題解決につなげていく努力が必要とされている。そこで、本研究プロジェクトでは、組織内で女性従業員が抱える就労問題や心理的ストレス、組織内の制度的問題点などについて調査研究を行っていく。研究にあたっては、大規模な質問紙調査による従業員意識調査や、インタビュー調査などを実施し、研究成果として発表する予定である。

C 「後期近代におけるジェンダー規範の変容と持続」
 田中洋美

 近代化の過程で形成された伝統的なジェンダー規範は、後期近代とされる現代社会においてもジェンダー関係の社会構造を根底から支える、いわば通奏低音のような役割を担っている。本プロジェクトでは、伝統的ジェンダー規範の変容に関わる女性の集合行為を考察する。今年度は二つの集合行為を取り上げる。反DV政策形成過程における女性の集合行為とメディア空間に見られる女性コミュニティである。後者では、LOHAS志向の女性(例えばヨギーニ)といった集団を取り上げる。今年度、新たなデータの収集を行う予定である。

2014年度

A 「女性専門職の過去・現在・未来」
武田政明・吉田恵子・細野はるみ・平川景子・長沼秀明・岡山礼子

 人は、だれでもがその能力と希望に応じて、その選択した職業を通じて、自己実現をはかり社会貢献をする。そのことによって、社会は、安定的に維持され発展の継続がなされる。したがって、職業の選択と遂行の場面において、必要な能力の獲得と自由な選択意思および円滑な遂行を阻害する要因となるものの分析は、きわめて重要である。このことは、現在でも数々の点で克服できていない女性の職業選択の自由および職業継続・遂行の阻害要因を根源的なところから除去する解決手段を考える際にも同様である。本研究は、かつては、女性が選択することができなかった、いわゆる女性専門職に注目し、女性がその専門職に就くために克服していった過程を、それぞれの時代ごとに、政治、経済、文化的背景等を十分に踏まえて総合的に研究する。

B 「企業における女性の活躍促進に関する調査研究」
牛尾奈緒美

 企業内の女性の活躍を促進することは、経営戦略上ますます重要な課題となってきている。しかし、その実現のためには多くの乗り越えるべき障害があり、組織文化の改革はもとより、人事制度の改革と適正な運用に向けての実践的対応など難題が山積している。本プロジェクトでは、これらの問題解決とITの効果的利用との接点について調査・研究を行っていく。また、女性社員の就業意識などについても調査を行っていきたい。

C 「戦後ドイツにおける『公共性』とジェンダー」
出口剛司・宮本真也・水戸部由枝

 ドイツの社会理論家J.ハーバーマスの「公共性」概念は、「68年運動(学生運動)」と密接にかかわって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。では、同時代の「新しい女性運動(第二波フェミニズム運動)」は、「68年運動」の意義やその「公共性」概念をどのように解釈したのだろうか。本プロジェクトでは、1960年代~70年代に展開された「公共性」をめぐる議論を、当時女性運動が掲げたスローガン「個人的なものは政治的なもの(The Personal is the Political)」と摺合せつつ、ドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおす。そのことによって「公的なもの」と「私的なもの」のボーダレスの可能性と限界を明らかにしていく。

D 「後期近代におけるジェンダー規範の変容と持続」
田中洋美・石田沙織・他

 近代化の過程で形成された伝統的なジェンダー規範は、後期近代とされる現代社会においてもジェンダー関係の社会構造を根底から支える、いわば通奏低音のような役割を担っている。本プロジェクトでは、伝統的ジェンダー規範の変容に関わる女性の集合行為を考察する。今年度は二つの集合行為を取り上げる。反DV政策形成過程における女性の集合行為とメディア空間に見られる女性コミュニティである。後者では、腐女子やLOHAS志向の女性(例えばヨギーニ)といった集団のオーディエンス分析を行う予定である。いずれの事例においても、これまでに一定のデータを収集しているため、今年度は入手済みデータの整理と分析ならびに必要に応じて新たなデータの収集・分析を行っていく。

E 「性別二元制を攪乱する女性アスリートの新聞報道分析」
高峰修・田中洋美

 スポーツ、特に競技スポーツの領域は、女性と男性を明確に区分して競技を行う性別二元制に基づいて成り立っている。女性と男性を区分する方法としては性別確認検査があり、一時期、オリンピック大会に出場する女性選手に適用されていた。時としてその性別二元制では区分されない競技者が登場する。最近では南アフリカの陸上競技選手であるセメンヤ選手や、韓国のサッカープレイヤーであるパク・ウンソン選手を挙げることができる。本プロジェクトでは、競技スポーツ界の性別二元制を攪乱してきた国内外の事例に着目し、そうした事例を国内メディアがどのように取り上げ報じてきたかを明らかにする。国内メディアは大手新聞三紙とし、対象期間は性別確認検査がオリンピック大会に導入された1968年から現代までとする。

F 「資本主義的近代化における不平等の編成」
宮本真也・出口剛司

 社会の進展を言い表す表現としての近代化(モダニティ)は、現在、まず第一に西洋的モデルにしたがってのみ語ることができないとされ、それぞれの社会、地域で見られる近代化のありようは、さらに細分化できる諸要素の編成であると言える。それぞれの近代化の特徴は、この編成のあり方によって差異をなしている。こうした選択的な近代という考え方を受け入れるにしても、多様な編成のなかでも広く現代社会において見いだせるものとして指摘できるのが、資本主義的近代化というあり方であるのだが、本研究においてはこのダイナミズムを特に象徴的な正当化秩序という観点から分析を加えたい。

2013年度

A 「女性専門職の過去・現在・未来」
吉田恵子・細野はるみ・武田政明・平川景子・長沼秀明・岡山礼子

 近年わが国でも男女共同参画をめざす様々な政策が打ち出されるようになった。にもかかわらず、女性の社会参画は、必ずしも進んでいるとはいえない。本研究「『女性専門職』の過去・現在・未来」は、「女性専門職」に注目してその歴史をさかのぼり、その形成・発展過程を社会的・政治的・思想的状況の中で明らかにして、現在にも通底する女性の社会進出をめぐる問題点を分析することを目的としている。まず、女性専門職のパイオニアたる医療職と法曹職を対象とする。医療については医師と看護師、法曹においては弁護士を取り上げ、これらの職業が女性の職業として開かれ、あるいは専門職として確立していく過程を探ることで、女性専門職がもつジェンダー視点での問題点の根源を探っていく。

B 「女性の管理職登用の促進についての研究」
牛尾奈緒美

 日本企業における女性の管理職比率の低迷は、男女雇用機会均等法の施行後30年近くたつ今日でもほとんど変わらず、改善の兆しが見えない状況にある。その一方、女性の労働力率の上昇や高学歴化、また、従来、家計の主たる担い手とされてきた男性の所得の低下に伴い、女性の就労が相対的に大きな経済的意味をもつようになってきた。また、企業にとっても、女性社員を基幹的な労働力として位置づけ彼女らのさらなる能力発揮の促進を図ることで、業績向上がもたらされるという認識が広がりつつある。本研究では、女性の戦力化や積極的な管理職登用を行う先進企業に対してインタビュー調査を行い、それらの企業に共通にみられる成功要因について考察するとともに、今後の女性管理職登用の推進に必要となる課題について検討を行っていく。

C 「戦後ドイツにおける公共性とジェンダー」
出口剛司・水戸部由枝・田中洋美

 J.ハーバーマスの「公共性」概念は、「68年運動(学生運動)」と密接にかかわって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。では、同時代の「新しい女性運動(第二波フェミニズム運動)」は、「68年運動」の意義やその公共性概念をどのように解釈したのだろうか。本プロジェクトでは、60年代~70年代に展開された「公共性」をめぐる議論を、当時女性運動が掲げたスローガン「個人的なものは政治的なもの(The Personal is the Political)」と摺合せつつ、ドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおすことによって、公私のボーダレスの可能性と限界を明らかにすることをめざす。

D 「後期近代における個人化とジェンダー変容」
田中洋美・他

 本研究は,近年の社会変動についてジェンダーの視点から考察するものである。特に性別分業に基づくジェンダー規範が人びとの生き方に大きな影響を与えてきたことを踏まえ、ライフコースの個人化や脱標準化がどのように起きており,それがジェンダー規範や性別分業の意識・実態の変化ないし持続とどう関連しているのかを検討し,個人の生き方の「脱ジェンダー化」がどこまで進んでいるのかどうか明らかにする。

E 「東アジアにおける世代間関係と家族形成(結婚や出産)との関連」
施利平・他

 東アジアの日本、韓国と中国はともに晩婚化と少子化に直面し、家族形成が困難な状況にある。これらの国々の晩婚化と少子化の原因として、強い家族主義的な価値観とジェンダー的不平等(中国の場合は異なるが)をあげられる。ジェンダー役割に関しては女性の家庭役割の重視、カップル関係よりは親子関係の優先、さらに家族・親族による相互扶助の原理が強固であることが家族主義的価値観の強い国々の特徴である。家族主義的価値観が女性の社会進出を妨げる一方、家族の形成(結婚、出産)を困難にしているとこれまでの研究でたびたび指摘されてきた。本研究では家族主義と世代間関係、家族形成との関連を概観したうえで、世代間関係がそれぞれ子世代の家族形成(結婚と出産)に及ぼす影響を事例研究と計量研究から明らかにする。

2012年度

A 「女性専門職の過去・現在・未来」
吉田恵子・細野はるみ・武田政明・平川景子・長沼秀明・岡山礼子

 近年日本は男女共同参画をめざす様々な政策を打ち出しながら、わが国の女性の社会参画は、諸外国と比べて必ずしも進んでいるとは言いがたい現状がある。本研究「日本における『女性専門職』の過去・現在・未来」の目的は、「女性専門職」に注目してその歴史をさかのぼり、現在にも通底する問題点を明らかにすることである。まず、女性専門職のパイオニアたる医師と弁護士を対象とし、その形成・発展過程を社会的・政治的・思想的状況の解明との連関で明らかにする。医師については、明治30年代・19世紀末葉以降の女性医師職創出への努力とその展開を、当時の政府・有識者およびメディアの女子教育に対する対応や女性に対する社会思潮などとのかかわりのなかで明らかにする。同様に女性弁護士についても、大正期・20世紀初頭以降の努力と展開を当時の社会的・政治的・思想的状況の中で解明する。この両者を比較検討することで、女性専門職がもつジェンダー視点での問題点の根源を探っていく。

B 「多様な人材の力を生かす企業におけるリーダーシップ」
牛尾奈緒美

 女性、外国人など多様な人材の活用を積極的に行なう企業における人材管理のあり方やリーダーシップ、フォロワーシップについて研究するため、実際の企業現場に赴き、関係各氏へのインタビュー調査を行う。

C 「戦後ドイツにおける公共性とジェンダー」
水戸部由枝・出口剛司

  J.ハーバーマスの「公共性」概念は、「68年運動(学生運動)」と密接にかかわって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。では、同時代の「新しい女性運動(第二波フェミニズム運動)」は、「68年運動」の意義やその公共性概念をどのように解釈したのだろうか。本プロジェクトでは、60年代~70年代に展開された「公共性」をめぐる議論を、当時女性運動が掲げたスローガン「個人的なものは政治的なもの(The Personal is the Political)」と摺合せつつ、ドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおすことによって、公私のボーダレスの可能性と限界を明らかにすることをめざす。

D 「グローバル化とポスト工業化を背景とする現代日本のライフコース変容」
田中洋美・他(外部の研究者との共同研究)

 本研究は、近年の社会変動を背景に欧米・東アジアのポスト工業社会で起きている個人の生き方の変容についてライフコースとジェンダーの視点から分析するものである。

E 「ギャルママのネットワーキング」
江下雅之

 1990年代に、若い母親たちによる育児サークルが形成される事例が相次いだ。
 その背景に若い母親たちの孤立がある。育児サークルは子育てノウハウの共有だけでなく、孤立した母親の交流を促すサロン的空間をも目指したのだ。他方、10代で妊娠出産を経験した母親たちは、このような空間からしばしば疎外されている。彼女たちはいわゆる不良に属する例が多く、その独特の表象や価値観、他の母親たちとの年齢階層の違いから、地域の育児サークルのメンバーとの親和性が薄いと考えられる。しかしながら、1990年代末には、暴走族のレディースOGによるヤンママ(ヤンキーママ)が「魔魅威天使」という連合組織を形成したように、疎外された者たちによる育児サークル化が進められた。現在はいわゆるギャルママが同様の動きを見せている。ギャルママたちのネットワーキングにみられる形成原理・拡大原理と一般的な育児ネットワークとの共通点と差異、さらにはヤンママ・ネットワークとの継承性について実証的な検証を進めていく。

F 「東アジア社会における家族・親族の変容と女性のあり方」
施利平

 東アジアの日本、中国と韓国は現在いずれも少子高齢化社会に達し、現有の家族・親族制度と関係がこれらの社会変化に適応するように、変容が要請されている。その中で女性が次世代を再生産する性として、また家族・親族の主要なケアラーとして、社会と家族の双方から重用視されてきている。しかし、それと同時に多くの女性が高学歴を持ち、社会でも活躍するようになっている。女性の役割をめぐり、再生産の性と生産の性との軋轢、家族・親族のケアラーとしての役割と市場での労働者としての役割との軋轢が高まる気配もみせている。
 本研究は、グローバル化というコンテクストのなか、社会経済的にも人口学的にも大きな変化に直面している東アジアでは、家族・親族、とりわけその中の女性のあり方がいかに変容しているのかを文献研究と実証研究の双方からアプローチし、解明することを試みる。

2011年度

A 「女性専門職の過去・現在・未来」
堀口悦子・吉田恵子・武田政明・平川景子・長沼・岡山礼子

 戦前において女性の専門職の先頭に立った医師と弁護士は、対照的な形で誕生した。男性の強い抵抗の中で生まれた医師と、男性の主導の下で生まれた弁護士とである。この2つに典型的に見られるように、女性専門職の誕生には当時の時代背景、教育制度のあり方などが大きくかかわっている。本研究ではこの2つの職業の誕生・発展をたどることで、女性の専門職誕生の背景およびその意義を探る。

B 「多様な人材の力を生かす企業におけるリーダーシップ」
牛尾奈緒美

 女性、外国人など多様な人材の活用を積極的に行なう企業における人材管理のあり方やリーダーシップ、フォロアーシップについて研究するため、実際の企業現場に赴き、関係各氏へのインタビュー調査を行う。

C 「イギリス男女同一賃金法に見る女性労働」
吉田恵子

 イギリスでは1970年代に男女同一賃金法あるいは雇用差別禁止法が制定されたにもかかわらず、40年近くを隔てた現在でも、賃金格差はそれほど縮まっていない。その原因はどこにあるのかを、これらの法律の制定過程をめぐる各関係階層の思惑、利害関係を明らかにすることで探っていく。

D 「戦後ドイツにおける公共性とジェンダー」
水戸部由枝・ 出口剛司

 J. ハーバーマスの「公共性」概念は、1968年の運動と密接に関わって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。しかし、同時代のフェミニズム運動は、ジェンダー史研究の観点から見ると、1968年の運動やその公共性イメージに対するアンチテーゼという側面を有していた。本プロジェクトは、こうした公共性概念をドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおすことによって、可能性と限界を明らかにすることをめざす。

2010年度

A 「多様な人材の力を生かす企業におけるリーダーシップ」
牛尾奈緒美 

  研究課題は大きく分けて5つに分けられる。
1.企業における女性社員の登用や多様な人材管理に関する事例研究・文献研究
2.日本企業の人材管理の在り方とジェンダーとの関連性について文献研究
3.女性社員のキャリア形成についての定性的研究
4.大学生の就職行動と若年従業員の就業意識についての実証研究
5.ダイバーシティー・マネジメントに取り組む企業における人材管理のあり方、リーダーシップと人材育成についての研究
 まず、1つ目は、近年の労働力人口の減少に伴い、これまで企業組織において中核的位置付けがなされることのなかった人材(女性や高齢者、若年者、外国人)の登用問題が新たな経営課題として浮上してきた。具体的には、女性社員の積極的活用を推進するためのポジティブ・アクションや、人材の多様性管理(ダイバーシティー・マネジメント)の導入といった新たな取り組みがいくつかの先進企業の間で取り入れ始められている。こういった流れを事例として研究する一方、その意義について理論研究を行っている。2つ目は、伝統的な日本的雇用慣行の在り方とジェンダー意識との関連性について、社会学的視点から文献研究を行っている。3つ目は、企業の管理職層に昇進した女性従業員に対して、インタビュー調査を実施し、女性自身のキャリア形成上の課題や、企業として女性をいかに有効に活用していくかについての研究を行っている。4つ目は、大学生の就職活動や、若年層の就業意識について大規模な質問紙調査を10年近く継続的に実施しており、企業の人材採用の有効性と若年社員の組織社会化の促進に寄与するための方向性を模索している。 

B 「イギリス男女同一賃金法に見る女性労働」
吉田恵子

 イギリスでは1970年代に男女同一賃金法や性差別禁止法が成立した。しかしそれから40年がたっても、賃金格差は80程度と、縮まってはいない。その理由をジェンダーの視点ではなく、女性の選択の結果とする研究があるが、それへの反論も含めて、この法律が効果を挙げ得なかった理由を、制定をめぐる社会状況の中に探った。とくに、この時期に重要性を増してきたパートタイム労働との関連性に注目をして考察をおこなった。
 この成果は「同一賃金法とパートタイム労働から見た戦後イギリスの女性労働」『情報コミュニケーション学研究』第10・11合併号 2011年に掲載予定である。

C 「戦後ドイツにおける公共性とジェンダー」
水戸部由枝・ 出口剛司

  J. ハーバーマスの「公共性」概念は、1968年の運動と密接に関わって発展し、今日、市民社会論や社会運動論の文脈で極めて重要な意義をもっている。しかし、同時代のフェミニズム運動は、ジェンダー史研究の観点から見ると、1968年の運動やその公共性イメージに対するアンチテーゼという側面を有していた。本プロジェクトは、こうした公共性概念をドイツ・ジェンダー史研究の視点から捉えなおすことによって、可能性と限界を明らかにすることをめざす。

成果:
  本テーマの一部については、ドイツ現代史学会にて報告(水戸部)

現状報告:
  1970年代初頭から半ばにかけて急激に拡大した「新しい女性運動(第二波女性運動)」。 同運動内における親密圏・公共性に関する議論を整理し、それとハーバーマスの「公共性」概念との比較を試みた。その際、特に注目したのが、アメリカのラディカル・フェミニストによって叫ばれ、世界的な影響力をもったスローガン「個人的なものは政治的なもの(The Personal is Political)」である。この言葉は、近代の社会科学全体が前提としてきた公私の区分論を批判するもので、当時のフェミニズムは、私的領域である家族にも権力関係が存在し、それこそが公的領域(政治および市場・市民社会)での不平等と深くかかわっていることを告発したのである。  今後の研究では、こうした公私をめぐる議論について考察を深めると共に、同議論と1968年運動との関連性についても明らかにしていきたい。