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特別講義・上映会 2023年度

特別講義「キャンディダ・ロイヤルと性の革命」

2023年6月8日(水)実施



質問に回答するカメンスキー氏

【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【共催】アメリカ学会、アメリカ歴史学者協会 (Organization of American Historians)
【後援】日米友好基金 (Japan-U.S. Friendship Commission)
【日時】2023年6月8日(木)18:00~20:00
【会場】明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1133教室
【担当運営委員】高峰修(明治大学政治経済学部教授)
【司会】兼子歩(明治大学政治経済学部准教授)
【使用言語】英語
【来場者数】31人
報告:兼子歩
 1950年代の冷戦下における同調圧力の時代を経て、1960年代は旧来的な秩序に対して異議を申し立てる多彩な社会運動が興隆したが、(第二波)フェミニズムやゲイ解放運動はその代表的な運動のひとつであった。1970年代には、ラディカル・フェミニストのなかから、ポルノグラフィが女性の男性に対する従属を創出し維持する根本的制度であると主張する反ポルノ運動が勃興する。他方には保守的なキリスト教道徳を掲げた右派勢力が、セクシュアリティを統制する目的から反ポルノを主張し、一部フェミニストと保守派が反ポルノで連合する状況も生まれた。
 カメンスキー教授は、この1960年代から70年代にポルノ女優として活動し、1980年代に映画制作側に転じてフェミニスト的ポルノ映画の制作会社を起業したキャンディダ・ロイヤル(Candida Royalle, 1950-2015)の伝記を来春に刊行予定であり、本講義ではその内容を紹介した。カメンスキー教授によれば、ロイヤルは反ポルノと搾取的なポルノ産業という二極とは異なる路線を目指した人物であり、彼女の取り組みを知ることは1960年代以降のいわゆる「性の革命」とは何であったのかを立体的に理解するために有益であるという。ロイヤルは少女時代から詳細な日記を継続的に記しており、他の文書と合わせて膨大な個人文書が死後にシュレジンジャー図書館に収蔵され、現在ではそのほとんどが公開され、ウェブ上でカタログも閲覧することができる。ロイヤルの個人文書からは、セクシュアリティを搾取する性産業に対する彼女の感情、家族関係の複雑さ、自己探究をめぐる彼女の苦悩や葛藤、制作会社の社長としての資金のやりくりなど、彼女のさまざまな側面をうかがうことができるが、カメンスキー教授はそうしたパーソナルな葛藤や苦闘を戦後のアメリカの社会・文化・政治・経済の歴史という文脈を理解するための窓として理解することの重要性を指摘した。
講演後の質疑応答におけるカメンスキー教授の丁寧な回答を通じて、ロイヤルとその時代に関する議論はさらに深められた。ロイヤルのポルノ制作の特徴──射精を映さず、女性の物象化を回避するために性器に焦点を当てず、性交の前後のコミュニケーションのシーンを重視した編集をおこなうなど──についての議論が深められた。また、ロイヤルは散発的に公民権運動やベトナム反戦のデモに参加したことはあるものの私的には非白人やユダヤ系などへの蔑視的発言が時折見られたこと(1950年にカトリックの白人労働者階級家庭に生まれ育ったことの影響は少なくないとカメンスキー教授は指摘する)、アフリカ系アメリカ人の監督と俳優を起用した作品が売り上げでは失敗したこと、ロイヤル制作のポルノは基本的にロマンティックで中流層的リスペクタビリティを保つ異性愛の男女を主人公としたものであり、また視聴者もおもに白人で中流層の異性愛主義の夫婦・カップルが念頭に置かれていたこと、それゆえにヘテロノーマティブな前提が彼女のポルノには反映していたこと(ただしカメンスキー教授は今日生きていれば、彼女の記録に残る言動から、同性婚の合法化は支持したであろうと推察している)など、ロイヤルと彼女の作品がもっていた時代的な限界もまた、質疑を通じて浮き彫りにされた。
ポルノをめぐる政治が、ジェンダーとセクシュアリティのみならず人種や階級といった諸要因が交錯する地点において作用するものであることを、カメンスキー教授の講演と質疑応答があらためて明らかにしてくれたと言えるだろう。
本講演の参加者には本学学部生が多かったが、通訳を入れず英語のみでのイベントであったにもかかわらず、学生たちから非常に積極的に質問が発せられ、当初予定の時間をオーバーするほどであり、学生たちのジェンダー・セクシュアリティをめぐる諸問題に対する関心の高さが表れていた。

特別講義『企業トップの考えるダイバーシティ・マネジメント』

2023年10月23日(月)実施

講演する松井氏 講演する伊井氏 牛尾ゼミ一同と、(前列左から)伊井氏、牛尾教授、松井氏

【講師】キャシー松井氏(MPower Partners ゼネラル・パートナー)
    伊井哲朗氏(コモンズ投信株式会社代表取締役社長兼 最高運用責任者)
【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【日時】2023年10月23日(月)15:20~17:00
【会場】明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1156教室
【ファシリテーター】牛尾奈緒美(情報コミュニケーション学部教授、ジェンダーセンター長)
【来場者数】100名
報告:牛尾奈緒美
 2023年10月23日、本センター主催により、特別講義「企業トップの考えるダイバーシティ・マネジメント」を駿河台キャンパス内リバティータワー1156教室で実施した。この講演会は企業経営者などを招き、本センターが定期的に開催しているもので、今年で6回目を数える。今回はMPower Partnersゼネラル・パートナーのキャシー松井氏と、コモンズ投信株式会社代表取締役社長兼最高運用責任者の伊井哲朗氏の2氏をゲストに迎え、両氏による講演と、筆者を交えたディスカッション、参加者との意見交換が行われた。
 松井氏は、ゴールドマン・サックス証券(GS)で副会長などを務め、「ウーマノミクス」を提唱したことで知られる人物である。当レポートは2013年以降の日本政府の掲げる「女性の輝く社会」を推進するための政策策定に大きな影響を与えてきた。GS退社後は2021年にベンチャーキャピタルファンド立ち上げ、スタートアップ支援の観点にダイバーシティ経営の推進を加えるなど独自の事業を展開している。これらの経験の中から、「日本のジェンダーランキングが低いままなのは、政治と経済のリーダー層に女性が少ないから。多様性がある企業はROEと収益性が上がる」とダイバーシティ・マネジメントの重要性を指摘した。
 伊井氏は、山一證券で営業戦略を担当し、退社後はメリルリンチ日本証券、三菱UFJメリルリンチPB証券を経て、コモンズ投信の創業に参画し現職に至っている。講演では、「パーパス経営が日本の大企業にも増えてきた。あらゆるステークホルダーを考慮できる企業は、長期の外部環境の変化に耐えられる」と主張した。その後、参加者との質疑応答が行われ、学生たちからは、実際の金融市場で投資家からのダイバーシティ経営の要請がいかに高まっているのか、女性管理職比率の拡大が現代の経営にとってどれほど価値のあるものなのか、など質問が寄せられ、本会は立ち見が出るほどの盛況のうちに終了した。